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第2章 主要人物として
第57話 「踊り子」
しおりを挟む「不気味な場所ですね……」
痩せた土地に到着した。
空は暗いし、地面が硬いし、常に冷たい風が吹いていた。
ここから後一回、転移術を使えばラケル師匠の故郷だ。
ただ、とてもじゃないが住めた場所じゃない。
一日もここで、次の転移発動可能時間を待つとなるとかなり辛い。
「こういった土地には多くの魔物が生息している。それもかなり危険性の高い個体がね」
「引き返すことは、もう出来ないんですよね?」
「引き返さないよ。寧ろ好都合だよ」
あっさりと否定してからラケル師匠は、ある方向へと視線を向けた。
師匠の視線を辿ると、その先には砂粒ぐらい小さな魔物がいた。
ここから遠い位置にいるからそう見えているけど、ラケル師匠の言う通り、すぐに魔物を発見してしまった。
「鍛錬するには打って付けだ」
ラケル師匠のニコと小さく笑ってから、指先から青い炎をボッと出した。
その瞬間、周りの魔力が乱れていくような感じがした。
青い炎は渦のように回り始め、次第に綺麗な青い球になりと、ボン!
空へと打ち上げられた。
「竜種には鋭い爪、牙がある」
上空を何メートルまで飛んだのかは分からないが、青い炎は段々と落下を始めた。
「しかし、奴らと対峙する際に一番注意になければならないのはブレス」
青い炎は先ほど捕捉した魔物に、吸い込まれるようにして落下。
数秒後、魔物に着弾した瞬間こちらに伝わるほどの衝撃が駆け巡った。
凄まじい、キノコ雲まで出来ている。
「炎だよ。君には遠距離炎魔術『竜雫《ドラゴン・ティア》』を覚えてもらうよ」
「ドラゴン・ティア……俺には難しいような……」
「この魔術は人化したかつての竜人族が生んだ、必殺の奥義と言われている。君の言う通り、ただの人間なら習得するには長い年月を費やさなきゃならないだろう。だが君は違う」
あ、そうか。
一応、俺にも竜族の血が流れている。
適応した魔術なら短期間で習得できるかもしれない。
「君は実質『竜人族』になったばかりの雛だ。長い間、君の父に頼まれて、力や衝動を長い間、封印していたからね」
「それも、そうですね……」
すぐには覚えられない。
その事実に落ち込む。
人間、そう簡単にゴールまでは飛び越えられないか。
「俺、頑張ってみますね。昔、ラケル師匠言ってくれたじゃないですか。地道なところが、君の良いところだって。今回も同じです、気長に、地道に頑張りますから」
拳を作り、自信満々に笑ってみせた。
地道とは言ったものの、悠長に鍛えてはいられない。
いつ刺客が襲ってくるのかも予測の出来ない状況にあることを自覚するんだ。
未完成でもいい、形だけでも完成させよう。
「その前に野営の準備をしようか。夜は寒くなるが魔術で温められるし問題はない」
「はい!」
その後、夜。
ラケル師匠に先ほどの魔術を真似するように言われる。
基本なら掴めている。
青い炎をイメージして、指先に魔力を集中させる。
「……あれ、おかしいな」
なのに、赤い炎が出来てしまう。
それも指先ではなく手のひらでだ。
慌てて手のひらを上に広げる。
「青い炎の総量となると、どうしても魔力が通常よりも多く必要になるからね。そう簡単に青い炎はできないか……」
「これ以上の火力をイメージしようとすると大惨事になる予感がして、どうしても躊躇っちゃうんです」
せっかく建てたテントも燃えそうで怖い。
「それを制御するのが今回の目標だ。慣れるまで続けること、そして私は寝る」
そう言いそそくさと自分のテントに入り、就寝するラケル師匠。
俺も寝ようかと思ったが、ラケル師匠の言葉を別の意味に解釈して、続けることにした。
そうだ、俺は魔力の制御自体が苦手だった。
だから赤より高い温度の青に近づけようと意識しても、途中で魔力が零れて青い炎に到達できない。
「わー、随分と面白いことしてるッスね兄さん」
声に振り返る。
茶の短髪、赤銅の瞳の踊り子のような少女がこちらを覗き込んでいた。
敵意は無いが、誰なのかは知らない。
なぜ、女の子が一人音沙汰もなく現れたのか。
瞬時に脳裏に一つの単語が浮かび上がった。
———女神、と。
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