婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー

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「おおおおい。待て!待てセシーヌ!」
私の足元でジタバタ喚いている人がいるので、パッと手を離して解放してあげました。

「んん~?どうちまちたかボクぅ~?一人で歩けるのお~?」
ここぞとばかりにからかうと、マーリンは顔を真っ赤にしましたが、さすがにこれ以上争うとろくなことにならないと学習したのでしょう。なんとか怒りを押し留めるように唸ると、やがてこう言いました。
「お前・・・・・・。何をたくらんでいる?」
「別に何も。さあ、早くしないと郵便局の人本当に帰っちゃいますよ。行きましょう。使用人の前での誓約は明日にしてあげます」
そう言い放って、返答を待たずに大股で厩のほうへ歩き出す私の後ろから、しばらく遅れてマーリンが着いてくるのでした・・・・・・。



ガタゴトと、どこか遠くで重たい車輪の音がします。
しかし、私はなぜかマーリンの研究室におりました。目の前ではマーリンがたくさんのビーカーや試験管を前に忙しく実験を行っています。私には仕組みはよく分かりませんが、マーリンが薄緑色の液体を一滴ビーカーの中へ落とすと、透明だったビーカーの中身はたちまち黄色く変化しました。

マーリンはそこで深い息を漏らし、ゴーグルを取って額の汗をぐいっと片手でぬぐいました。

「よし。今回のサンプルでも成功だ。ここまで何度も再現実験したんだからきっと大丈夫。この成分の効能をまとめて発表し、見事認可が下りれば必ず人類に素晴らしい利益をもたらすよ」
達成感に満ち溢れている彼を見つめながら、私は両手でマグカップを持ちホットミルクをごくりと一口飲みました。
「ねえマーリン。その実験、何百匹ものマウスからサンプルをとって、それぞれに配合も量も違う抽出液を加えて・・・・・・、っていうのを何度も繰り返したんですよね?地道な作業ですよね」
私の言葉に、マーリンは疲れた顔で頷きます。
「ああ。しかし、科学の発展というのはそういうものだ。先人たちも気の遠くなるような思考と実験を繰り返して、ようやく一つの輝かしい成果に辿り着くんだ。普通の人の目には自己満足と映ることもあるかもしれないが、こうして少しでも世のために寄与できたらと思う」
「・・・・・・」
「どうした?やはりこういうのは退屈だったか?」
「いえ。そんなことはありません。逆に、私こういった科学などの分野とは無縁の人生でしたけど、何だか見ているだけでとても好奇心をそそられてワクワクしますわ」
「はは。そう言ってくれると嬉しいな」
「ふふ」
マーリンは研究のこととなると子供みたいな表情をみせます。その笑顔につつまれながら、私はふと心に襲来したざわめきを覚えつつ、残りのホットミルクを飲み干すのでした。


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