夏の幻想

雫喰 B

文字の大きさ
26 / 29

25.

しおりを挟む
 数日後 ───

 私と明智、そして(何故か)一緒に行く事になった環七と澤渡は、田園風景の中を走る電車の中にいる。

 過ぎ去って行く景色をぼーっと眺めていた。

 隣に座る環七は、はしゃぎ疲れた子供のように眠っている。
 向かい側に座っている明智と澤渡は本を読んでいた。

 書店で付けて貰ったであろうブックカバーの所為で、何を読んでいるのかまではわからないが、ウェブで本を読む時代に紙の本を読んでいる二人。

 私もどちらかといえば紙で出来た本の方が好みではある。

 懐事情の所為で、ウェブで話読み(1話ずつ課金して読む事)する事が多いが……。
 過去に出版された本もあるので、それだけ読める本が多くなるのはありがたい事だと思っている。


 ─── と、話が逸れてしまった。

 この電車で向かっている先は、お盆シーズンに動画を撮影した場所で、私のご先祖様&祖父母の墓がある所だ。

 明智の話では、円珠君のお父さんと連絡が取れたので、序でに会って話をする事になっているとの事だった。

 円珠君の陰が無かったのは一カ所だけだったのでそれほど気にはなっていない。

 けれど、花絵ちゃんに関しては徐々に透けていって消えているので、話をするにしても実際に居るのかわからない。

 叶う事ならばもう一度、彼女花絵ちゃんに会いたい。

 だが、この時の私は彼女に会う事は叶わないのではないかと心の何処かで思っていた。

 取り敢えず、円珠君や円珠君のお父さんは実際に存在しているようで、それは良かったのだが、もしも会ってみて別人だったらどうしよう等と考え込んでいた。

 明智*「お~い、奏~、何ぼんやりしてんだよ。」

 そう言って明智が、私のほっぺたを指でツンツンと突っ突いてくる。

 環七*「呆れた…奏の傍に居ると構わずにいられなくなるみたいね。」

 いつの間にか環七が目を覚ましたたようだ。

 澤渡*「まるで保護者だな。」

 二人は何か変な物を見るような目で明智を見ている。

 明智*「っな!…奏も何か言い返せよ。」

 奏*「何が?何で?」

 景色に見惚れていた私は、自分の名前がいきなり耳に入ってきたものの、何を言われたのかわからなくて首を傾げて明智を見上げた。
 
 
 
 そんな遣り取りをしているうちに、電車がゆっくりとホームに入って行く。

 ローカル線は経費削減の為、ドアを開けるのは乗客である。

 でも、普段自分でドアを開ける事など無いので何となく楽しく思ってしまう。

 勿論、そのドアを閉めるのは運転手なのだが…。

 そういえば、幼い頃に初めて乗ったこの路線の電車は、最後尾の車両にデッキがあったなぁと懐かしく思った。

 今では見掛ける事も無いが…。
(デッキ付きの車両が走る路線がまだあったりするのだろうか?)

 いやいやいや、流石に無いだろう。

 そう思いつつもあったらいいなと思った。



 ホームに降り立った私達は、駅舎に向かい、あの洋館へと歩き出した。

 あの時は、お盆シーズンだったから暑かったけれど今は冬…。
 世間では暖冬だと言われているが、寒がりな私はそれでも寒い。
 時折吹く風に、肩を竦めてマフラーに顔を埋めようとする。

 さっきの電車での遣り取りがあった流れか環奈は澤渡と並んで歩き、どうやら“ 保護者認定 ”されたらしい明智は私の隣でむっつり黙ったまま歩いている。

 う~ん。なんか気不味い……。

 そして、洋館に着いた。
 ドアノッカーを握った澤渡が大きく息を吐き出した後、力を込めてドアを叩いた。

 重く大きな扉が左右に開かれ「お待ちしておりました。当館とうやかたへようこそ。」

 胸に手を当て礼をした後に上げた顔は、夏に見たのと同じイケおじ執事だった。

「「「「またお世話になります。」」」」

 私達がそう言うとイケおじ執事は、とても素敵な笑顔で応えてくれたのだった。

 ~~~~~~~

 *超遅亀更新&不定期更新にも拘わらず、いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます!

 *投票して下さった方々本当にありがとうございます!!
 
 *お気に入り、しおり、エールやいいね等もありがとうございます!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...