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21.ライアン・ガーネット④
しおりを挟む*思った以上に長くなり、申し訳ありません。
*【ライアン・ガーネット⑤】【ラフレシア・カーバイト⑤】の終わり辺りで、やっと本編に追いつく予定です。
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合同訓練に参加する先発組の到着日、側近の調査によって、俺に関する情報を流していた使用人を特定できた。
男爵やラフレシアにバレないよう、彼女が東部辺境伯領を出発した後(連絡が取れなくなるタイミングで)身柄を確保したとの報告が来たのだが、それと合わせて“ラフレシアが何かを企んでいるらしい”とその男から聞き出したという報告もあった。
今回の訓練は魔獣を相手にする可能性が高い為、要警戒態勢になる事が決まっている。しかも訓練の最中にラフレシアが何かを仕掛けるとあっては更に警戒が必要となる。
それが何か分かるまでラフレシアを泳がせるよりも、ハニートラップにかける方が得られる情報は多い上に速いだろう。
ハニートラップについては黒幕の存在を意識しだした頃から考えなくもなかったが、俺としてはやりたくなかったのだ。
(考えが)甘いと言われようとも、ニア以外の女にそういった行為をしたくはなかった。
だが、結果として後手に回る事になり、ラフレシアの思惑通りに人目の多い場所に連れ出され、ニアとの婚約も危うい状況に…。
そして、これまでの調査結果と彼女の動きから、裏で糸を引いている奴(黒幕)がいる事は間違いないとみている。
しかし、黒幕が何を目的として裏で糸を引いているのかがまるで分からない。
ただ、ラフレシアの意に従って動いている者と黒幕の意に従って動いている者、その両方が今回の訓練に紛れ込んでいると考えている。
そして、この合同訓練中に奴等の目的が達成されるのだろう。
恐らく、黒幕も自分の目で特等席から結果を見届ける為に紛れ込んでいる筈…。
事、此処に至ってはハニートラップを仕掛けるのもやむを得ないのだろうか。
胸の奥にジワジワと苦い物が滲み広がっていくようだった。
と、そこまで考えたところで馬車が止まった。
ラフレシアが宿泊していた宿に着いたようだ。
大きく息を吐き出し、吸い込むと笑顔を張り付け馬車の扉を開けて降りた。
「ライアン様ぁ~。」
いつもの鼻にかかった媚びるような声に、内心ウンザリしながらもアルカイックスマイルを心がけ、
「よく来たね。」
そう言った俺の腕に甘えるように手を巻き付けてくる。
怖気が走りそうになるのを、一瞬だけ感情を切り離して遣り過ごす。
そうでもしなければ無理だ。本当は手を振り払ってしまいたい。
領邸に戻るまでの馬車の中は、何の拷問だと言いたくなった。
馬車の中でラフレシアは俺の腕に体を擦り寄せ、ずっと喋り続けていた。
「連日、訓練の打ち合わせで睡眠不足だから、失礼して仮眠を取らせてもらう。」
いい加減ウンザリした俺は、相手をせずに済むように斜め向かい側に座り、腕を組んで寝たふりをする事にした。
だが、これは悪手だった。
暫く経って、俺の膝に何かが触れたように感じ、跳び上がらんばかりに驚いてそこを見れば、斜め向かい側に座っていた筈の彼女の手が置かれ、膝から上へと一撫でした。
「何をする気だ、何を!」
「ふふふ。」
頬を染めて恥じらう素振りをみせる彼女。
もし寝たふりではなく本当に眠っていたらと思うとゾッとした。
まさか広い馬車内で、斜め向かい側に座っているのに太腿に触れてくるなど誰が想像できようか。
限界まで端に寄り、彼女から一番離れた位置に座り直し足を組んむと無言で睨んだ。
何を考えているんだこの女は!
領邸に着くまで俺が警戒態勢を解く事はなかった。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
領邸に着き、馬車を降りるラフレシアに出迎えた執事が手を差し出した。
差し出されたその手と俺を、不思議そうに交互に見ている。
俺に手を差し出して欲しいのだろうが、飽くまでも気付かないふりをした。
仕方なく執事の手を借り馬車を降りた後、俺に駆け寄り腕に絡みついてくるのを疎ましく思いながら半ば引き摺るように邸内に入った。
彼女の部屋は、後発組が泊まる予定の、俺の部屋や先発組が泊まっている棟とは違う棟の客室にした。
俺の部屋からもニアが泊まっている部屋からも一番遠く離れた客室だ。
できればラフレシアと顔を合わせたくないのと、人の出入りが少ない棟にあるその部屋なら、裏で糸を引いている奴、若しくはその連絡係が接触しても分かり易いと考えたからだった。
だが彼女は先ほどまで一緒にいたというのに俺の部屋まで来た。
部屋の扉をノックする音に、ニアだと期待した俺はドキドキしながら大きくドアを開けた。
「……。」
開けたドアの向こうにいたのはラフレシアだった。
「何だ?」
ニアでなかった事に自分でも思っていた以上に冷たい言い方をしてしまった。
強引に部屋に入ろうとするラフレシアを押し止めながら廊下に出て後ろ手にドアを閉めた。
「ライアン様とゆっくりお話がしたかったのです。」
彼女は俯き、恥じらうように言った。
「悪いが、他の辺境領から来ている責任者達と訓練の打ち合わせがあるからその様な時間は無い。」
そう答えれば胸の前で両手を組み、上目遣いに
「ほんの少しでもいいのです。」
媚びるように言う彼女に、
「本来君は訓練への参加が認められていない。そんな君が他の者達に姿を見られるのは避けた方がいいだろう。時間が空けば連絡するから部屋で待機していてくれ。」
まさか断られるとは思っていなかったらしい。
一瞬、意外そうな顔をしたが、
「わかりました。」
拗ねたような口調でそう言うと自分の部屋へと戻って行った。
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その後、執務室に向かうと副官であるタリス・オブシディアンが今回の合同訓練で使用する資料を持って来た。
受け取った資料に目を通していると、
「いや~カレドニア嬢、暫く見ないうちに美しくなってましたよ。まるで蛹から蝶になったように。」
「馴れ馴れしく俺の婚約者の名を呼ぶな。」
低い声で牽制した。
「あ、でもライアン様の好みは、ボン!キュッ!ボン!のラフレシア嬢でしたよね。カレドニア嬢は控え目だからライアン様の好みから外れてましたか。」
バキッ!!
資料に注釈を書き入れていた俺の手に思わず力が入りすぎてペンをへし折ってしまった。
「何が言いたい。」
「そこまで露骨に牽制するぐらいなら、蔑ろになどせずにもっと可愛がってあげればいいじゃないですか。」
タリスが肩を竦め、皮肉を込めて言う。
彼を一睨みした後、溜息を吐いた。
俺だってそうしたい。
だが、どう声を掛ければいいのか。
それに今はまだ…。
執務机の一番上の鍵付きの引き出しに視線を向ける。
彼女への想いなら初めて会った時から変わってなどいない。
彼女は、今でもこの婚約が俺が強く望んで結ばれた物だとは思っていない。
これまでの遣り取りからその事が分かる。
娘の気持ちを知った父親が、頼み込んで無理矢理結ばさせた婚約だと思い込んでいる。
だから彼女はいつも一歩引いている。
俺としては、もう一歩踏み込んで欲しいと思っていても、どこか遠慮していて。
愛しているんだと、この婚約は俺が強く望んだ物なのだとニアに告げたい。
だが、今はまだ駄目だ。
ラフレシアの後ろに見え隠れする黒幕の存在が俺を躊躇わせる。
黒幕の正体と目的が分からない今、ラフレシアを切り捨てる事もできず、カレドニアからは信用されず、折角結んで貰えた婚約も解消されようとしている。
後手に回り過ぎて、打つ手無しと言っても過言ではない。
その事が余計に俺を苛立たせるのだ。
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*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます。
応援ありがとうございます!
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