R18・心乱れて【完結】

雫喰 B

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34.ニア&ハロルドside

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 ─ ニアside ─


 ランタンの灯りの中、姿を見せた彼を見て、

「何故?」 

 と私は呟いた。

「……。」

 ライアンが、またいつものように黙したまま眉間に皺を寄せる。

 ピンチの時に現れ、一太刀で魔獣を斃す。
 そこだけ見ればお伽話に出てくるヒーローみたいだけれど…。

 父であるセドリック様に命じられて来たのだろうか?
 それともお父様に懇願されて?
 どちらにしてもラフレシアの傍を離れたくもないのに無理矢理来させられたのね。
 父は勿論、セドリック様が婚約者を置いて逃げるなど赦す筈が無いもの。

 此方に近付いて来る彼を見て、半身を起こしたハロルドが庇うように私の前に出ると片手を横に広げた。

 それを止めようとしてハロルドの袖を掴んだ私を見て足を止めたライアンの片眉がピクリと動いたかと思うと、更に眉間の皺が深くなった。

「立ち上がれそうにないので座ったままで失礼する。助けていただきかたじけない。」
「助けていただきありがとうございます。」

 そう言って頭を下げるハロルドを見て私も礼を言い頭を下げた。

「自分の婚約者を助けるのは当たり前の事、礼には及ばない。」

「「え……?」」

 置いて逃げたよね…婚約者を。

 何より、婚約者という言葉を聞いて私と婚約している自覚があった事に驚いた。

 恐らくハロルドも私と同じ事を思ったのだろう。

 そんな私達に、今にも舌打ちをしそうに不機嫌さを露わにしているライアン。

 何で?

 確かに彼は、私から婚約解消の申し入れをした時、「却下」の一手で押し通したけれど、ラフレシアが婚約者であるかのような振る舞いをし続けていたではないか。

 なのに驚いた私達を見て不機嫌そうにしている理由がわからない。

 いいえ…そうじゃない。

 婚約者として交流してくれていた時にほんの僅かな表情の違いで少しは彼の想いがわかっていたと思う。

 けれど、今の私には彼の感情や彼が何を考えているのか…全くわからなくなっていた。

 
 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△


 ─ ハロルドside ─

 お姫様のピンチに絵本に登場するヒーローみたいに助けに来て一撃で魔獣を斃す。

 本来なら格好いい筈のシチュエーション。
 劇であれば拍手喝采間違いなしのそのシチュエーションに唾棄したい思いでいっぱいだった。

 ライアンへの想いを諦めきれないニアがやっと諦めようとしているのに、期待を持たせるように登場しやがって!!

 俺だって初めから彼奴を嫌っていた訳ではない。

 初めて剣を交えた時から尊敬していたし、剣の腕前に惚れ惚れしていたのもあって応援していたんだ。

 が、そんなライアンの事をを境に軽蔑するようになった。

 “英雄、色を好む”

 という言葉があるが、そんな言葉はライアンには無縁だと思っていたんだ。

 実際、彼奴はモテた。
 だが、見向きもせず婚約者一筋だった。

 俺の大切な従妹であるカレドニアニア、彼女の事を婚約者として大事にしていた。
 それこそ、表情筋が死んでいる彼奴がニアの事を本気で愛していると思えるほどだったんだ。

 ライアンにならニアを任せられる。
 そう思っていたのに…。

 

 ニアの事は幼い頃からずっと見守ってきた。
 彼女がこの世に生を受けてからずっとだ。

 赤ん坊のニアを初めて見た時、そっと伸ばした指先をギュッと握り締められた時、何だか胸が締め付けられるみたいな、それでいてムズムズする初めての感覚。

 その時にニアと結婚するんだと心に決めたんだ。

 …が、

 それは赦されない事だった。

 何代か前の当主が決めた決まり…、

 “カーネリアンの一族に連なる者は血が近い者同士の結婚を認めず!”

 三親等内の結婚を認められないのは世間一般でも赦されないが、カーネリアン一族に於いては従兄弟・従姉妹いとこ同士の結婚も赦されない。

 従兄妹同士の俺とニアが結婚できないと知ったのはその時だった。

 ならばせめてニアの結婚相手ぐらい見極めさせてもらってもいいではないか。

 所用でガーネット辺境伯邸を訪れた叔父ニアの父に、ガーネット卿からライアンとニアの婚約を打診された時にそう思った。

 当時、強いと噂のあったライアンと腕試しで試合がしてみたかった俺は、無理を言って叔父に付いて南部辺境伯領に来ていた。

 その時初めてライアンに会った。

 騎士を志す同じ年令の男子と比べて体の線は細いが鍛え上げられた筋肉といった体つきで、王子様のような甘いマスク、口数が少ないものの、年上の女性から年下の女子にまでモテていた。

 初めは強いと噂されるライアンと試合をするつもりが、ニアの婚約者を見極める為の試合になり剣を交えた。

 結果は惨敗…。

 だが彼奴は驕る事もせず、口数が少ないものの優しくて真面目な奴だった。

 そんな男に婚約者がいない事が不思議だった。

 最初は応援していたんだ。
 ニアへの想いに蓋をして心の奥底に沈め、ライアンならニアを幸せにしてやれるだろう。

 本当にそう思ってたんだ…。

 だから、ラフレシアとの噂を聞いた時、
 
「馬鹿馬鹿しい。」

 口ではそう言いながらも、婚約者同士の交流も手紙での遣り取りも減って行くにつれ、以前はライアンの話をすると花が綻ぶような笑顔を見せていたニアの顔から笑顔が消えていくのが悲しかった。

 その原因を作ったライアンとラフレシアに腸が煮えくりかえる思いでいっぱいだった。



 …なのにコイツは…!! 

 

~~~~~~~~~~

*いつもお読みいただきありがとうございます。

*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます。
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