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35.手当て
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*すみません。今話、ライアンのキモさUPしてます。
~~~~~~~~~~
無言で此方に歩み寄るライアンの目が、何故かハロルドを睨み付けているように思えて、彼が何を思っているのかわからなくて少し怖い。
それに先ほどから体調がおかしいというか、何だか酷く疲れたような、全身が鉛のように重く倦怠感を感じる。
そして気の所為か少し寒いような…。
キメラが斃された事で、それまでの緊張感から解放された事と日が沈んだからかも…?
そんな事を考えていたら目の前まで来たライアンが片膝を突いた。
「兎に角、傷の手当てが先だ。」
そう言って私の方に手を伸ばしてきたのを遮り、
「先に熱があるハロルドの方からお願い。」
と言うと、目の前まで伸ばされた彼の手が止まり力無く落ちる。
そして顔を上げた私と彼の目が合った。
ちゃんと彼の目を正面から見たのは何時ぶりだろう。
いつもどちらかが目を逸らしていたから…。
思わずガーネットのような赤い瞳に魅入られたみたいに目が離せずにいると、ライアンが眉間に皺を寄せて目を逸らしたので私も気不味くて俯いた。
暫らく二人の間に沈黙が落ちる。
少ししてハロルドの方に体を向けたライアンが彼の傷の具合を見ているうちに、先ほどキメラに打ちまけられた小物入れの中に入っていた物を拾い集め、摘んでいた薬草を少し大きめの石の上に乗せ手に取った石で磨り潰し、少量の水と合わせて練るとハンカチに塗り付け、そっとハロルドの左目に乗せるとライアンが(意外と器用に)包帯を巻いて固定した後、ハロルドの上半身だけ起こし化膿止めと解熱剤を飲ませて体を横たえさせた。
ハロルドの額に手を当てると薬が効いたみたいで熱は少し下がっていたが、まだ熱が高い彼はそのまま眠ってしまった。
「さっきは助けてくれてありがとう。あと、ハロルドの手当てを手伝ってくれた事も。」
私の方に向き直ったライアンにキメラから助けてくれた事等に対して再度お礼を言った。
「…いや、間に合って良かった。それよりも負傷していた筈だ…傷を見せてみろ。背中だったよな。」
言ってから私の手を取り、強引に引き寄せたかと思うと体をうつ伏せにし、魔獣に切り裂かれた上着やシャツを捲ろうとしている。
「つっ!!」
傷口の乾いたところがシャツや下着に張り付いて無理に剥がそうとすると皮膚が捲れてしまうかもしれない。
ライアンは水を取り出し張り付いた部分に掛けていき、ニアを膝の上に座らせ上着を脱がせた。
シャツの上から胸当てを付けていたが固定する為の紐はキメラの爪で切られていて、それも外すとシャツと下着の裾をたくし上げて両袖から腕を抜かせようとした。
「っな、何をっ!?」
抗議の目を向けるニアに、意味がわからないといった風に首を少し傾けるライアン。
けれど、その口角が僅かに上がっているように見えるのは気の所為だろうか?
「脱がなければ傷口を消毒する事も薬を塗る事もできないだろ。」
「ぐ……。」
彼が言うように自分で背中の傷口の消毒も薬を塗る事もできない。
だからシャツや下着を脱がなければならないというのもわかる。
わかるのだが…。
何だろう。何か癪に障るというか何と言うか。
婚約を解消する相手に素肌を晒すのも触られるのも嫌な気がした。
それに体調も何だか…。
が、そんな事も言っていられない。
手当てしなければならないのは事実だから消毒と薬を塗るのは我慢しなければならないとしても、シャツや下着を脱ぐ事まで彼にしてもらうつもりは無い。
「じ、自分で脱ぐから…。」
シャツのボタンを外して脱いだ後、下着の袖から腕を抜こうと裾をたくし上げたら腰に回された彼の手や腕が素肌に触れる。
と、腰に回された彼の腕に力が入ったのがわかったと同時に首筋に顔を埋めてきた。
この、どさくさに紛れて何を!?
「ちょ、ちょっと…離れて…。」
彼から少し体を離そうとするも、がっちりと腰に回された腕に阻まれる。
というか、更に腕に力が入ったような気がする。
「暴れなくてもいいから早く下着も脱いで。」
首に鼻先を埋めたまま喋るから吐息が掛かって擽ったい。
思わず首を竦めると彼がくつくつと笑う。
「そこで喋るな、笑うな。」
必死で首を伸ばして彼の顔から距離を取ろうとしたけれどその距離が離れる事はなかった。
仕方なく諦めて下着も脱いだ。
膝を胸に押し付けるように縮こまって座ると、傷口から張り付いたシャツや下着を彼はそっと剥がしていく。
その間二人とも何も話さなかった。
かなり時間が掛かったけれど、全て剥がし終わった彼が言った。
「…こりゃあ傷跡残ると思うぞ。」
魔獣の攻撃は、剣を受けたり怪我をした場合よりも酷い傷跡が残る。
瘴気や毒が傷に入る所為らしい。
「別に残ったっていい。婚約を解消した後は誰とも結婚するつもりなんて無いから。」
「……。」
彼はその言葉を聞いて黙り込んでしまった。
「…早く手当て終わらせて。」
半裸で座っているのが恥ずかしいのと、気不味くて言った言葉に「…ああ…。」とだけ返事すると手早く消毒して薬を塗っていき、包帯を巻いていく。
包帯を巻き終わった後、礼を言って立ち上がろうとしたら、素早く腰に腕を回され離してくれない。
何でこんな事ばっかりするかなぁ…。
私は大きく溜め息を吐いた。
~~~~~~~~~
☆補足☆
ニアは体調が悪くなってきているのとキメラに攻撃される直前にライアンに対する未練を自覚した事で彼に対する態度に迷いがあります。
(婚約を解消する相手に対する態度としては未練があるとわかる態度になってます。つまり、感情を隠す仮面を被り損なっている状態です。おまけにその事に本人は気付いていません。)
*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!
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無言で此方に歩み寄るライアンの目が、何故かハロルドを睨み付けているように思えて、彼が何を思っているのかわからなくて少し怖い。
それに先ほどから体調がおかしいというか、何だか酷く疲れたような、全身が鉛のように重く倦怠感を感じる。
そして気の所為か少し寒いような…。
キメラが斃された事で、それまでの緊張感から解放された事と日が沈んだからかも…?
そんな事を考えていたら目の前まで来たライアンが片膝を突いた。
「兎に角、傷の手当てが先だ。」
そう言って私の方に手を伸ばしてきたのを遮り、
「先に熱があるハロルドの方からお願い。」
と言うと、目の前まで伸ばされた彼の手が止まり力無く落ちる。
そして顔を上げた私と彼の目が合った。
ちゃんと彼の目を正面から見たのは何時ぶりだろう。
いつもどちらかが目を逸らしていたから…。
思わずガーネットのような赤い瞳に魅入られたみたいに目が離せずにいると、ライアンが眉間に皺を寄せて目を逸らしたので私も気不味くて俯いた。
暫らく二人の間に沈黙が落ちる。
少ししてハロルドの方に体を向けたライアンが彼の傷の具合を見ているうちに、先ほどキメラに打ちまけられた小物入れの中に入っていた物を拾い集め、摘んでいた薬草を少し大きめの石の上に乗せ手に取った石で磨り潰し、少量の水と合わせて練るとハンカチに塗り付け、そっとハロルドの左目に乗せるとライアンが(意外と器用に)包帯を巻いて固定した後、ハロルドの上半身だけ起こし化膿止めと解熱剤を飲ませて体を横たえさせた。
ハロルドの額に手を当てると薬が効いたみたいで熱は少し下がっていたが、まだ熱が高い彼はそのまま眠ってしまった。
「さっきは助けてくれてありがとう。あと、ハロルドの手当てを手伝ってくれた事も。」
私の方に向き直ったライアンにキメラから助けてくれた事等に対して再度お礼を言った。
「…いや、間に合って良かった。それよりも負傷していた筈だ…傷を見せてみろ。背中だったよな。」
言ってから私の手を取り、強引に引き寄せたかと思うと体をうつ伏せにし、魔獣に切り裂かれた上着やシャツを捲ろうとしている。
「つっ!!」
傷口の乾いたところがシャツや下着に張り付いて無理に剥がそうとすると皮膚が捲れてしまうかもしれない。
ライアンは水を取り出し張り付いた部分に掛けていき、ニアを膝の上に座らせ上着を脱がせた。
シャツの上から胸当てを付けていたが固定する為の紐はキメラの爪で切られていて、それも外すとシャツと下着の裾をたくし上げて両袖から腕を抜かせようとした。
「っな、何をっ!?」
抗議の目を向けるニアに、意味がわからないといった風に首を少し傾けるライアン。
けれど、その口角が僅かに上がっているように見えるのは気の所為だろうか?
「脱がなければ傷口を消毒する事も薬を塗る事もできないだろ。」
「ぐ……。」
彼が言うように自分で背中の傷口の消毒も薬を塗る事もできない。
だからシャツや下着を脱がなければならないというのもわかる。
わかるのだが…。
何だろう。何か癪に障るというか何と言うか。
婚約を解消する相手に素肌を晒すのも触られるのも嫌な気がした。
それに体調も何だか…。
が、そんな事も言っていられない。
手当てしなければならないのは事実だから消毒と薬を塗るのは我慢しなければならないとしても、シャツや下着を脱ぐ事まで彼にしてもらうつもりは無い。
「じ、自分で脱ぐから…。」
シャツのボタンを外して脱いだ後、下着の袖から腕を抜こうと裾をたくし上げたら腰に回された彼の手や腕が素肌に触れる。
と、腰に回された彼の腕に力が入ったのがわかったと同時に首筋に顔を埋めてきた。
この、どさくさに紛れて何を!?
「ちょ、ちょっと…離れて…。」
彼から少し体を離そうとするも、がっちりと腰に回された腕に阻まれる。
というか、更に腕に力が入ったような気がする。
「暴れなくてもいいから早く下着も脱いで。」
首に鼻先を埋めたまま喋るから吐息が掛かって擽ったい。
思わず首を竦めると彼がくつくつと笑う。
「そこで喋るな、笑うな。」
必死で首を伸ばして彼の顔から距離を取ろうとしたけれどその距離が離れる事はなかった。
仕方なく諦めて下着も脱いだ。
膝を胸に押し付けるように縮こまって座ると、傷口から張り付いたシャツや下着を彼はそっと剥がしていく。
その間二人とも何も話さなかった。
かなり時間が掛かったけれど、全て剥がし終わった彼が言った。
「…こりゃあ傷跡残ると思うぞ。」
魔獣の攻撃は、剣を受けたり怪我をした場合よりも酷い傷跡が残る。
瘴気や毒が傷に入る所為らしい。
「別に残ったっていい。婚約を解消した後は誰とも結婚するつもりなんて無いから。」
「……。」
彼はその言葉を聞いて黙り込んでしまった。
「…早く手当て終わらせて。」
半裸で座っているのが恥ずかしいのと、気不味くて言った言葉に「…ああ…。」とだけ返事すると手早く消毒して薬を塗っていき、包帯を巻いていく。
包帯を巻き終わった後、礼を言って立ち上がろうとしたら、素早く腰に腕を回され離してくれない。
何でこんな事ばっかりするかなぁ…。
私は大きく溜め息を吐いた。
~~~~~~~~~
☆補足☆
ニアは体調が悪くなってきているのとキメラに攻撃される直前にライアンに対する未練を自覚した事で彼に対する態度に迷いがあります。
(婚約を解消する相手に対する態度としては未練があるとわかる態度になってます。つまり、感情を隠す仮面を被り損なっている状態です。おまけにその事に本人は気付いていません。)
*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!
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