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3. ある日のお茶会
しおりを挟む「 はぁぁぁ」
最近、めっきり憂鬱になってきた、殿下との交流の為のお茶会。思わず大きな溜め息を吐いてしまった。
並んで歩いていた護衛のローランドに「溜め息吐かない。」と、窘められる。
私を挟んで反対側を歩いていた侍女のスージーが肩を小刻みに震わせて笑っている。
「でも、殿下の態度は会う度に酷くなっているように感じるのですが…。」
スージーが心配そうに言うと、ローランドもそうだと言わんばかりに大きく頷いている。
「…やっぱり、そう思うわよね。」
「何か切欠があるんでしょうか?その辺の心当たりは?」
「それがさっぱり…。でも、一つだけ心当たりというか…。」
その先の言葉を飲み込んだ。人の所為にしたくはなかったのと、無闇に人を疑うのもどうかと思ったからだった。
「やっぱり、あの女ギツネの所為ですよ。絶対に。」
なのに、スージーが言ってしまった。
「恐らくスージーが言っている事で間違いないでしょうね。」
私だけでなく、スージーやローランドまでがそう思っているなら、やっぱりそうなのかなぁ?
声には出さずに心の中だけで呟く。
どちらにしても、殿下と過ごす時間は気が重い。
殿下と出会ってから婚約した当初は楽しみだった筈なのに…。
と、そこでやっぱりローザリンデ嬢がお茶会に参加するようになってから、殿下の態度に変化が起きた様な気がする。
いけない、いけない。
その考えを頭から追い出すように首を左右に振る。
「お嬢様。そろそろ着きますよ。」
ローランドの声に、顔を上げて真っ直ぐ前を見た。
庭園の入り口に案内の侍女がいて、挨拶をすると、先導して案内をする。
暫く進むとガゼボが眼に入った。
ローザリンデ嬢も殿下もまだ来ていなかった。
手前に護衛が2人立っていて、侍女達がお茶の準備をしている。
案内をした侍女がお茶の準備をしている侍女のうちの1人に声を掛けると、4つある内の一つの椅子を勧められ、それに座った。
ローランドはガゼボの手前にいた近衛と挨拶を交わして何か話しているみたいだった。
スージーは私の斜め後ろで距離を置いて控えている。
「殿下ももうすぐお越しになると思います。お待ちになっている間に、こちらをどうぞ。」
そう言って、目の前にお茶を出す。
「ありがとう。」
カップを持って香りを味わった後、お茶を一口飲んだ。
少しして、若い女性の甲高い話し声が聞こえてきた。
その声がこちらに近付いて来る。恐らく、ローザリンデ嬢だろう。
というか、間違いないでしょう。
最近ずっと、お茶会の時に殿下はローザリンデ嬢をエスコートしてテーブルまで来ていた。
そして、椅子を引いてやり、座らせてから自分も席に着くのだ。
そしてお互いに見詰め合った後、殿下は私の顔を見るのだが、あからさまに不機嫌そうな顔をするのだ。眉間に皺を寄せ、こちらを睨み付ける。
いっその事、婚約破棄か婚約解消してくれたらいいのに。
最近お茶会が始まる前の2人の恋人ごっこを見る度に心の中で呟いている。
いい加減、解放して欲しいと本気で思っていた。
私を見る度に、憎々し気に睨み付けるぐらいなら、婚約を解消するなり、破棄するなりすればいいものを、何故未だに婚約したままなのか?不思議で仕方ない。
冷たい態度を取りだした頃は、それでも…好きだった。愛かどうかまでは解らなかったが。だから、傷付いた。
けれど、それも毎回ともなると、いい加減腹立たしく思う。
それでもまだ婚約中なのだ。貴族として生まれ、政略結婚が当たり前の世界である。そこに恋愛感情を求めてもしょうがない。
それでも…このような扱いを受けなければならない理由など無い。
婚約している以上は、それなりに振る舞うべきだと思っている。
だから、私は婚約者としての振る舞いをしているというのに…。
そう思うと、馬鹿馬鹿しくなってくる。
身分が下の此方から声を掛ける訳にはいかない。
早くしてくんないかなぁ。
項頭したまま待っているのが分かっていてイチャイチャしているのか?と思われても仕方の無い状況に、腹が立ってくるが、グッと抑える。
「あぁ、済まない。君も居たんだったよな。頭を上げて楽にしてくれ。元気そうで何よりだ。」
「殿下におかれましても、益々ご健勝の事とお慶び申し上げます。そして、私の様な者にまで、お気遣い頂きありがとうございます。」
「相変わらず、お堅いわねぇ。ほんと、つまらない方。ねぇ、ランディ様。」
「そうだな。此奴は昔から堅苦しくて面白味に欠ける奴だった。」
「…申し訳…」
「もうよい。黙っておれ。」
「 畏まりました。」
さてと、また目の前で“恋人ごっこ”が繰り広げられるのを、特等席で見ていないと駄目な訳ね。
まぁ、いいわ。お茶とお菓子を楽しむ事にしましょう。
すっかり冷めてしまった紅茶を飲む。そして視線は2人の上、空に向ける。
今日もいい天気だわ。
カップに視線を落とし、ほぅ。と息を吐く。
ふと視線を上げると、ローザリンデ嬢は自慢気な笑みを浮かべ、殿下はいつもの様に眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
?????
何でこっちを見るかなぁ?
不思議に思い、こてんと首を傾けると、ローザリンデ嬢から睨まれ、殿下は顔を逸らしてしまった。
私の事は置物だと思って、遠慮せずに2人だけの世界に浸っていていいのに。
口には出さずに心の中だけで呟いた。
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