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22. 形見
しおりを挟む一泊したぐらいでは、移動による疲れが取れる訳が無い。
それは、他の者達も同じだったが、皆、その様な不満を表に出す事なく出発の準備をしてくれていた。
リンジーは昨夜のうちに、ローランドの父と兄である、家令のウィリアム・アーリントンとその補佐役のジャスティン・アーリントンの二人に、ローランドの事を詫びた。自分の専属護衛から外した事を…。けれど、弟(次期辺境伯)の専属護衛にした事も伝えた。
二人からは、ローランドがリンジーの事を護れなかった事を謝罪された。
そして、弟の専属護衛にした事に恐縮されてしまった。
別荘へ向けて出発した後、馬車の中でそんな事を思い出していた彼女が、つい、いつもの癖で、髪の毛の毛先をクルクルと指に巻き付けようとして、そこに髪の毛が無い事を思い出した。
そういえば、王都を出る前日に、腰まであった髪の毛を、肩の少し下ぐらいまでの長さに切ったのだった。
三ヶ月の間、ベッドの上の生活だったので伸びてしまったのと、リハビリをする時に邪魔になるからだった。
そしてその髪の毛を、袋に入れて手紙と一緒に宰相に渡すように手配した。
何故かと言うと、殿下には私が死んだ“証拠”として見せるらしい。
というのも、殿下が私の消息を知りたがっているから。
万が一、カスペラード家に迷惑がかかる事になると困るからだと言われたのだけど、意図がよく分からない。
でも、これで彼との関係を、きれいさっぱり精算する事が出来るなら易いものだと思った。
領地でリハビリしている所に、いきなり現れたりしたら、迷惑だし怖い。二度と会わずにすむなら、捨てるつもりの髪の毛ぐらい、どうって事はない。
尤も、両親にも宰相から話をしていたと聞いていたのもある。
酷なようだけど、もう殿下に対する義理も情も無い。
殿下は生涯幽閉という罰を受け、私は卵巣を片方失い、今は歩く事も儘ならない。そして、リハビリの甲斐なく歩けないとなれば、この先ずっとという事になる。これも罰かもしれない…。
お互い、罰を受けたと考えれば、お互い、義理も情も無いと思った方がいいと思ったのだ。
だから、私は先に進む為に、今はリハビリを頑張ろうとしている。
殿下も前に進む為に考えれば、生涯幽閉にならないかもしれない。
だから、彼にも前を向いて欲しい。
~~~~~
そして、別荘に着いた後、あまり過去を振り返らないようにした。
その所為か、夜中に夢で魘される事が少なくなった。
でも、ふとした瞬間、考えてしまいそうになる。
そんな時は、マーケットやエミリー、カールやローランドの事を考える様にしている。
エミリーは、半年後に婚約者のサミュエルと結婚式を挙げるらしい。
私も彼女の結婚式に出席したいけれど、事件の後という事もあって、欠席する事にした。
彼女もその事を分かってくれているのが救いだった。
「まぁ、王家絡みだし仕方無いわよね。」だそうだ。
そしてマーガレットは、やっと婚約者が決まったと手紙に書いてあった。
だから、その手紙の内容はほとんど惚気だった事は言うまでもない。
リア充かよ。ごちそうさま
カールは、学園を15歳で卒業して、その後は、騎士養成所に入るつもりでいるらしい。
皆、未来に向けて進んでいる中、一人だけ、今どうしているのか気になる人がいる。
ローランドだ。彼はカールの専属護衛にならず、私が王都を出発した日に、父に頼み込んで解雇されたという。
そして、今も小競り合いが続いている国境地帯の最前線に行ったらしい。
家令である父親と、家令の補佐役である彼の兄の所にも、何の連絡も無い。
一体、どこでどうしているのか…。心配だし、気になっているけれど、こればっかりは彼からの連絡を待つ事しか出来ない。
どうか、無事で…また会えるといいけど…。
そう願わずにいられなかった。
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