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21. 別離
しおりを挟む顔を上げた視線の先に、ローランドのフェルメールブルーの瞳が悲し気にそこにあった。
胸に走る痛みを堪え、感情を表に出さないように気を引き締める。
胸に左手を当て、右手でマントを広げて持ち、頭を下げ、上体を前に傾けて騎士の礼を取る。
「顔を上げて、ローランド。それで?今日もいつもの話かしら?」
顔を上げた彼の眼を見据えて言うと頷いてから口を開いた。
「お嬢様、お考え直し下さい…。護衛に…どうかお嬢様の専属護衛に戻して下さい。お願いします!」
そして、深々と頭を下げる彼に
「何度も言ったと思うけど、外と言っても邸の庭ぐらいしか出ない私に、護衛が必要無い事ぐらい、言われなくても分かるわよね。だから、却下よ、却下。」
「お願いです!」
「何度言われても変更するつもりは無いわ。だから、そのままカールの専属護衛でいてあげて…お願い。」
「 … 」
何も言わず、頭を下げたままの彼に下がるように言った。
「…失礼します。」
小さくそう言うと、彼は部屋から出て行った。
傍に控えていたスージーは、
「お嬢様、本当によかったのですか…?」
「いいのよ、これで。」
他にも何か言いたそうにしていたけれど、その後、何も言わなかった。
「そんな事よりも、準備してしまいましょ。」
そう言って、トランクや、箱に必要な物を詰めていく。
明日から、領地に移り住む事が決まっていたので、身の回りの物で持っていく物を詰めなければならなかった。
ローランドに言わないように指示をしていたので、彼は知らない。
来年から貴族の子息、令嬢が通う“王立学園”に入学する、弟のカールの専属の護衛についてもらう事にしたからだ。
領地に静養しに行く私は、この先もずっとそこで暮らす事になる。領地と言っても領邸ではなく、領地の端っこにある別荘なんだけどね。
何より、この身体では、外出も別荘周辺のごく限られた範囲になる。
護衛を連れて出かけるような場所には行かない。そんな私に専属護衛をつける事など出来ないのだ。
と言っても、それは建前で…私の傍に居ても、彼の幸せは無い。
殿下との婚約が解消された後、本来の婚約者であった彼と再度婚約を結ぶという話が出ていた。
そして、この事件で殿下との婚約は当然、解消された。
こんな身体で王族と結婚する事など出来ないから…。
だからと言って、ローランドに押し付けるように婚約を結ぶなんて出来る訳無い。
私は、そんな事を望んでなんていないから。
なので、彼には新しく伴侶となるべき相手を得る為にも私から離れ、王都でカールの護衛をしてもらう。あの容姿ならすぐに良縁に恵まれる筈だ。
そして私はというと、カールが父の跡を継ぐまでに歩けるようになったらいいんだけど…。こればっかりは分からない。
辛いだろうけどリハビリ頑張るわ!
子供ができ難い身体になったけど、結婚相手を探すのは難しそうだからって言うか、ほぼ無理でしょ。
事件の後の婚約解消。しかも、歩けるかどうか分からない上に、子供ができ難い、。なんて…
それでも…出来れば、何か仕事を見付けて、恋ぐらいはしてみたいなぁ。なんてね。
…夢見るぐらいはいいじゃない?
~~~~~
そして翌日 ━━
朝早い時間に王都を出発したのでした。
領地までは、馬車で2日かかる。領邸で一泊して、別荘へ向かう予定。
因みに、別荘までは、朝に出発して夕方ぐらいに着くらしい。
子供の時に家族で行ったきりだったから、懐かしい気がする。
そして、王都のタウンハウスにいる執事に、ローランドへの手紙を預けた。
本当は直接お別れを言いたかったんだけど、泣いちゃいそうだったから…。
友人のマーガレットとエミリーには、向こうに着いてから手紙を書こうと思っている。
今、馬車に揺られながら、外の景色をボーッと見ていた。
王都に出てくる時は、まさかこんな事になるとは思っていなかった。
希望しかなかったような気がする。あと、少しの不安。
事件の詳しい顛末は聞いていない。まだ夜中に夢を見て、汗だくになって飛び起きる事がある。
忘れる事は出来ないだろうけど、せめて夢で魘されなくなってからなら聞いてみようと思ってはいる。
ただ、まだ暫くは何も考えずにゆっくり過ごしたい。リハビリはするけれど。
また歩けるようになりたいから。
そして、景色から眼を離して、背凭れに身体を預けて眼を閉じた。
~~~~~
━ ローランド Side ━
朝、起きて朝食を摂ろうと、一階に降りたら、執事から手紙を渡された。
嫌な予感がした。
行儀が悪い事だと分かっていたけど、ペーパーナイフも使わずにその場で開けた。
お嬢様、リンジー様からの手紙だった。
自分の事は忘れて他の人と幸せになって欲しいと書かれていた。
そして、自分の代わりに弟のカール様を護って欲しい。
今までの感謝の言葉と共に、それらの事が書かれていた。
俺は、彼女の事を命に代えても護ると誓っていた。なのに…護る事が出来なかった。
それだけでも、騎士失格だと言われても仕方ないのに、彼女は騎士を続けろと言う。
事件後、彼女は俺を責めなかった。が、責められた方がまだましだった。
他の人と幸せになって欲しい。なんて…無理だ!
初めて彼女を見た時から、俺の心はずっと彼女に囚われているのだから…。
彼女の頼みでも、カール様の護衛を今の俺が引き受けられる筈が無い。
彼女すら護れなかった俺が、誰を護れると言うのだろう。
恐らく、今の俺には誰も護れない。
俺はこの日のうちに、領主である、カスペラード辺境伯に、解雇してもらった。
そして、その足で今も小競り合いが行われている、国境地帯の最前線へ向かった。
実戦での経験を積む為に。
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