【改稿版】それでも…

雫喰 B

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25. 伝(つて)

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    俺の話を聞いた司令官のヨーゼフ・バーミンガムは頻りに、眉間や蟀谷を揉んでいた。

「俺の記憶が確かならば、面倒事を起こすな。と言っていたと思うのだが…。」
「申し訳ありません。ですが、まだ10才ぐらいにしかならない少女達がボロボロになるまで甚振いたぶられるのを黙って見ている事は、私には出来ません。それとも閣下は…」
「もういい!」
「申し訳ありません。」
「この砦の中、何処に置いていてもトラブルにしかならん。今すぐ村まで連れていけ!」
「了解しました。ですが、私一人ででしょうか?」
「…もう一人はキースと言ったか…。面倒事を持ち込んだお前ら二人で行ってこい!」
「了解です!」

    部屋を出た後、つい口角が上がってしまう。
    端から見れば、厳しい口調で怒鳴り散らしていたように見える強面の司令官が、実はまだ幼い娘を蕩けた顔でデロッデロに甘やかしているのは、親戚中では有名な話なのだ。
    だから、最後の手段として賭けてみた。実際、ヒヤヒヤものだった。
    いくらプライベートで娘を可愛がっていても、戦場では分からないからだ。
    プライベートとは真逆の、冷徹で無情な奴も多い。
    彼がそうでなくて良かった。

    俺は自分の部屋に寄ってから、倉庫に向かい毛布二枚をひっ掴むと、彼らが待つ部屋へと急いだ。

    幸い、まだ騒ぎにはなっていなかった。
    扉をノックすると、ヒースが顔を出した。俺が部屋の中に身体を滑り込ませると、姉妹が抱き合ったまま怯えたようにこっちを見ていた。

    二人に毛布を渡すとキースと二人に事情を説明する。
    それでいいか。と姉妹に聞くと二人ともコクコクと頷いた。
  
    婆さんに謝罪と礼を言って、“善は急げ”とばかりに二人を毛布にくるんで抱え、厩舎へと急ぐ。

    俺とキースがそれぞれの馬に、毛布に包まった少女を乗せ、麓にある村まで馬を走らせた。

「何処か二人を預けられそうなつてでもあるのか?」

    キースが聞いてくる。
    ずっとその事を考えていたローランドは

「いや、伝など無いから、村長にでも頼もうかと思っていたところだ。」
「わかった。」

    そして村長の家の前まで来ると、馬を止めて二人を馬から降ろし、玄関まで行き、扉をノックして、応答を待つ。

    閉じたままの扉の向こうから、誰何の声がする。

「こんな夜中に申し訳無い。砦で任務に就いている者だが、村長に話があるから取り次いでもらえないだろうか?」

    返事はなかったが、暫くして開いた扉の向こうに居たのは、村長本人だった。

「こんな夜中に、国境警備隊の方が何のご用ですかな?」
「お願いがあって参りました。此処では何なので、中に入らせて頂いても?」
「そういう事でしたら…。ささ、どうぞ中へ。」

    そう言って少し後ろに下がり、扉を大きく開けて、私達を中に招き入れた。

    姉妹の背を軽く押し、先に入らせると村長夫婦は二人とも驚いた顔をしている。

「立ち話も何ですから、お座り下さい。」

    八人用の大きなテーブルがあった。
    椅子を勧められ、俺とキースの間に姉妹が座わり、その向かい側に村長が座ると、皆の目の前にお茶を置いてから、村長の妻が座った。

「…ところで、この子達は一体…?」

    緊張の面持ちで泊まり込んでいる姉妹に視線を落とした後、村長夫婦に切り出した。

「…実はお話というのは、この子達の事なんです。」

    そして、少し前に砦であった戦闘で、敵側に二人がいた事、その二人を砦に置いておくのは危険だという事を話した。

「なんだってこんな子供が戦闘に?」
「分からない。砦では話を聞く間も危ないからここへ連れてきたんだ。だから、話も聞きたいし、出来れば預かって欲しいんだ。」

    村長もその妻も、子供が戦場にいた事が信じられなかった。
    預かるにしても、親がいるなら国に返してやるにしても、話を聞かない事にはどうする事も出来ない。

「ところでお嬢ちゃん達は、いくつなんだい?」

    村長が聞いた。暫く顔を見合わせていた二人だったが、やがてぽつりぽつりと話し出した。

    姉の方は、リーゼロッテ14才、妹の方は、シャロン10才。
    騎士だった父親は既に亡くなっており、今まで頑張って自分達を育ててくれた母親だったが、今年は凶作だった為に、仕事も無くなり二人を育てる事も難しくなった。

    日に日に食料も無くなり、いよいよ親子三人このまま死んでしまうのか…。
    そんな風に思っていた時、母親が領主の目に止まり、子供を置いてくる(捨てる)事を条件に、領主の愛人になり、邸に連れていかれた。

    「ごめんね。」と言ってはいたが、姉妹を捨てた事に変わりはない。

    そして姉は、国境の砦を襲撃するという話を聞いて、志願したのだった。
    妹と二人、生きていく為に。
    だが、母親に捨てられたばかりの妹は、付いていくと言って聞かず、仕方なく連れてきたのだ。

    戦闘が終わるまで隠れているように、と約束させて…。

    話を聞いていた四人は絶句した。北国ほっこくは、そこまで酷い状況なのか。
    下手をすれば、平民には餓死者が出ているかもしれない。
    貴族の所にはまだ食料があるようだが、時間の問題だろう。
    冬を越すまでにどれ程の人間が死ぬのか…。

    重苦しい空気の中、ローランドが口を開いた。

「村長、そんな事情でこの子達を預かって欲しいんだが…どうだろう?」

    暫く考え込んでいた村長が「分かりました。お引き受け致しましょう。」

    姉妹は顔を見合わせて笑い合う。

「そして、これは私達の勝手なお願いなのですが、この子達を私達の養子にしてもいいでしょうか?」

    ローランドとキースは二人の申し出に驚いた。

「それは…こちらとしても、その方が有難いのだが…いいのか?」
「「 はい。是非。」」

    聞けば、村長夫婦には子供がなく、年齢的にも諦めていたらしい。
    父親もこの世におらず、母親にも捨てられたのならば。と、姉妹を見ながら語った夫婦に、時々様子を見に来る事を告げ、姉妹の為に使って欲しい。と金の入った袋を渡した。

    姉妹に別れを告げ、ローランドとキースは砦へと戻って行った。

  


    
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