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30. 葛藤
しおりを挟むローランドが故郷であるカスペラード辺境伯領に戻って来てから一週間が経った。
領邸で家令をしている父に呼び出された。
「お呼びと伺いました。」
領邸に顔を出すと、領主の執務室に通された。
「うむ。先ずはこれを。」
白い封筒を手渡された。
「今読んでも?」
領主のカスペラード辺境伯が頷いたので、ペーパーナイフを借りて封筒を開けた。
中に入っていた便箋には、明後日の午後2時に別荘に招待する事が書かれていた。
「私が訪問して差し支えないのでしょうか?」
彼女を護れず、弟の護衛を頼むと言われていたにも拘わらず、それを蹴って国境の砦に行った自分が彼女と会っていいのだろうか?
そう思って聞いた。
「娘がそれを望んでいる。」
ローランドの懸念が分かった上で、そう答えた。
「分かりました。準備の為に自宅へ戻ります。」
そして、執務室を出て廊下を歩いていたら、兄のジャスティンに呼び止められた。
父の元で、補佐をしながら家令の仕事を勉強中で、忙しい兄が自分に何の用があるのだろうか?
「ご無沙汰しております。」
兄弟と言えど、家令補佐である。
「お前は相変わらず、お堅いな。いつもと同じでいいよ。」
ローランドは鼻の奥がツンとした。国境の砦へ行く時、仲の良かった兄に何の挨拶も出来ぬまま旅立った。
そんな自分に以前と変わらず接してくれる事が嬉しくて、ゆっくり色々な話をしたかったが、別荘へ行く準備もあり、戻ってから酒でも酌み交わそうと約束して別れた。
ジャスティンは弟の背中を羨望の眼差しで見送りながら呟いた。
「今度こそ願いが叶うといいな。」
そうして、淡く長い片思いを終わらせた。終わらせたからと言って、それまでの想いが無くなる訳ではない。
だが、遠くから見守る事ぐらいは出来るだろう。
自分に言い聞かせるように心の中でだけ呟くと、父の執務室へと向かった。
部屋に戻ったローランドは、明日、リンジーに会う為に別荘へ行く事をキースに伝えた。
暫く考え込んでいた彼は、自分も連れて行って欲しいと頼んだ。
「振られた後、ちゃんと領都の邸まで送るからさ。」
「最初から駄目みたいに言うのをやめて下さいよ。」
そして、二人で笑い合った。
翌朝、カスペラード卿と父や兄に挨拶を済ませて出発したのだった。
~~~~~
━ 別荘にて ━
その別荘は、領都から馬車で二日ほど離れた土地にあった。
領都の邸に比べると小さい邸だが、それでも客室は八室あり、一階には応接室とサロンがある広さだった。
幼い頃、領主一家と共に、二、三度訪れた事がある。
大きくなったら、リンジーと結婚をすると信じて疑わなかったあの幸せだった日々が、今も胸を締め付ける。
どうしてこんな事に…。
理由は分かりきっている。
あの男が無理矢理割り込んできて、彼女をその未來ごと奪って行った。
王族だった。ただそれだけで…。
挙げ句、彼女の未來を奪い、傷付け、幽閉されるだけで(本当の意味で)償う事などない。
そして、ローランドの中にやり場の無い怒りだけを残していった。
それでも…復讐などに時間を割くよりも、一分一秒でも長く彼女の傍に居たかった。彼女の為に時間を使いたかった。
それが出来るなら、復讐など意味が無いのだ。
そんな事に時間を掛けるよりも、彼女の傍に居る為に行動する事に時間を掛けたかった。
その力を付ける為に、一度は距離を置いた 。 そして、その機会が巡ってきたのだ、何としてでもモノにしてみせる。
逸る気持ちを抑えながら馬を走らせた。
途中にある町で宿を取る事にした。
そこで夕食を食べている時に、いつもは饒舌な男が黙り込んでいる事に違和感を抱いた。
普段から、飄々としていて軽いノリで、周りを明るくする人誑し。
いつものような軽いノリで話だってしている。なのに、いつもと違うような…?
「何か、元気無さそうだけど?」
「そうか?気の所為だよ。明日の事もあるから、そろそろ引き揚げようぜ。」
「だな。」
その時は、キースが言うように気の所為だと思っていたけど…。
かなり悩んでいたと、後で分かった時には、本気で腹が立った。
年下だから頼りないのは分かるけど、話ぐらいは聞く事が出来るのに…。
~~~~~
次の日の午後、別荘に着いた。
訪問した俺達に対応したのは別荘の管理を兼任している執事のセバスチャンだった。
テラスでお茶をする予定だからと、サロンと続きになっているテラスに通された。
椅子を勧められたので座って待った。
暫くして、リンジーが現れた。
俺が国境の砦に行く前に会った彼女は、ベッドの上だった。
だから、彼女が車椅子に乗る姿を初めて見た。何て言ったらいいのか分からなかった。いや、言葉が出てこなかった。
隣に居るキースを見たら、彼も俺と同じように言葉を失くしていた。
リンジーに視線を戻すと、困ったように笑っていた。
「ごめんなさいね。驚かせてしまって。」
眉尻を下げて言う彼女に、何も言葉を掛ける事が出来ず、ただ首を横に振る事しか出来なかった。
彼女の車椅子を押していたスージーは、俯いた顔を横に向けて、肩を小刻みに震わせていた。
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