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思わせぶり
しおりを挟む明日からはついにテスト期間が始まる。
午前中に3科目のテストを受け、お昼には生徒を自宅へ帰すこととなるが...うちのクラスの生徒は真っ直ぐお家へ帰って勉強してくれるだろうか...。
作成したテストの最終確認を行った後、そのテストを引き出しの中にしまい鍵をかけた。
今日は帰ろう。
連日、自己嫌悪に陥ったり、神崎に好き勝手されたもんだから身体も心もかなり憔悴しきっている。
荷物をまとめジャケットを羽織ると、周りへ挨拶をして職員室を後にした。
辺りは薄暗くて人1人いない。
うう...怖い...。
教員生活はかれこれ長いこと続けているが、やはり夜の学校だけはいつまで経っても慣れないものだ。
職員玄関で靴を履き替え、駐車場まで行くと私の車の隣には見覚えのある車が停まっていた。
「げ...若王子...」
わざわざ隣に停める必要はないであろう。
しかも奴は車の中で煙草を吸いながらスマホを弄ってる。
気付かないフリをして車を走らせるにも、どうも無理がある気がした私は、運転席の扉をコツ、と叩いた。
私の存在に今気付きましたよ、と言わんばかりの驚いた表情に「ああ、やっぱり気付かないフリすれば良かった」と心の底から思ったことは言うまでもない。
「お疲れさまです。今お帰りですか?」
窓ガラスを下げた彼が煙草を吸いながら微笑む。
「ああ、そうだよ。若王子くんは帰らないの?」
「ええ...まだ仕事が残ってるので、それを片付けてから帰ります」
仕事が残っている割には煙草片手にソシャゲなんて呑気なものだ。
「遅くならないうちに帰るんだよ」
「ありがとうございます。あっ...主任、ちょっと」
おいでおいでと手招きをされると、何だか嫌な予感。
また何か良からぬことを考えている訳じゃないだろうな...?
あまり近寄りたくないが、ずっと手招きをするものだから仕方なしに歩み寄ってみる。
「少し屈んで」
「?」
言われた通りに屈むと、運転席の窓から手を出してきて、そっと頬を撫でられた。
「あっ...な、何...」
若王子から見詰められると心拍数が上がる。
身を乗り出すようにして顔を近付けてきた彼は、きっと私にキスをーーー。
「...ふふ、まつ毛ついてましたよ」
「...え、あ、ありがと...」
なんだそれ。
「では、お気をつけて」
柔らかく微笑んだ彼に別れを告げ、車に乗り込む。
「...なんだよ、期待したみたいになったじゃないか...」
ギュッと唇を噛み締めると、また自己嫌悪に陥るのであった。
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