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頂戴
しおりを挟む「あっ、待って...」
顎を掴んだ冷たい彼の手。
唇が触れそうになった瞬間に身体を押し返すせば、咄嗟に顔を伏せた。
どうしよう、胸が苦しい...。
この匂いだけでもえっちなこと想像しちゃうのに、実際キスなんかされたら絶対に蕩けてしまう。
「一応職場、だから...っ」
「...そうだな」
再び優しく抱き締めた彼が、私の額にキスを落とす。
ピク、と小さく反応する身体を見て、神崎は目を細めた。
「でも、キスしたい...」
「...家に帰ってからなら...」
おずおずと彼の腰に腕を回し目を瞑ると、異様な安心感に包まれた。
温かい、安心する、気持ちいい...。
「ねえ神崎、このジャージちょうだい」
「だめ」
「次の体育っていつだっけ?それまでには洗濯して返す」
「明後日だけど、今日の夜返して」
えー...でもこれと一緒に寝たい...。
嫌々と首を振るが、6限目が体育で汗をかいたためいち早く洗いたいらしい。
流石に私の頼みでも、汚い物をずっと傍に置いておくわけにはいかないと、断固拒否された。
「...じゃあこの前のパーカー貸して」
「俺がいつも近くに居るんだから、貸す必要なくね?」
「いや、神崎は寝る時上裸になっちゃうんだもん。神崎からもいい匂いするけど、やっぱり生地によって違うって言うか...」
...まって、めっちゃ変態みたいじゃん。
「と、とにかく...このジャージとパーカー交換ね」
「完全に人質...」
神崎の身体からするりと抜け出す。
鼻も匂いに大分慣れたし、透けた部分もお陰で隠れたし職員室に戻ろうかな...。
「じゃあ、私は夏休み前のテスト作らなきゃいけないから戻るよ」
「早いな、せっかくここでえろいこと出来ると思ったのに...」
ボソリと呟いた神崎も、ゆっくりと立ち上がり2人で空き教室を出た。
神崎とは生徒用玄関で別れ、そのまま職員室に足を運ぶと、神崎のジャージを着た私を見るなり石井が目を輝かせる。
「姫神先生のジャージ姿!?」
「ああ、その...水がかかっちゃって透けてしまったんです。みっともないから隠せってことで、ジャージをお借りしました」
椅子に腰掛けノートパソコンを開く。
「大丈夫ですか?暑いとはいえ、風邪には気を付けてくださいね...ただでさえ貴方は生活習慣が乱れまくっているのですから」
眉間にシワを刻む碓氷は、心配してくれているのか、ただ嫌味で言っているのかが分かりにくく、反応に困ってしまう。
「主任、そんなジャージより僕の白衣をお貸ししますよ。はい、どうぞ」
碓氷に反応する前に、割り込んで口を開いた若王子は、いつもの如く何かに対抗して私の肩に白衣をかける。
甘い匂い。
前までこの匂いは得意じゃなかったが、最近ではいい匂いだと思うようになっているわけで...
「若王子くん」
「はい、何でしょう」
「この白衣ちょうだい」
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