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シャワーを浴び、乱雑にタオルで髪や身体を拭く。
「なにこれ」
いつの間にか常設されている俺の下着入れには、先週没収された際どい下着の数々が綺麗に収納されていた。
「ふふ、几帳面な奴...」
その中から適当に取り出した下着を身に着けては、彼から借りた服に腕を通した。
黒田の匂いがする。
未だ雫が滴り落ちる髪を乾かして貰おうと、黒田を呼びにリビングまで足を運んだが、微かに聞こえてきた2人の声に思わず立ち止まった。
「鏡夜のこと、本気?」
「...」
......俺の話...?
「...やめとけよ。椿って昔からそうじゃん。なかなか自分のモノにならない状況を楽しむだけで、いざ手に入ればすぐに飽きる。
お前の歴代の彼女を見てみろ、大病院の女医師、CA、NO.1キャバ嬢、社長秘書諸々...見事全員泣かせてる」
すり、と足元に擦り寄って可愛い声で鳴くきなことあずきを抱き寄せ、その場にぺたんと座り込む。
「その子たちのこと、あんなに甘やかしてお姫様扱いして、向こうが恋人になる決意をした瞬間「お前に飽きたから別れる」ってドン底に突き落としてさ...、相手の感情なんかは完全に無視。
人が平気ですることじゃねぇよ」
...?
俺の困った表情を覗き込む2匹の猫に顔を埋め、さらに聞き耳をたてた。
「分かってんだろ?お前にとって、鏡夜はもう、気高くて手に入らない存在なんかじゃない」
喉が異様に乾いて、身体が微かに震えているのが分かる。
これ以上、聞かない方がいいと言うこともーーー。
「鏡夜がお前のことを好きだと言ったら?本当に恋人同士になろうと言ったら?
また平気で捨てんの?鏡夜の態度を見れば、お前を好きなことくらいわかるだろ」
は......、捨てる?
この俺を?
馬鹿言うな。
俺が捨てられるはず...、こいつが俺のことを捨てるはずがない。
だって、俺のこと可愛いって、デートも楽しかったって...お弁当もあんなに喜んでくれたのに。
今まで見ていた黒田と光悦の話す黒田の温度差が凄すぎる。
まるで俺の見ていた彼は、偽りの人物のようじゃないか。
「ああ。
もちろん、分かってるよ。好きになってもらうために誰よりも優しくしたんだから。まだ1ヶ月も経ってないけど、確かにオレに堕ちるのは早かったな...」
ドクン、ドクンと脈打つ心臓に眉を顰めた。
大丈夫。
嫌な予感はするけど
黒田は俺のこと、捨てたりしないよね...?
「少し甘い言葉を囁いて、大切にしてる風を装っただけでアレなんだもん。
流石に興醒めだった」
頭が、真っ白になった。
「鏡夜ってメンタル弱い割にプライドは人一倍高いし、自分の思い通りにいかないと不機嫌になるような面倒な性格をしている。
それでも他人に嫌われたくないと言う感情は人一倍あるみたいでね、そう言うところもなんて言うか...」
もう、これ以上聞きたくない。
浴室へ逃げるように這う俺の耳に届いたのは、冷たくて鋭い言葉だけだった。
「正直参ってるよ」
つ、と頬を一筋の涙が伝い、頭が真っ白になった。
何も、聞こえない。
涙を舌で舐めるきなことあずきが、どうしても歪んで見えてしまう。
自惚れていた。
彼がずっと、自分のことを好きでいてくれているのだと。
でもそうだな...思い返してみれば「好き」と言う言葉を、彼の口から聞いたことなんて1度も無かった。
暇つぶし
その言葉がしっくりくる。
一生俺のことを好きでいてくれる保証や、傍にいてくれる保証なんて最初から無いって分かってたのに。
黒田となら、恋人になってもいいかも、なんて
いつからこんな馬鹿げた考えを持つようになっていたんだろう。
「なにこれ」
いつの間にか常設されている俺の下着入れには、先週没収された際どい下着の数々が綺麗に収納されていた。
「ふふ、几帳面な奴...」
その中から適当に取り出した下着を身に着けては、彼から借りた服に腕を通した。
黒田の匂いがする。
未だ雫が滴り落ちる髪を乾かして貰おうと、黒田を呼びにリビングまで足を運んだが、微かに聞こえてきた2人の声に思わず立ち止まった。
「鏡夜のこと、本気?」
「...」
......俺の話...?
「...やめとけよ。椿って昔からそうじゃん。なかなか自分のモノにならない状況を楽しむだけで、いざ手に入ればすぐに飽きる。
お前の歴代の彼女を見てみろ、大病院の女医師、CA、NO.1キャバ嬢、社長秘書諸々...見事全員泣かせてる」
すり、と足元に擦り寄って可愛い声で鳴くきなことあずきを抱き寄せ、その場にぺたんと座り込む。
「その子たちのこと、あんなに甘やかしてお姫様扱いして、向こうが恋人になる決意をした瞬間「お前に飽きたから別れる」ってドン底に突き落としてさ...、相手の感情なんかは完全に無視。
人が平気ですることじゃねぇよ」
...?
俺の困った表情を覗き込む2匹の猫に顔を埋め、さらに聞き耳をたてた。
「分かってんだろ?お前にとって、鏡夜はもう、気高くて手に入らない存在なんかじゃない」
喉が異様に乾いて、身体が微かに震えているのが分かる。
これ以上、聞かない方がいいと言うこともーーー。
「鏡夜がお前のことを好きだと言ったら?本当に恋人同士になろうと言ったら?
また平気で捨てんの?鏡夜の態度を見れば、お前を好きなことくらいわかるだろ」
は......、捨てる?
この俺を?
馬鹿言うな。
俺が捨てられるはず...、こいつが俺のことを捨てるはずがない。
だって、俺のこと可愛いって、デートも楽しかったって...お弁当もあんなに喜んでくれたのに。
今まで見ていた黒田と光悦の話す黒田の温度差が凄すぎる。
まるで俺の見ていた彼は、偽りの人物のようじゃないか。
「ああ。
もちろん、分かってるよ。好きになってもらうために誰よりも優しくしたんだから。まだ1ヶ月も経ってないけど、確かにオレに堕ちるのは早かったな...」
ドクン、ドクンと脈打つ心臓に眉を顰めた。
大丈夫。
嫌な予感はするけど
黒田は俺のこと、捨てたりしないよね...?
「少し甘い言葉を囁いて、大切にしてる風を装っただけでアレなんだもん。
流石に興醒めだった」
頭が、真っ白になった。
「鏡夜ってメンタル弱い割にプライドは人一倍高いし、自分の思い通りにいかないと不機嫌になるような面倒な性格をしている。
それでも他人に嫌われたくないと言う感情は人一倍あるみたいでね、そう言うところもなんて言うか...」
もう、これ以上聞きたくない。
浴室へ逃げるように這う俺の耳に届いたのは、冷たくて鋭い言葉だけだった。
「正直参ってるよ」
つ、と頬を一筋の涙が伝い、頭が真っ白になった。
何も、聞こえない。
涙を舌で舐めるきなことあずきが、どうしても歪んで見えてしまう。
自惚れていた。
彼がずっと、自分のことを好きでいてくれているのだと。
でもそうだな...思い返してみれば「好き」と言う言葉を、彼の口から聞いたことなんて1度も無かった。
暇つぶし
その言葉がしっくりくる。
一生俺のことを好きでいてくれる保証や、傍にいてくれる保証なんて最初から無いって分かってたのに。
黒田となら、恋人になってもいいかも、なんて
いつからこんな馬鹿げた考えを持つようになっていたんだろう。
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