転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス

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15 倫理的に

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「やめろ、何するつもりだ。」

 ディランは俺の体を撫で回し、女と違ってないはずの胸を揉み、まさぐる手が小さな突起を見つけて深爪の指先でえぐって来たとき、前世と今世を合わせた人生でも感じたことのない、腰にくる痺れを感じて俺は慌てて本気の抵抗を始めた。
 取っ組み合いでディランの手首を取り、セクハラを阻止したら次は腰をこすりつけてきた。膝で押し上げるが体重差はいかんともしがたい。ディランがニヤッと悪役みたいな笑みをした。
 ちょっとしたじゃれ合いが取っ組み合いになり、格闘技の様な激しさになって、Cランク冒険者同士とはいえ体格の差や筋肉の総量から、俺はどんどん押され気味になって、筋肉強化魔法を使おうとしたところで大部屋の扉が開いた。

「うわぁ・・・、ヤるなら外行けよ。」
「うおー、やめろー、俺にはそいつと同じ年齢の息子がいるんだ! そういうのは見たくない!」

 色っぽい雰囲気はないつもりだったけど、俺に覆いかぶさるディランという構図は護衛仲間と商人たちを勘違いさせるのには十分なようだ。
 雇い主の商人に止めろと言われたディランは力を抜いてハンズアップ。俺は上がった息を整えた。

 でも、完全に諦めたというわけではないディランは肘枕で俺の背中にぴったりとくっついている。
 周りに人がいる状態で手を出してくることはないと思うが、俺が身を固くして警戒していると、

「なぁ、やらねぇから、キスさせてくれよ。」
「やだよ。」
「なんでだよ、男同士に嫌悪感はないだろ?」
「嫌悪はないけど、俺が女好きという可能性を考えないのかよ。」
「まーそーね。俺、処女好きだからノンケを選びがちだし、前の恋人には『やっぱ女を抱きたい』って振られたし、次こそは同性愛者を選ぼうと思ってたんだけどよー、お前見てビビッと来ちゃったんだよ。」

 髪にキスされたが、髪は洗ってないから止めて欲しい。
 臭いを気にした俺が距離を取ろうと離れたらディランの腕が俺の腹に回されて引き寄せられた。
 ディランの体にすっぽりと収まってしまった俺は子供時代に父に添い寝された時の事を思い出し、精神年齢が肉体の年齢に引っぱられ、抵抗する気合がしぼんで、安心感を覚えて力が抜けていく。

「一目惚れだ。男も女も知らない真っ新な体の子どもが、焦燥感で張り詰めた雰囲気をまとって、虚勢を張った背筋を伸ばす姿に目が引き寄せられたんだ。それが、ギルドカード再発行の罰金を聞いた瞬間、崩れて、覗かせた不安そうな幼い目を見て──手に入れたいと思った。体から心までこの手の中に落としたいと思った。」

 耳元で囁くディランが首筋に鼻先を擦り寄せて『すぅー』と匂いを吸い、俺は危機感だけではないゾクゾクとした感覚に色っぽい息を漏らしてしまった。
 背中でディランが嬉しそうに喉を鳴らして笑ったので、俺は照れ隠しに肘で殴った。

 でも、照れた。恥ずかしくなった。色っぽい声が出てしまった事を恥じらったのではなく、ディランに首筋の匂いを嗅がれた事に俺は性的に感じて色っぽい声が出た事が恥ずかしいと思ったのだ。ついさっきまで拒んでいたくせに、と。

 仕方がないだろう。と、言い訳したい。
 こんな直球の告白、いや口説きを受けて俺の肌は嫌悪感で鳥肌が立つこともなく、ほんのり熱を持って赤らんでしまっている。こんな熱い気持ちを向けられて、心も体も求められて、悪い気はしないというか・・・正直、嬉しいと思ってしまう。

 状況的に弱ってるところに付け入られている可能性もある。処女が好きと公言するような男だ。処女だけ食われて捨てられて、弄ばれるだけだとしても、今現在、ディランの親切に助けられているのだ。それくらい代償は支払ってもいいのではなか、と丁度よい理由付けもあるし。

 正直、ケツを使うことは怖いけど、父とローランの仲の良さを知っている俺は男同士に嫌悪感もないし、俺に惚れたと言うディランなら、痛みや恐怖を払拭してくれるくらい優しく、ケツで気持ち良くなれるようにしてくれるのでは? とか、不安より期待のほうが大きくなっていたりする。

 でも、どうしても引っかかるものがある──

「ダメだ。」

 俺の拒絶の言葉を聞いたディランが密着させていた体を離し、性的なものを感じさせない手で頭を撫でてきた。
 こんなたった一言で引いていくディランに「何故?」と俺は困惑したが、すぐに「男は無理」という意味の『ダメ』だと勘違いさせたことに気づいて、名残惜しげに俺の腕を撫でて引いていたディランの手を捕まえた。

「違うんだ。ディランが無理とか、男が無理って意味じゃなくてっ、その、何ていうか、倫理観が邪魔をするっていうか・・・。あんたには助けられてるし、1回、抱かれるくらいなら良いかなぁって思わなくもないんだけど・・・」

 まさか俺のほうが引き止める側になるとは思っていなかったので、上手く言葉が出てこなくて、しどろもどろになる俺をディランは疑わしいと言う目で見てくる。

「ふーん、1回じゃ足んねぇよ?」
「真面目に答えてんだから茶化すなよ。」
「はいはい、続けて。」
「だから、俺の倫理観だと15歳は若すぎて犯罪的な感じがして、ちょっと・・・」
「15歳は成人だし結婚もできるぞ?」
「わかってる。わかってるけど、でも、俺としては受け入れがたいんだよ・・・! 15歳と21歳って、5歳差の夫婦とか普通にいるから別に変なわけでもないけど、10代と20代にとっては違いが大きいっていうか、その──」
「なら何歳なら良いんだ?」

 前世、俺は消極的な方向のダメ人間だったが、法に触れるようなことには手を出さない真面目ちゃんだった。いたってノーマルな性癖の俺は「女子中学生を凌辱します」的な漫画は地雷だったし、一番の好みは酒を覚えた大学生が酔ってお持ち帰りしたり、されたりする展開だった。
 なので、俺的には『セックスするなら20歳ハタチから』なのだが、この世界の平民の平均寿命は60歳なため、結婚も妊娠も性に関する事は早い。

「じゅう・・・はち?」
「あぁん? 18だぁ? 3年もお預け食らわそうってか?」
「ほんとは20・・・」
「はぁーー? 女なら行き遅れ呼ばわりされるぞ。」

 女で20歳を過ぎても独り身でいると何かしらの事情があるのでは、と勘繰られるし、男で20歳と言えば嫁と子どもを持って一人前と認められるような年齢だ。
 そもそも、若い子が好きなディランからすれば、今、この瞬間にこそ価値があり、5年後の俺なんか、何の価値もないかもしれない。
 それでも、相手の意向をキチンと確認するディランは、乱暴者か粗忽者の集まりなんて言われる冒険者にしてはあまりに真面目で真っ当な思考の持ち主だ。
 そこに甘える俺をディランは許してくれるだろうか。これで俺に価値を見いだせないとして見捨てられるだろうか。せめてポテンテまでは助けて欲しいのだが、やはり、そのためには俺の倫理観なんか捨てて身を差し出すべきなんだろうか。

 無言で視線だけで交わされる交渉は──

「・・・わかった。3年、待ってやるよ。」

 ディランが折れた。5年は待てなかったらしい。
 切り捨てられなかった事にホッと胸をなでおろした。

「その代わり、お前は童貞処女のままでいろよ! 誰にも体を許すな。いや、触らせるのもダメだ。俺が我慢したものを横から掻っ攫われるなんて耐えられんッ。」

 ディランは髪を掻きむしりながら俺の布団でジタバタと暴れて、このまま襲ってしまいたいという最低な欲望を押さえて、本音の欲望は口にする。
 本当にこの男はカッコイイと思ったら残念発言ばっかりで、前回は呆れたが今回は可笑しくて笑ってしまった。

「女とするとしても20になってからと決めてた。」
「本当だな? 絶対だぞ?」
「あ、でも不可抗力はどうしたらいい? 無理矢理とか不意打ちとか。酒で酔い潰されてとか薬で朦朧とするとか。」
「Cランク冒険者ならなんとかしろ。酒は俺と飲む以外は禁止だ。」
「わかった。俺の初めての酒もディランと、だな。」

 すでに料理用の酒は味見でちょっとだけ口にしてるけど、カウントには入れないでもらいたい。
 この世界の『ビール』は名前はビールだけど、前世のビールと違ってポップの苦みはなく麦芽飴のような甘さがある。飲み始めはアルコールの苦さがあるのに後味に甘味が舌に残る。
 甘いものが貴重な世界で、ついつい飲みすぎてしまうのは間違いない。監督者がいるところで飲むのは安心できる。
 うん、3年後が楽しみだ。

「あー、くそー、生殺しだよぉ、お前は魔性の男だよぉ・・・ほんと、まじで童貞処女でいろよ? 卒業喪失してたら、俺泣くからなッ!!」










***

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