妖精王の祝福は男性妊娠〜聖紋に咲く花は愛で色づく〜

リトルグラス

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 アレクレットはほとんど白目になって頬杖をつき、クラウディオと付き合うことを認めた。結婚するよりはマシだという意味で。

 小さくガッツポーズしたクラウディオは、生クリームの多いケーキをアレクレットの皿に乗せてニコニコと笑顔を輝かせている。
 これみよがしにフォークでぶっ刺して一口で頬張れば、さっきまで食べていたクロテッドクリームの濃厚さとは違った、上品なあっさりとした甘さとフルーツの酸味のある香りが鼻を抜け、そこに紅茶を飲むと生クリームの甘さは舌に残らず、さっぱりと消えて紅茶の香りを感じられる。

「はぁ、うまぁ・・・」

 美味しいものを食べて、顔が綻んで、その美味しいケーキがまだもう一つあると思うと嬉しくなって目の前の不満が薄らいだ。完全にクラウディオの思う壺だと分かっていても脳は単純なものである。


「さて、じゃあ、教えてもらおうか。最低限の条件」
「ええ。条件は二つです。一つ目は、聖紋が完成していること。二つ目は、聖紋が赤く色づくこと。この二つを達成すれば、子どもが出来ます」

 期待外れの回答に『それは知ってる・・・』とアレクレットは肩を落とす。
 クラウディオも額に拳を押し当て、苦々しい顔で歯ぎしりをして『それだけか?』と問い、ジョン=スミスは『これだけです』と答える。

「赤くなるってのはアレクレットの父親の写真を見せてもらったから分かるが、聖紋が完成しているかどうかはどう判断するんだ? 模様は人それぞれ違うんだろう?」
「これが完成形ですといえるものはありません。ある程度の複雑さや模様が占める面積で判断します。アレクレットさん、聖紋を見せていただいていいですか?」

 アレクレットがスラックスのチャックを降ろしてパンツを少しずらす。ジョン=スミスはチラリと見ただけで『もう結構ですよ』と言った。

「まだ2割にも達していないですね」
「じゃあ、聖紋を完成させるには何をしたら良いんだ?」
「それはお答えできません」

 それじゃあ、最初の状態から何も変わらない。父親のような聖紋にならないとダメなんだろうということは予想がついていた。
 アレクレットが知りたいのは、聖紋の模様を増やす方法と聖紋の色を赤くする方法なのだ。

「あのー、なんで教えてもらえないんですか?」
「祝福持ちを守るためです。お二人が私から聞いた話を他の人に漏らさないという確証が持てませんので」
「僕にだけ教えるってのも、ダメですか?」
「クラウディオさんが無理矢理に聞き出す可能性は十分にありえますので」
「えー・・・、じゃあ、ヒント!」

 苦し紛れに言ったこの一言で、アレクレットの生活は一変させられることになった。





 あのあと、ジョン=スミスに『そろそろ時間なので』と言われて解散し、ホテルに行くはずだった予定は変更され、今、アレクレットはクラウディオの家に来ている。

 クラウディオの家はファミリータイプの分譲マンション。部屋は3LDKだと言われて、後ろを歩いていたアレクレットが見たのは、引っ越ししてきたばかりですかと聞きたくなるようなダンボールが雑然と放置されているリビング。
 何かよく分からない物と平積みされた本が、通り道の邪魔にならないように壁際に寄せられて、ソファは洗濯物置き場になっている。食卓にも何か良くわからない小物と積み上げられた本に占領されて、ここで食事を取っているとは思えない。
 料理をあまりしないことが分かるキッチンは、空っぽと言う意味で綺麗だ。

「部屋、汚いね」
「家が広いってバレてから研究室の荷物をどんどん運び込まれてこうなったんだ」

 必要最低限の食器しかない備え付けの食器棚のから大きさの違うグラスを二つ取り出し、家に対してミスマッチに小さい一人暮らし用の冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出して飲み物の用意をしたら、次に案内されたのは殺風景な寝室だった。

 数枚の服がかかったハンガーラックに二人の服とカバンをかけて、小さめのスチールラックには鍵や財布の小物類が置かれた。
 他はシングルベッドと勉強机。机の上もノートパソコンと大学で使っているらしきファイルが数冊と文房具類があるだけ。
 片付けるものもないようなこの部屋が本来のクラウディオの性格なのだろうか。でも、あの汚いリビングを放置している頓着しないという性格の方が本質的な気がする・・・と考えていたら、クラウディオがキャスター付きサイドチェストを部屋の中央に持ってきてコーヒーのグラスを置いた。
 どうやらコレが机代わりのようだ。

「この部屋が俺の自室。あと空き部屋が一つと、書斎というか研究用にしてる部屋があって、その部屋はリビングと同じくらい散らかってる。アレクレットには空いてる部屋を使ってもらおうと思ってる」


 なぜ、こんな話をするかと言うと、アレクレットが苦し紛れに求めた『ヒント』に対して、

『子どもを作ることを前提にお付き合いをはじめられるのですから、同棲されてはいかがでしょうか?』

 と、ジョン=スミスが言ったからだ。

 気が早すぎるクラウディオは『なら俺の家だな』と言って、『もう少しお互いを知ってから』とのアレクレットの反対意見はすべて無視されクラウディオの家に連れてこられた。


「あのさ、僕、付き合うとは言ったけど、同棲するとはまだ言ってないんだけど?」
「どうせ何回かデートして飯食って、メッセージのやりとりしたら同棲するんだ。先に同棲してからデートをすれば良い」
「何回かのデートで僕がクラウディオをお断りするっていう可能性は考えないのかい?」
「そうだとしても、妊娠の条件を見つけるまでは俺と聖紋を研究するしかないんだ。ほら、やっぱ、同棲する方が効率がいい」

 自身の言葉を確信しているクラウディオは、むしろ分からないアレクレットの方が間違っているのだと言いたげだ。
 上手い言い返しが思いつかなかったアレクレットは『せめて一回くらいデートしようよ』と提案してみたら

「そうだな。家具と家電、見に行くか。アレクレットが来るまでにはリビング、掃除しとくよ」
「はぁー、もうー、そういう事じゃないんだけどなぁ・・・」







***











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