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21 買い物デート

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 2週間前に計画していた買い物デートでは、アレクレットが使うベッドを買いに行く予定だったのだが、リビングの片づけで忙しくデートに行くタイミングがないと判断したクラウディオはネットでベッドを注文して購入した。

 ちなみに、リビングの荷物は大学の研究部屋にも戻せないし、研究仲間も引き取れないというので、仕方なく引き続きクラウディオの家でそのまま保管することになった。
 そのために天井まである仕切り棚を荷物の持ち主たちが購入し、組み立てと部屋の片付けを大学の後輩を使ってなんとか整理出来たそうだ。


 今日の買い物で何を買うのかと言えば、あると思い込んで持ってこなかったトースターとヘアドライヤーだ。
 朝ご飯を食べるならトーストが楽だし、メンズボブヘアの髪型をしているアレクレットにとって、キューティクルのツヤは毎朝のヘアセットの時間を短縮させるためにも必須。

 家電量販店で、二人は商品を眺めてあれこれと意見を交わす。
 安くていいだろうと言うアレクレットに、値段の違いが何の機能による差なのかをいちいち知りたがるクラウディオ。

 購入したのは、機能は少ないけど美味しく焼けると謳う高級路線のトースター。ドライヤーはサイズが大きいが風量の多いものにした。
 アレクレット的にはどちらも予算オーバーだったが、クラウディオが毎日使うものは不満の少ないものが良いと言って買ってしまった。

「このあとどうする? 少し早いが今から食べるか、買い物してから遅めの飯にするか。食うとしたら何食べる?」
「ファストフード系がいいな。バーガーとかバケットサンドとか。あと、カフェでグレーズドドーナツ食べたい」
「あぁ、チェーン店のな。なんて名前だったかな? どっかのビルで見た記憶はある・・・」

 クラウディオがスマホでドーナツのカフェを検索しているあいだ、アレクレットはお昼ご飯のファストフードの店を検索した。
 新作商品の味が気になったバーガー店に決めて近場のショップを検索したら3店舗も見つかったので、このあとの予定次第で決めようとボーッとしていたら、面識のない男が話しかけてきた。

「こんにちは、買い物帰りですか?」
「え?」
「今からご飯? だったらあそこのガレットのお店おすすめなんですけど、よかったら一緒にどうですか?」
「あ、あの、僕・・・」
「あれ、男の子? まじ? 可愛い~。あ、バーガー食べに行くんだ。奢るから一緒に食べない?」

 スルッと近い距離に入られたせいで驚いてしまってうまく声がでなかった。操作していたスマホを覗き込まれ、更に距離が縮まった瞬間、体をのけぞらせ後ずさりクラウディオにぶつかった。

 ぶつかられたクラウディオはスマホの画面から目を離さずに『どした?』と聞くが、アレクレットから返事がないのに気づいて顔をあげ、見知らぬ男がアレクレットの隣りにいる事に小首をかしげた。
 一瞬、偶然出会った顔見知りかと思ったが、アレクレットの困った顔に気づき、男の正体に検討がついた。

「おい、コイツは俺の連れだ。ナンパなら他に行け」

 クラウディオの低い声を受けた男は『なんだ彼氏登場かよ』という捨て台詞でさっさと退散した。

「アレクレットってよくナンパされるのか?」
「昔はあったけど、今はあんまり出掛けないから、だいぶ久しぶりにナンパされたや」

 バーガーショップは今いる場所から一番近場を選び、買い物は目的を決めず、おやつ時になるまでブラブラと歩き回ろうと決まった。
 クラウディオが注文をして、アレクレットは4人座れるボックス席を確保しにいく。注文を終えたクラウディオが一度、席を確認に来てカバンを置いて商品の受取に再び向かった直後、女の二人組が声をかけてきた。

「すいませーん、私たち、二人なんですけど~」
「相席良いですかぁ?」
「は、え・・・」

 アレクレットは一瞬、意味がわからず戸惑った。人が少しづつ増えてきているとはいえ、カウンター席はまだまだ空いているし、どうしてもボックス席が良いのなら、子連れがいる席の隣が空いていたからだ。
 席を見回していた隙に、女の二人組はアレクレットの返事も聞かずにトレーとカバンを置き、勝手に座る。

「カッコいいですね。お一人ですか?」
「違うよ、さっき男の人がカバン置きに来てたから。お二人なんですよね?」
「ぁ・・・、あ、えと、・・・っ」

 アレクレットはこういうとっさの判断がどうしても出来ずあたふたして、拒否する意味合いの言葉が言えない気の弱さからパニックに陥ってしまう。


「おい、この女達はなんだ?」


 不愉快感を全面に出した低い声には、若干の呆れも感じられた。

「あ、クラウ──」
「お友達の人もカッコいい~!」
「すいませんが席空いてないので、ご一緒させてください」
「はっ? 嫌に決まってるだろ。──アレクレット、向こうのカウンターの席に行くぞ」
「ぅ、うん・・・っ」

 アレクレットは荷物を掴んで先に行ってしまったクラウディオを追いかけた。


 角を曲がった先の席はガラス越しに通行人が見える席でちょっと落ち着かない気がするけど、さっきの女二人組の姿は完全に見えなくなるので乱れた心は落ち着いていく。

「ナンパされまくりじゃねぇか・・・」
「ハハハ、ハハ、・・・ごめん」
「なんで謝るんだよ。アレクレットは悪くない。せっかくのデートなのに、声かけられて気分悪くなるよな。安心しろ。もうアレクレットから離れないようにする」

 肩を引き寄せられて、こめかみにキスをされ、アレクレットは顔を真赤にする。近くに座っていた人もこっちを見ていたし、ガラスの向こうの通行人からも視線を感じた。
 同性愛に理解があるお国柄と言えど、公共の場では同性同士であからさまなスキンシップはとらないものなのに、クラウディオはそういう周りの目を気にする様子はない。
 アレクレットは堂々とした振る舞いに男ながら胸をキュンとさせられた。

 その後の買い物中、クラウディオはアレクレットの手を取って歩き、手を繋いでいない間は腰を抱く。チラ見してくる人の視線にも動じず、からかいを含む言葉には威圧感のある見下しで黙ったまま追い払う。

 頼りがいのあるエスコートをうけ、カフェで休憩する頃にはアレクレットの意識は完全にクラウディオの『彼女』になっていた。



「はぁ~、たのしかったぁ~。いっぱい買っちゃったよ~」
「普通の買い物だった気がするけど、楽しかったなら何よりだ」

 帰ってきたアレクレットは買い物袋たちと一緒にソファにダイブした。

 特に服を選ぶのは楽しかった。定員にピッタリと張り付かれることもないし、自分の好みとは違う商品を定員にやたらとオススメされることもない。試着しても定員が褒めちぎってくることもないし、やっぱり買わないとなった時は断り文句を上手く言えないアレクレットに代わってクラウディオがズバッと言ってくれる。
 カフェではバックハグをされたまま注文し、定員のお姉さんから微笑ましげな顔をされて、はずかしくなったアレクレットがうつむくと、調子に乗ったクラウディオは、ほっぺにチューまでしてきた。
 晩御飯は呼び込みや客引きの多い通りを往復して肉料理の美味しそうなグリルを選んだ。


 恥ずかしさはあったけど、今日の買い物デートはナンパ以降、嫌な思いを一つもしなかった。
 普通の買い物が出来たということが、アレクレット一人では絶対にできなかった何よりも嬉しい事なのだ。

 クラウディオはアレクレットの買い物袋をソファの横に並べて、楽しかった余韻に浸っているアレクレットから上着やカバンを丁寧に脱がせたら仮置き場のハンガーラックにかけ、片付けたあとはアレクレットの隣に座り、髪を撫でる。

「満喫したか?」
「うん!」
「じゃあ、このあとの夜は俺に付き合ってもらうかな」
「なにするの?」
「聖紋の検証」
「もぉ~、研究しないでって言われてるのに」
「しないなんて、俺は一言も言ってない」

 アレクレットは覆いかぶさってきたクラウディオのキスを受け止めたが、残念ながら、そのキスは晩御飯に食べたガーリック香る肉の匂いと味がした。

「せめて歯磨き、出来ればシャワー浴びよ?」
「それは同意する」







***











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