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22 同棲生活
しおりを挟む買い物デートから三日後の夜、アレクレットが聖紋の模様が増えている事に気付いた。
風呂の中からクラウディオを呼び、血色が良くなった肌に薄っすらと増えた模様が浮かび上がる。『ヨシッ!』と喜ぶかと思ったが、クラウディオは指で頭をかいて悔しそうに小さな舌打ちをした。
「肉が割れるように模様の先が伸びるのかと思ってたけど、模様が浮かび上がる系だったか、プログラム書き換えないと・・・」
機能も一昨日もしたセックスはこの日、連続記録が途絶えた。クラウディオは二日かけてプログラムを書き直したが、結局、人間の目視に勝るほどのものは作れず、記録画像の比較用ソフトに成り下がってしまった。
クラウディオは、所詮は素人が書いたプログラムだから仕方がない。と言いながらもセックスの際には聖紋を撫でながら悔しさをにじませてつぶやいた。
「白は肌の状態に影響されて検出しづらいんだよなぁ。せめて、赤色をしてたら俺のプログラムも使えたのに・・・」
クラウディオには自室にベッドもあるが、寝る時はアレクレットのダブルベッドで寝る。
そして、朝はアレクレットの出勤時間に合わせて一緒に起き、朝食を一緒に食べる。
最初はどのお皿を使うのかすら分からなかったクラウディオだが、1週間も経てば、アレクレットの準備に合わせて食器棚から必要なお皿を取り出し渡せるようになり、ドリップコーヒーを作るのはクラウディオの担当になった。
作業を分担できるおかげで二人の朝ご飯はボリューミーだ。
作り置きしておいた具沢山スープを温め、5枚切りのパンをアレクレットがハムエッグトースト、クラウディオはピザエッグトーストにして作る。こだわりは美味しい塩と粗挽きのコショウ。フレッシュバジルをちぎって乗せれば、朝から香りも見た目も華やかな朝食になる。
ニュース読み上げアプリを聞きながら食べて、後片付けはアレクレットが出勤準備をしている間にクラウディオがする。
大体、鍋の洗い物をしている間にビジネスカジュアルに着替えたアレクレットが『これ、大丈夫かな?』と聞きに来るので『大丈夫、可愛い』とクラウディオが言って安心顔になったら出勤する。というのが朝のパターン。
ただ、二人の同棲生活が楽しそうに見えるのはこの朝だけ。
仕事から帰ってきたアレクレットは書斎のドアをノックし、返事がないがドアを開ける。
今日のクラウディオは机でノートパソコンをパチパチと打っていた。
掃除担当のアレクレットがこの書斎だけは掃除しなくて良いと言われたのは、クラウディオが机や床に本や書類を広げて置くからだ。
けして、散らかっているのではなく、むしろ、書類たちは本屋さんのように綺麗に平積みされて並べられている。
なぜこんな事をするか、と言うと、クラウディオが研究している分野は魔術式が確立していなかった時代の古代魔法の解明をしているので、インスピレーションが重要なのだそうだ。
そうして、クラウディオは書類や本を広げて置いて様々な情報を一度に視界にいれて、頭の中で引っかかった『何か』や『ひらめき』を得る、というのが彼のやり方らしい。
だから、本や書類は不用意に触ってはいけないが、声をかけられても集中力が途切れないらしいので、アレクレットは臆せず声をかける。
「クラウディオ、ただいま。ご飯作るけど、食べる?」
「あぁ、おかえり。作っといてくれたらあとで食べる」
「・・・わかった」
ノートパソコンから目を離さずに返事をしたクラウディオを残してアレクレットは扉を閉める。
室内着に着替えて、ご飯を作って、一人で食べ終わっても、クラウディオは部屋から出てこなかった。
自分が食べ終わっても来なかった場合は、早々にラップをして冷蔵庫に入れてしまうようにしている。
最初の頃は、『冷めてしまうよ?』とか『せっかく作ったんだから一緒に食べようよ』と、しつこく声をかけたが、そうすると当然、不機嫌になるので声掛けは1度きりと決めた。
クラウディオはご飯の事を忘れているわけではなく、自分にとってキリが良いところでなければ出てこないのだ。
アレクレットは出来立てを食べて欲しいが、クラウディオは出来立てだろうか冷めていようが、温め直しだろうが『美味しい』と言って食べる。
多分、食へ関心が薄いのだろう。アレクレットに出来ることは、冷めても美味しいものや出来立てでなければ味が損なわれるものはあまり作らないようにすることだけ。
今日は家にいたが、クラウディオが塾講師のバイトをする日の帰りは23時ごろと遅いため、作り置きや温めるだけのおかずを先に食べてからバイトに行き、そうではない日は今日のように書斎で研究に集中しているため、『夕飯、作ったよ』と声をかけてもすぐ出てこなかったりして一緒に晩御飯を食べる事は少なかった。
食べ終わった後も食後の一服もなくすぐに書斎に戻って、家にいある間、アレクレットは一人ぽつんとリビングで過ごす。
同居人がいるのに一人で過ごす時間と空間は、一人暮らしの時よりも寂寥感が強い。
その中で、料理の仕込みや作り置きを作る時間は寂しさを紛らわすのに丁度よく、おかげで、この1ヶ月でアレクレットの料理の腕はぐんぐん上がった。
「明日はどこ行く?」
家の中ではアレクレットを寂しくさせているクラウディオだが、週末のデートは欠かさずにする。
今まではナンパされやすいアレクレットがいけなかった場所に出掛けていたので、次はクラウディオの行きたい場所が良いと思った。
「クラウディオが決めていいよ。あ、ちゃんとしたデートコースを組むことないから。家の近くをぶらぶら散歩するだけでも良いし」
「うーん・・・、わかった」
了承の言葉は出たが、面倒くさそう。考えるのが嫌なのか、本当はデートすらも行きたくないのかちょっと判断がつかない。
たまには家でのんびりとか、別行動の日があっても構わないと思うのだがクラウディオはどう考えているのだろうか、と問いかけようとしたが、クラウディオが服の下に手を滑り込ませてきたにので違う言葉をかけた。
「今日もするの?」
「ああ。ちょっとずつだけど、聖紋は変化してるしな」
薄っすらと増えた模様はまだ薄く、線が細くなったり太くなったりと微妙な変化を続けている。
クラウディオが言うには、アレクレットの父親の例をみるにセックスが必要なわけではないだろうが、今のところセックスをした翌日は変化が出ているのでなるべく継続したいらしい。
アレクレットもクラウディオから求められる事に嫌な気はしない。
義務感などではなく、ちゃんと気持ちのこもったセックスをしてくれるし、ここで断るとクラウディオは研究に戻ってしまう。
セックスで引き止めるしかないというのは、なんとも情けないけれど、一緒にいられるならいたいのだ。
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