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23 イベントデート
しおりを挟む季節は冬になった。
同棲を始めて2ヶ月、繁忙期を抜けてアレクレットの仕事は一段落。今日は久しぶりのデート。
今日のデートは、アレクレットがSNSで見かけたペスカトーレが美味しいという店にランチの予約をして、その後はクラウディオが提案したウィンターフェスティバルに行くことにした。
目当てのペスカトーレは魚介の具はどれも小さめだったが、ソースと言うかスープが旨かった。その旨味を吸った太目の麺がもっちりとして食べごたえがあった。
しかも『漁師風』という名前の通り、その日、港で取れた魚介で作るため、場合によっては毎日味が変わるし季節が変われば間違いなく味も変わる。と聞かされたアレクレットは『そんなん、毎日食べたいよ~』と心から思うくらいに気に入った。
「春になったらまた来ます!」
「はははっ、ありがとうございます。また来てください」
「春と言わず、年明けにまた来たっていいぞ? 牡蠣が美味しくなるって別の定員が言ってた」
「そうですね。牡蠣といえばレモンと白ワインかもしれませんが、ウチは小ぶりの牡蠣をアヒージョにするんですよ」
「へぇー、美味しそう!」
「なら、年明けに来るの決定な」
「うん!」
ウィンターフェスティバルは冬支度をするための市場が起源となっている。
この国の冬は長く無いが雪が多い時期があり、その雪で閉じ込められる数ヶ月を過ごすために昔は保存食を用意する冬支度のための市場が開かれたそうだ。
現代では雪の事情は関係なくなり、家の中をカラフルに飾る習慣だけが残り、クッションカバーやテーブルクロス、タペストリーを売る手芸品バザールになり、食べ物の出店、クラフト体験ショップなどが追加され大きなフェスティバルというイベントにまでなった。
とか、そんな話をテレビで聞いているが、声をかけられやすいアレクレットにとって、こういった人が多い場所はあまり落ち着かない。
「クラウディオって、こういうのが好きなんだ?」
「いや、今までの彼女がこういうの来たがったから、イベント事はしたほうが良いかと思って」
「え? じゃぁ・・・興味ないのにここに来たの?」
「・・・まぁ、そうだな」
確かに、フェスティバルの会場はカラフルで見ているだけで楽しい部分はあるが、根本的に興味のない品物を見て歩くだけなのですでに飽きていた。
「僕も興味ないし、違うとこ行こう?」
「違うとこって言ってもなぁ・・・」
クラウディオはネット検索して見つけたイベントや画廊、お出かけスポットを提案してきたが、その姿を見てアレクレットは大事なことに気がついた。
「それ、クラウディオが行きたいところ?」
「・・・いや、そういうわけではないけど」
「僕の事考えなくていいよ。クラウディオの興味があるところに行こう? そりゃ、海で泳ぐには季節的に無理だけど、海が好きなら海岸歩くだけでも良いしさ。それとも魔法関係の方が良いかな?」
「いや、そういうのはいい」
思えば、アレクレットはクラウディオの好きなものを何も知らない。
料理の好みは酸っぱいものが苦手で苦いものが好きなのはなんとなく気づいたし、インテリアや持ち物の傾向からシンプルなメタリック素材が好きなのは分かるけど、それ以外はさっぱり分からない。
クラウディオの生活は常に魔法の研究に注がれているくせに、魔法関連の何かに食いつくこともない。魔法はあくまで研究対象として勉強しているだけ、という感じ。
アレクレットは関心を引けそうなものを連想していたが、脳裏にクラウディオの笑顔がよぎり、思い出した。
──クラウディオが目を輝かせる瞬間が一つだけある。
「クラウディオは何に興味があるの?」
「俺は、・・・・・・特にない」
「ホントに?」
「あぁ」
嘘だ。もしくは自覚がない。アレクレットは知っている。
アレクレットはクラウディオの手を取って自分の下腹部に当てて、上目遣いで問う。
「コレのことは、興味あるでしょ?」
「馬鹿っ、周りに勘付かれるような行動とるな・・・!」
「デートなんか行かずに週末はずっと、コレの研究したいって言ってもいいんだよ?」
「そ、それは・・・っ」
それから言葉なく、帰路についた。
気まずい沈黙であったが、それでもクラウディオは『デート中は離れない』の約束を律儀に守り、彼氏らしくアレクレットが振り払わない限りは手を繋いだし、電車の中では壁になった。
帰ってきてすぐに書斎に入ろうとするクラウディオを捕まえて『まだデートの時間だよ』と、アレクレットはリビングに引っ張り出した。
コーヒーを飲みながら、アレクレットはこの際だからと日頃の不満をぶつけた。
せっかくの同棲なのに、一緒にご飯を食べないことが寂しい事。──出来立てのご飯を食べてほしいのに放置されることが悔しい事。──セックスをした日でも、眠る瞬間に一人にされることが胸が冷えるように悲しい事。──一度だけだけど、テレビを見ていたときの笑い声を『もうちょっと静かに出来ない?』と言われてから声を出すのが怖くなった事。
「僕・・・もっとクラウディオと話がしたい。クラウディオのことを知りたい。こんなの、同棲じゃなくて・・・ルームシェア・・・同居人以下だよ」
「すまない・・・」
謝ったクラウディオが語ったのは、自身の過去。
クラウディオが7歳で遭難事件を起こしたことをきっかけに両親は離婚して、クラウディオは父親に引き取られたが、シングルファーザーになった父親は家庭を顧みる人ではなく仕事の帰りは遅かった。
クラウディオの食事はハウスキーパーが週に2回ほど作りに来て、クラウディオは作り置きおかずを電子レンジで温めて一人で食べる。そんな生活を8歳から15歳までつづけていた。
クラウディオが中学生に上がった頃、父親は子連れの女性と交際を始め、平日は自宅、週末は女性の家、と、クラウディオは週の半分を一人で過ごした。
高校に入ったら、父親は女性と再婚し家に返ってくるのは週に1回になり、ほぼ一人暮らし状態になった。高校にもなれば大抵のことは自分できようになるもので、掃除や洗濯は覚えた。しかし食事は面倒くささから、外食かテイクアウトで済ませた。
「学校には友達も彼女もいたし、塾に行けば自主勉仲間もいた。当時は、余るくらいに十分な金を貰ってるし。と問題だと感じたはなかったが、今なら、あれはネグレクトの一種だったと理解している」
だから、クラウディオは誰かと暮らすということがどういうことなのか分かっていなかった。
食事をバラバラにとることもクラウディオにとっては『普通』のこと。──家にいる時にアレクレットとコーヒーを飲みながら雑談するということを思いつくこともなかった。──音についてクレームを入れたのも、いままでは自分以外の誰かがいる環境を知らなかったからだ。
「週末のデートは平日に相手をしないことへの埋め合わせだった?」
「いいや、過去に付き合った彼女に言われたからだ。『週末くらいどっか連れてってよ』って」
今まで出掛けた先は全て、彼女を連れて来るならこういう所が喜ぶだろう。という予測で選んでいた。
クラウディオが行きたいところでもなければ、アレクレットが好むだろうと考えた場所でもなかった。
「ねぇ、クラウディオが本当にしたいことって何?」
「本当にしたいこと・・・」
アレクレットの言葉をオウム返しする様子は完全なる思考停止。
「お金とか時間とか何の制限もなしで、やりたいことやっていいよ。って言われたら、クラウディオは何する?」
何かを見ているようで見ていない、虚ろになった瞳にクラウディオの中の闇を感じて、何か一言でも良いから引き出そうとかけた言葉は子どもを相手にするような質問。しかし、これが正解だった。
この後の答えに、アレクレットは思わず息を呑んだ。
「・・・俺は・・・・・・妖精王を、探しに行きたい・・・」
半個室のバーで言っていた言葉を思い出す。
たしか『妖精王に関わることには手を出さない』と、父親に約束させられた上で引き取られたと言っていた。
(クラウディオはずっと『心』を閉じ込めてたんだ・・・)
だが、クラウディオは今現在、妖精王の祝福を調べ、王家が隠す秘密にまで迫ろうとしている。
確かに、まだ学生で、大学の費用を出してもらっているとはいえクラウディオはもう26歳。自分の行動に責任を持てる大人だ。
父親の呪縛からぬけだしてもよいのではないだろうか。
「じゃあ、妖精王、探しに行く? 霊界の入口がどこにあるかなんて全然わかんないけど。まずは、手がかりになる文献探しかな?」
「いいんだろうか・・・」
「いいじゃん、やろうよ!」
***
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