思い出シーカー×5

うさおう

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×36 思い出シーカー 『ルキ』

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 イカホの町、旅館ジュリ屋の二階。

 シェリィ、ルキ、クイナ、メリル、エルク。

 畳の大広間で、同時に記憶を取り戻したシェリィたち五人。

「うああああああ!!!」

 涙を流しながら、半狂乱でシェリィを攻撃するクイナ。

 影の剣を持ち、シェリィは微笑を浮かべながらその攻撃を受け流していく。彼女もまた、涙を流して。

「止まれ! 時間をくれ! 話をさせてくれぇ!」

 ルキが叫びながら二人の間に飛び込んだ。

 しかし、がむしゃらに振り回すクイナの拳は止まらず、割り込んできたルキを殴り倒してしまった。

「「ルキ!」」

 同時に声をあげたシェリィとクイナ。二人の動きが止まる、その時――

「ライトニングバインド!」

 ムチのように変化した雷の魔力が二人の体を拘束した。

「エルク!? 何考えてんのよアンタ!」

「……だ、ダメだ! エルクもやめてくれ! 戦っちゃダメだぁ!」

「落ち着いてください! 二人は冷静さを欠いています!」

 自身もまた荒い呼吸を整えながら、エルクはシェリィを見て聞いた。

「アイリーン! まず一つ答えてください! あなたに……今ここでわたくしたちと戦う意思はありますか!?」

「そんなもの……あるわけない……あなたたちと戦うなんて……出来るわけないよ……」

 シェリィは影の剣を落とした。

 その言葉を聞いて、エルクは一瞬顔を歪めるがすぐに持ち直す。

「シェリィさ……アイリーン……! では、そのまま動かないで……」

 決壊しそうになる感情を懸命に抑え、冷静であろうとする。

「エルク! 騙されんな!」

「クイナ……さんは、少し落ち着いてください……彼女はあなたの攻撃を防いでいただけです。ずっと見ていましたが、自分からは一度も手を出していません」

「ッ! う……ああ……うわああああ…………」

 その場に膝をつき、クイナは泣き出してしまった。

 黙って俯いてしまっているシェリィ、そこにルキが詰め寄り、メリルはへたり込んで泣いている。

 周囲の状況を確認したエルクは大きく深呼吸をし、口を開く。

「皆さん……ひとまず落ち着いてください……何があったのかを……整理しなくては……」

「シェリィ……お願いだよ……本当のことを話してくれ……あたしだけじゃなくてみんなにだ……もう……みんなもあたしと同じなんだよ……」

 シェリィに抱き付いてルキは泣く。

「そうだね……これ以上、間違えちゃいけないね……そうするべきだったんだ……もっと……ずっと前から……」





 シェリィは全員が落ち着くのを待ってから、自分の過去を語り始めた。

 アイリーンとして生きて来た自分の過去を、包み隠さず全て伝える。

 四人は話の途中、泣いたり怒ったり、様々な顔を見せたが、最後まで口を挟むことはしなかった。

 誰もが真摯に、シェリィの言葉を聞いてくれた。彼女と向き合ってくれた。





「――そして、私はルキと共に旅に出たんだ……シェリィの名をもらって……みんなと……出会ったんだよ……」

 話が終わり、シェリィはふぅとため息をついた。正座していた足を崩す。

「…………アタシ、しばらく出てくる。戻ってこなくても心配しないで」

 クイナは立ち上がり、広間から足早に出て行った。

 拳を強く握りしめ、声は振るえている。

 それが怒りなのかどうかは……分からない。

「……わたくしも行きます。オウカさんたちにこの事を伝えねばなりませんし……今は……シェリィさんと同じ部屋にいる気にはなれません」

 エルクはクイナと違い冷静に、仕込み杖を掴んで出て行った。

 部屋に残ったのは、疲れた顔のシェリィと俯いて考え込んでいるルキ。

 そして静かに涙を流しているメリルの三人。

「わたし、下でえるくちゃんを手伝ってくるね……お夕飯の準備をしてくれてるはずだから……」

 立ち上がるメリル。

「あ……なら私も……」

「ダメ」

 ついて行こうとしたシェリィをメリルは止めた。

「シェリィさん、あなたは今までずっとルキちゃんに心配をかけて来たんだから、そばにいてあげて。それが……償いの第一歩です」

「……はい」

 厳しく言って、メリルは台所へ向かって行った。

「…………メリルの奴、気を使ってくれたのか」

 ずっと考え込んでいたルキが顔を上げた。

「そうみたいだね……」

「………………不思議だね、シェリィ。ずっと一緒にいたのに、久しぶりに会えたような気もするよ」

「そうだね……私も変な気持ち……ずっと……幸せな夢を見ていたような……」

「あはは、あたしも! すっごく幸せだった! 五人で冒険して……ホントに楽しかったんだ! それはきっと……みんなも同じだね」

「あの子たちのショックは大きいと思う……腕輪の力が戻ったのに、クイナちゃんはそれを使わずに戦っていた。拳から伝わって来たの……あの子は迷ってる。私を殺す決心がついていない」

 ルキは少しテンションを落として、話を続ける。

「そりゃそうさ、他人事じゃなくなっちまったんだ。みんなは……シェリィを追っかけてた時のあたしと同じ立場になった。あの苦しみはよく分かってる」

 ルキは短剣を取り出してシェリィに見せた。シェリィがラルゴに渡された、ルクセリアの短剣。

「あたしは……シェリィが置いてったこれを見てずっと考えてた。止められないようならあたしが殺さなきゃって……それだって辛かったんだよ? でもね……本当に辛いのはそこからだった。殺す覚悟を決めた後で、アルシアに言われたんだ。シェリィが止まってしまったらどうするんだ? って……」

 短剣を見つめ、ルキは遠い目をして続ける。

「そん時あたし何にも答えられなくてさ……だって、もう悪さはしないって分かってる大切な人を……殺すことなんて……出来るわけないんだよ……絶対に出来ないんだ。……みんなはね、あの時のあたしの立場にいきなり立たされてる。アイリーンなら殺せるけど、シェリィにはそばにいてほしいんだ」

 ルキが持ったルクセリアの短剣を見つめ、シェリィは尋ねる。

「ルキは……どんな答えを出したの?」

「受け入れることにしたんだ。何があっても受け入れる。止まらないならこの手で殺すし、止まるんだったら……あたしからは何もしない。みんながシェリィの命を欲しがって、シェリィがそれでいいって言うなら受け入れる。それだけの間違いをしたんだから、仕方ないんだ」

 そう言ってルキはシェリィに寄り添う。

「だから今回も……クイナたちが許せないって言って、シェリィがそれを受け入れるなら何もしないと思う。でもそれを見るのは耐えられないからさー…………そん時は――」

 八重歯を見せて笑いながら、ルキは告げた。



「あたしも……あたしも一緒に……神様のところへ逝くよ……」



 いったいこれで何度目なのだろう。この子に救われるのは……

 そう考えながら、シェリィはルキを力いっぱい抱きしめて泣く。

 小さな子供のように声をあげて、初めて会った時の様に泣く。

 その時、ルキがシェリィを抱き返すために置いたルクセリアの短剣が、何かに反応し、輝いたような気がした……





「多分だけどね。みんなは、あたしと同じ答えを出す気がするんだよな」

「……そうなの?」

 落ち着いてきたシェリィ。抱き合った姿勢のまま、二人は小声で話をする。

「いくらアイリーンを憎んでも、心の中のシェリィには勝てないと思う。それくらい、重いんだ。あたしたちが積み重ねてきた思い出は…………」

「そうだね……私の中でも……みんなの存在は……」

「その時はさー。どうすんの?」

「ひとつだけあるんだ……私が……今の私にしか出来ないことが……みんなに……認めてもらわないといけないんだけど……」

 少し考えてから、ルキは口を開いた。

「…………また、いなくなっちゃうの?」

「分かるの?」

「なんとなくだけどさー。なんでか勘が良いんだよねーあたし」

「フフ……きっとルキは特別なんだよ」

「あはは、そうかもしんない。アルシアが……やたら褒めてくれたっけ」

「そうなんだ……ねぇ……アルシアのことを教えて? ちゃんと知っておきたいの……彼女のこと……」

「うん……アルシアはね――」
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