悪役令嬢は男装して、魔法騎士として生きる。

金田のん

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第3章 入団までの1年間(2)、帝国の陰謀とグラナダ迷宮

72:鍛錬4日目・朝 勘違い

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しばらく私が、今日からの迷宮探索に思いを馳せていると、アルフレッドと<ひげ面男>イェルクが病室に戻ってきた。


「ああ、アルフレッド殿・・・・いえ、アル。おはようございます」


とりあえず目を向け、公爵子息教育で習った優雅な笑みを向ける。
アルフレッド殿・・・・と言いかけて、そう言えばこの塩対応キャラは「アル」と呼ばないと不機嫌になるんだったな、と思い出し、言いなおす。

それが正しかったのだろう、少しだけアメジストのキレイな目を細めて、私のことを満足げに見つめてきた。

相変わらず無駄に良いその顔は、私の中の貴族令嬢<レティシア>の心をざわつかせ、前世喪女の私でさえ、一瞬息をのませる威力があった。


「・・・・・・・・・・・・・」


・・・・しかし、先ほどからなぜか一向に返事がない。

ボーっとしているようだし、やはり瀕死の重傷を負ったばかりのせいだろうか、熱でも上がったのかもしれない。

少し心配になって、額・・・は身長的に届きにくいので、首元で熱を測ろうとアルフレッドへ手を伸ばす。


(・・・うん、若干脈が速い気がするが、熱はなさそうだな)


満足した私は、肩をすくめながら「熱がない」旨をアルフレッドに伝える。

すると急に手首をつかまれ、耳元に唇を寄せられた。

・・・・・覚えているだろうか?
私は最初に会ったとき、このアルフレッドに耳を舐められたのだ。

そう、つい4日前に。
そのため、「また舐める気か!?」と思わずびくっと体を揺らし、身構えると・・・・。


「今日は、一緒に迷宮に行こうな?」


そう優し気に告げられた。

拍子抜けした。

いやいや、舐めてほしかったわけじゃないが・・・・・というか今は私は兄・フレデリックの振りをしているわけで、なんか色々その思考自体おかしい気がするのだが・・・・まぁ、なんというか、身構えた自分の自意識過剰さ加減がおかしくて、思わず真っ赤になってしまう。

私の中の貴族令嬢<レティシア>も真っ赤になってふるふる震えて、うつむいている気がする。

・・・・・だが、待ってくれ!貴族令嬢レティシアではなく、理奈としての前世の私が、アルフレッドのいまの言葉がおかしいと告げる。

そもそも私が昨日、迷宮探索の指名依頼を受けたのは、アルフレッドが瀕死の重傷を負って、彼の療養のため、しばらく暇になるからだ。

公爵子息教育の知識でも、瀕死の重傷からの回復は最低でも1か月はベッドの上での療養が必要だと習った。

現に、回復がかなり早いと言われた兄・フレデリックだって、右足を失ったあの襲撃の後、7日間は完全にベッドの住人だったし、、同じく重傷を負ったジンも、完全に回復したのは
3週間も経った後だった。

もし、万が一、神官エリアス(ユリウス)の言葉通り、私の風魔法エアロに回復効果があったとしても、アルフレッドが、こんなに早く回復するなんて常識的にありえない。

だから、私は言った。


「いや。・・・アルは、しばらく療養じゃないですか。それに・・・・私は今日から、指名依頼で2・3週間ほどは迷宮に潜る約束をしていますので・・・・・」

「あ”ぁ?」

「いやいや、フレ・・・ドくんは、何を言ってるのかな?」


しかし、そう私が言うと、アルフレッドではなく、イェルクが反論をしてきた。

・・・・・・・なぜだ。


「フレ・・・・ドくん。いや、もう面倒だな!

あなた様はこの南の領地をおさめるフランシス公爵家の嫡男、後継者のフレデリック・フランシス様ですよね・・・・・?

いくら、レイ皇国が平和だと言っても、そんなフレデリック様お一人で、護衛もなしに、迷宮に行くとか・・・ありえないですからね!」


(・・・・なんで国とも公爵家とも関係ない冒険者のイェルクが、そんなことを気にする?)


いぶかしげにイェルクを見ていたら、イェルクは若干顔を赤めた後、顔を手のひらで覆って、私から視線をそらした。
「・・・・いやいや、オレはノーマルだから。・・・これだから、フランシス公爵家は怖いんだ。美形、多すぎだろう・・・・」とかなんかよく分からないことを、ぶつぶつ呟いている。


「チッ。指名依頼じゃ、仕方ねぇ。今から取り消しは無理か。
イェルク。何を心配してるかしらねぇが、こいつは強いし、オレも一緒に迷宮に潜るから問題ねぇ。

オレはいま、こいつの講師をしてるから、いわばオレが護衛なんだよ」

「いやいやいや!・・・・・アル、一昨日、死にかけたばかりだろうが!!迷宮にお前が潜れるわけないだろうが・・・・!!
・・・・・・・・というか、聞いていなかったが、アルが重傷になる出来事って相当やばい気がするんだが・・・・・何があったんだ?」

「ハッ!さっき治ったっつっただろうが!・・・・・・あと、その出来事はお前にゃ関係ねぇよ」


そう言って、アルフレッドはイェルクから視線をそらした。


「いやいやいや、何があったのか冒険者ギルドに報告しろよ!ヤバイ魔獣が出たなら、場合によっては、討伐クエストが必要だろうし、いるとは思えないが、襲撃犯がいたなら他のヤツを襲撃する前に、捕まえないとヤバイだろうが!!」

「・・・・必要ねぇ。・・・・・・お前が気にするような問題は起きねぇだろうし、ギルドに知らせるものでもねぇ。

フレドも余計なことを言うんじゃねぇぞ?これは・・・命令だ」


いやに真剣な顔でアルフレッドは私を見つめて言った。

アルフレッドは、どうやら一昨日の覆面男からの襲撃を言うつもりはないらしい。
イェルクの忠告を一刀両断にした。

別に言いふらすつもりもないから、その言葉に、素直に首肯する。

だが・・・・正直、意外だった。

特に秘密にする必要のない出来事のように思えるからだ。

むしろアルフレッドの性格的に、大々的に宣伝して、冒険者たちと協力して、指名手配のような形であの覆面男を追い詰めると思っていた。


(まぁ、いいか)


私は肩をすくめる。
まだ言い募るイェルクをしり目に、「ちょっと野暮用だ。朝の回診までには戻る」と言って、カバンを持って、アルフレッドが部屋から出ていった。

さすがA級冒険者というべきか、一昨日瀕死の重傷を負ったとは思えないくらいしっかりした足取りである。

窓を見ると日はいつの間にか昇っていた。神殿の食堂がそろそろ開く時間だ。

何といっても、朝食を食べたら、猫好きの可愛らしい眼帯女性<ベルタ>と前世の元彼・光輝によく似た男<マクシム>と一緒に迷宮探索なのだ。

せっかく早く起きたのだから、早く迷宮探索へ行きたい。


(アルフレッド殿はああ言っていたが、まだまだ退院はできないだろうな。
確実に朝の回診であのユリウスに止められるはずだ)


私もアルフレッドと同じように病室から出ていく。向かうは当然、神殿の食堂である。
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