記憶違いの従者

元森

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 ふふっと、笑っているとリカドは呟く。

「……リチャード様…」

 彼の声は、どこか上の空で――リチャードを見ていた。リチャードは、綺麗な赤い眼に目を奪われ、呪いでもかかったかのようにかたまってしまった。愛おしい、としか感情が分からない。

 ――…二人の目はいつの間にか重なり――…。

 やがて、二人は必然かのようにベットに倒れこんだ。

 言葉はいらない。

 もう二人には、言葉なんてものはいらなかった。必要なかった。二人はあまりにも想い合いすぎていたのだ。

 リカドは、今までの隙間を埋めようと、直に秘部に触れた。触れた瞬間、リチャードのそこはすぐにそそりたってしまう。

 リカドは、性急に、あまり時間をおかずにリチャードの性器に顔を近づける。リチャードは、それを宝物を扱うように、恭しくうっとりとした表情で見詰めた。リチャードは、あまりの恥かしさでろくな抵抗も出来なかった。

 リチャードが、見ているだけで、息がかかってしまうだけで硬くなってしまう。もう、何もやっていないのにリチャードのそれは果てる寸前まで追い詰められていた。先端からは、とろとろと液体が流れている。

 リカドは、うっとりした表情のまま一瞬獰猛な瞳をして、口に含んだ。

 リチャードは、あたたかい粘膜の感覚に慄いた。あまりの快感で、腰が抜けそうになってしまう。

「ああああっ…ッ、うぅうっ」

 びくびくとふるえ、嬌声をあげるさまはまるで少女のようだった。

 リカドは、その様子を見て、喜びの声をあげる。

「リチャード、さ、ま…っ、んっ、おいしい、です…! ずっと、ずっと…こうしたかった…ご奉仕、させて、ほしかった…」

「んぅ、りか、ど、口に含みながら、しゃ、しゃべら…あぁっ」

 口のなかで、舌が動いていている。それが、新たな刺激になってリチャードの頭のなかは真っ白だった。

 びくびく、びくびく――痙攣するさまはまるで波に打ち上げられた魚のようだった。あっというまに、追い詰められて白濁した液体を、口のなかに放ってしまった。

「あぁ…!」

 はぁはぁと荒い息を吐き出しながら、リチャードは痙攣した。何も云わずに放ってしまったことに、恥かしくなるが、そんなことはすぐにどうでもよくなってくる。理性なんてもう飛んでしまったから。

 ぼうっとした頭のなかでは、目の前の男のことしか考えられなかった。ほかに何を考えていいのか、分からない。

 余韻を堪能していると、リカドが嬉しそうに、口のなかに放ったものを嚥下したのが見えた。

 見た瞬間、思わず叫んでしまった。

「リカド! 何やっているんだ。すぐに吐き出して、汚いだろ!」

 何をやっているんだ?!と、起き上がると、リカドは不思議そうにいった。

「汚くないです。リチャード様のだから」

「…えっ」

 仰天するしかない。続いて付け加えた言葉に、リチャードは目を見開く。

「光栄です。お食事ありがとうございました」

「…バッ」

 まさかの回答に、度肝を抜かれてしまう。リカドは、至極当然そうに恭しくお辞儀をした。長年そうしていただけあって、お辞儀の仕方は一級品だ。リチャードはその一連の動作を見て、かたまってしまった。

 リカドも、長年の想いにネジがどこかとんでしまったのかもしれない。リチャードが、リカドの舐めた床を大切にしていたように。

 かあっと、身体中が赤くなってしまったような気になる。

「もうやめてくれ。私の気持ちが、飲んではいけないといっている」

 リチャードは、それしかいえなかった。どんなプレイだというのだ、こんなの。

 リカドは、赤い目を細くして腑の落ちない顔になって口を動かした。

「そうですか…」

 どうして、あんなものをのまないでくれといっただけで、こんなにリカドは落ち込んでいるのか。リチャードは理解できなかった。

 落ち込んでいるリカドを見て、可愛いと思ってしまう自分がリチャードには一番理解できなかった。恋とは、摩訶不思議なものだ。相手のことを考えるだけで感情がコロコロ変わってしまう。

 だって、彼の顔を見ているだけで顔がゆるんでしまう。

 心が、欲望に忠実に叫んでいる。

 なぜか落ち込んでいるリカドをリチャードは、ガマンできずに抱きしめた。その瞬間、リカドはかたまったようだった。

「はやく…続き、しろ…」

 近くで、息を呑む気配がした。間をおかずに、嬉しそうな返事が来た。

「はい。仰せのままに」

 

 

 

 

 もう、何時間もたっているような気がする。

 リチャードが予約したスイートルームには、独特の空気がまとっている。聞こえてくるのは、男の二人分の荒い息と、卑猥な舐める音だ。もうあれから、何時間たっただろうか。リチャードは、ぐったりとベットに横になっていた。

 だが、訪れる快楽に抗えず、一定の時間をおいて悲鳴のような嬌声をあげて、ビクビクと痙攣している。

 顔は涙と、よだれにまみれていた。顔には意思という意思はなく、蕩けるような顔をしていた。

 リカドは、一心不乱に、リチャードの腹部に顔をうずめ舐め続けている。

 彼も、全裸で、恥部には何度も精を放った後がある。だが、それはすべて自慰のものだった。

 リチャードの尻をかがける形で、リカドの肩に両足が乗っている。リチャードはまるで自分が赤ん坊にもどった錯覚がした。

 何十分、何時間もずっとこの状態だ。

 リチャードには、あまりの快楽でときどき意識を飛ばしていた。ある意味拷問されているようなものだった。

 リカドは、貴方様が傷つかないようにしているだけです、といってるが、これだったら傷をつけて痛いほうがましな気がする。達しても、もう白濁した液体も出ない。ただ、大きな快楽がきて、頭が真っ白になるだけだった。痙攣して、もう何度達したのか判別が出来ない。

 理性なんて、とっくに消え去っていた。

 くぼみに指を入れられ、動かされる。痛いなんて感情はもうわかない。ただ、キモチイイだけだった。

「あぁ…んんっ!」

 広げられるように動かされる。1時間はもうその状態だ。もう、そこは赤く充血し、粘膜は蕩けさせひくひくとわないている。

 いれてくれ、と小声でいっているが、届いていないのか、ずっとそこを舐められている。汚い、といっても聞き入れてくれない。いつもの彼はどこいったのか、というぐらいだった。

 グリグリとなかを穿され、もう限界だった。嬌声をあげ続けることしかできない。

「あぁ、んんっ、そこお…」

 カリッ、とある場所を触れた瞬間、腰が抜けた。

 押されるだけで、腰がおかしくなるぐらいにくねらせて、快楽の波が押し寄せる。ビクビクとまた痙攣してしまった。

「気持ち、いいですか……?」

 リカドの見上げられて云われた言葉に、顔が真っ赤に染まった。

 赤い目は、興奮の色に染まっていた。彼の顔は、汗と、リチャードの吐き出したものでベチャベチャに汚れきっている。リカドは、それを拭い取ろうとはしなかった。こうなることが私の幸せです、と表情で語っている。

 幸せそうに、嬉しそうに聞いてくるもんだから、素直になるしかない。

 顔をふせて、リチャードは小声で喋った。

「……ぁあ」

 その回答に、リカドは喜びの声をあげた。

「本当ですか? よかった。じゃあ…」

「うぅ、ウッ!」

 リチャードは驚いて、叫ぶしかなかった。快感で、どうにかなりそうだった。頭の脳内で、火花が散った。

 リカドは、長い舌を粘膜のなかに無理やり入れたのだ。両手をつかって、小さなつぼみを大きく広げ、舌を差し込んだ。リチャードは、突如体内に入ってきた異物に、背筋が慄いた。体をそらし、異物をどうにかしようとする。

「やめっ、やめてくれ…!」

 ぞわぞわとした、感覚がする。卑猥な音を響かせ、もっと奥にと進もうとする舌が、とんでもなく恐怖だった。

 暴れるリチャードを抑え、リカドは、粘膜の感触を確かめているようだった。ぬめりとした感覚に、自然と涙が浮かんだ。

「…っ、…っん、リチャード、さま…っ」

「リカド、やめ、てくれ…っ! ああ、ぅぅっ、はぁ…ッ」

 興奮した声で名前を呼びながら、リカドは舌を動かす。

 奇想天外に蠢く舌は、快感を通り越して恐怖だった。口から漏れる喘ぎは、なんとも男の強さも感じない弱さだった。

 何分もそれが続き、リチャードは拷問のように襲ってくる快感を押さえ込もうとする。ぐったりとして、動けないところまでいき、リチャードはやっと舌をそこから出した。

「ぁあ…リチャード、様…?」

 何も行動も声も聞こえないことに不安になったのかリカドは、やっと腹部から顔を離し、リチャードの顔を覗き込んだ。

 リカドは、ぐったりと身体を弛緩して、リチャードを見た。おそろしいぐらい、いつも通りのリチャードだった。

「リチャード様、申し訳ありません。私の好き勝手に、してしまって…でも、私、抑えられなくて」

 ここで謝るのか、と笑ってしまう。その笑顔を見て、リチャードはかたまった。

「…そうだな。もう、液という液も出なくなった。…――はやくしろよ」

「――…え?」

 まっすぐにいって言ったら、彼はかたまってしまった。

 彼の赤い目は、ゆらゆらと揺れた。ここまでしといて、最後までしないつもりだったのかというのか。それはないんじゃないのか。と、リチャードの思考は一気に、回路してしまう。それは、杞憂だとすぐに分かった。

 ベットが軋んで、リチャードの体はリカドに覆いかぶさる。

「いいの、でしょうか…?」

 子供のように聞く、リカドが愛しくて愛しかった。

「いいに決まってる。なんだ、お前はずっと焦らして、あげくに挿れないのか。酷いな」

「………ですが」

「もう、私は辛いんだ。リカド、お前は挿れたいと思わなかったのか。私のここは、もう準備万端で待ってるというのに」

 ずいぶん、下品な誘い文句だな――と自分でも思う。

 だが、もう精神的にも身体的にもキツイものがある。早く、一緒になりたいという素直に気持ちが出てきた。

「……でも、貴方を、きずつけ、たくない…っ」

 赤い目を揺らして、リチャードは叫ぶように云った。彼も感情が高ぶっているのか、瞳は濡れていた。ふとすればこぼれてしまいそうだ。

「お前はそのためにずっと舐めてたじゃないか。だったら…はやくしてくれ…」

「私に、そんな資格はありません。一緒になったら、きっと、私は、貴方をメチャクチャにしてしまう…」

「もう、私はお前にメチャクチャにされてる。なんでもイッたし、なんども気絶した。もう一回、気絶させてくれよ…」

 リチャードの言葉を、リカドは目を見開いていた。

 好きな人に、酷い姿ばかり見せている。だが、リカドは何にも云わないし、むしろ恥かしがっているリチャードを見て、嬉しそうにしている。本当に、長年やってきた片思いは人をひどくかわいそうにさせてしまう。

「……は、い…」

 震える声で肯定の言葉を彼は、やがて出してくれた。リカドは、大げさだと思うぐらい大きく手を震わせて、リチャードを抱きしめた。あぁ、やっとリカドから抱きしめてくれた。

 リチャードは、リカドが、可愛くて可愛くて仕方がなかった。

 
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