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10月31日
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10月31日、朝。
エル「おはよ~アルス君!」
教室に着いたエルは、座って読書をしていた俺に近付きながら、挨拶をした。
アルス「お、エル。おはよう。」
エルの方に視線を移すと、なんだかウキウキしていて、どことなく楽しそうに見える。
アルス「上機嫌だな。なんかあったのか?」
俺は、その訳を尋ねた。
エル「ふふーん、今日ってなんの日か分かる?」
エルは手を後ろに組み、今日という日について問い掛けて来た。
アルス「えー本日は10月31日、ガス記念日だね。」
エル「そうそ...ん?」
想像とは異なる回答に、エルは耳を疑った。
アルス「今から100年以上も前のことだが、日本で初めてガス燈が点灯されたのが、新暦でいう今日なんだよ。ほんでいつの年か、どっかのガス協会が記念日として制定したってわけ。因みに新暦がどうとか言ったけど、当然旧暦だと月日が違うってことな。」
簡略した解説と、余談を交えて詳細を述べる。
これでもかなり手短にした方だ。
エル「へ、へぇ~...そうなんだね。」
困惑気味に相づちを打つ。
アルス「というわけで今日はガスの安全な使い方についてを学んでいこうとむぐっ」
エル「それはまた今度にしようね」
すかさずアルスを制止する。
彼は一度スイッチが入ってしまうと、それを終えるまで止まらないタイプなので、早い段階で止めておかなければならない。
アルス「なんだよ、ちゃんと原稿にもまとめてきたのに。」
口元に添えられたエルの手を払いながら、数枚の作文用紙を揃えながら、残念そうな顔をする。
エル「あら~用意万全ね。って違う!今日はハロウィンだよ!」
ノリツッコミが炸裂した。
そんなことより本題に入りたかったので、やや無理矢理教えた。
アルス「そういえばそうだったな、すっかり忘れていたわ。」
うっかりしていたと、天井を見上げ腕を組む。
エル「あれ、珍しいね。アルス君こういうイベントがあると張り切っちゃうのに。」
確かに俺は、行事とかを本気で取り組みたい性格であり、実際準備はしていた。
当然ガスの原稿とは別で。
アルス「ガスに引っ張られすぎたな」
エル「栓は締めてよ。まあ、それはそうと...。」
エルは、肩にかけていた鞄からなにかを取り出す。
そして、それを俺に見せてきた。
エル「じゃ~ん!ハロウィンにちなんで、かぼちゃクッキー作ってきたよ!」
エルが手に持っていたのは、1つの小袋だった。
透明な箇所から、クッキーが数枚入っているのが分かる。
それを俺に差し出してきた。
アルス「おぉ、マジで!?」
エルはお菓子作りが趣味で、よく俺や友達、更には周りの人にまで配っている。
エルの作ったお菓子はマジで美味い。そりゃもう語彙力を失うほどな。いやガチで。
アルス「俺かぼちゃすきだぜ。煮物にすると美味いし。」
エル「ほんと渋いね...」
クッキーを受け取り、あることに気が付く。
アルス「ありがとな!...お、今日は特別仕様だな?」
エル「そう!包装こだわったんだよね~。」
紫の敷き紙と、オレンジのちり紙。
定番の2色を駆使しており、より一層ハロウィーン感が増す。
夜をイメージしているのか、背景は黒の厚紙が使われていた。
それを見て、俺はニヤけてしまった。
アルス「あれ、なんかこんな感じのどこかで見たことあるな。」
エル「え~ほんと?わりと我流なんだけど...去年と被っちゃったかな?」
エルは首を傾げた。
その様子から、ちゃんと自分で考えてデザインしたものだと分かる。
これが事実なら、もはや傑作まである。
アルス「あ、既視感の正体これか。」
俺はそう言って、懐からとあるものを出した。
それを見たエルは、「えっ!?」と、驚きの声を上げる。
アルス「で~ん。ほい、俺からもクッキー。」
実は俺も、エルにクッキーを作ってきていた。
俺の取り出した小袋には、エルのと同じような装飾が施してあった。
エル「え~!まんまじゃん!」
エルは、俺と自分のそれぞれの包装を交互に見る。
若干の違いはあるが、ベースはよく似ている。
アルス「流石にクッキー自体は違うけどな。俺のはプレーンだけど形をよく見よ。」
そう言い、クッキーに指をさす。
エル「あ、猫ちゃんだ!可愛い!」
俺の作ったクッキーは、黒猫、コウモリ、パンプキンをイメージして型取られていた。
あまり細かくしすぎると、焼いた時に膨らんでよく分かんなくなるので、形はざっくりだ。
アルス「まさかお互い作ってきてたとはな」
エル「驚きだね」
たまに、こうして2人でなにかをしていると、言動や思考が似ることがよくある。
だが、これに至ってはもはや馬が合うどうこうの話ではないだろう。
そんなこんなで、俺からもお菓子を渡そうとしたその時。
アルス「おわっ!?」
突然、視界が暗くなった。
何事かと思い、被せられたであろう黒い布を払うと、目の前にはテルがいた。
テル「トリック・オア・トリート!」
アルス「もうしたやん、イタズラ。」
そういえばお菓子をあげないとイタズラされるという風習があったな。
お決まりの台詞を言う前にされた場合どうすりゃいいんだって話だけど。
なんて考えていると、テルは頬を膨らませて歩み寄る。
テル「アルス君だけずるいよ~!僕にもちょうだいよ!」
そう言いながら、手に持ったかごを俺達に差し出してきた。
エル「もちろんみんなのもあるから安心してね~」
テル「わーい!やった~!」
テルははしゃいで、どこかへ言ってしまった。
切り替え早すぎでしょ。
と思っていたら、今度は衝撃と共に視界が真っ白になった。
なんだこれは、戦闘に負けたのか?
有り金半分くらい減っちまうのか?
近藤「トリックオアトリート!ギャハハ!アルス、お前真っ白やん!」
サトシ「なんだこいつ、マシュマロおばけか?」
俺にめがけてパイ砲をぶっぱなしてきた犯人は、近藤とサトシだった。
パイにまみれた俺を見て、楽しんでいる。
アルス「だからさ...お前らやってから言ってどうすんねん!!」
パイを取る前に足が動いていた。
行き先はもちろんあの2人。
また、いつもの鬼ごっこが始まった。
エル「これじゃいつもと変わらないじゃん...」
愉快な俺達を見て、今日も微笑むエルだった。
エル「おはよ~アルス君!」
教室に着いたエルは、座って読書をしていた俺に近付きながら、挨拶をした。
アルス「お、エル。おはよう。」
エルの方に視線を移すと、なんだかウキウキしていて、どことなく楽しそうに見える。
アルス「上機嫌だな。なんかあったのか?」
俺は、その訳を尋ねた。
エル「ふふーん、今日ってなんの日か分かる?」
エルは手を後ろに組み、今日という日について問い掛けて来た。
アルス「えー本日は10月31日、ガス記念日だね。」
エル「そうそ...ん?」
想像とは異なる回答に、エルは耳を疑った。
アルス「今から100年以上も前のことだが、日本で初めてガス燈が点灯されたのが、新暦でいう今日なんだよ。ほんでいつの年か、どっかのガス協会が記念日として制定したってわけ。因みに新暦がどうとか言ったけど、当然旧暦だと月日が違うってことな。」
簡略した解説と、余談を交えて詳細を述べる。
これでもかなり手短にした方だ。
エル「へ、へぇ~...そうなんだね。」
困惑気味に相づちを打つ。
アルス「というわけで今日はガスの安全な使い方についてを学んでいこうとむぐっ」
エル「それはまた今度にしようね」
すかさずアルスを制止する。
彼は一度スイッチが入ってしまうと、それを終えるまで止まらないタイプなので、早い段階で止めておかなければならない。
アルス「なんだよ、ちゃんと原稿にもまとめてきたのに。」
口元に添えられたエルの手を払いながら、数枚の作文用紙を揃えながら、残念そうな顔をする。
エル「あら~用意万全ね。って違う!今日はハロウィンだよ!」
ノリツッコミが炸裂した。
そんなことより本題に入りたかったので、やや無理矢理教えた。
アルス「そういえばそうだったな、すっかり忘れていたわ。」
うっかりしていたと、天井を見上げ腕を組む。
エル「あれ、珍しいね。アルス君こういうイベントがあると張り切っちゃうのに。」
確かに俺は、行事とかを本気で取り組みたい性格であり、実際準備はしていた。
当然ガスの原稿とは別で。
アルス「ガスに引っ張られすぎたな」
エル「栓は締めてよ。まあ、それはそうと...。」
エルは、肩にかけていた鞄からなにかを取り出す。
そして、それを俺に見せてきた。
エル「じゃ~ん!ハロウィンにちなんで、かぼちゃクッキー作ってきたよ!」
エルが手に持っていたのは、1つの小袋だった。
透明な箇所から、クッキーが数枚入っているのが分かる。
それを俺に差し出してきた。
アルス「おぉ、マジで!?」
エルはお菓子作りが趣味で、よく俺や友達、更には周りの人にまで配っている。
エルの作ったお菓子はマジで美味い。そりゃもう語彙力を失うほどな。いやガチで。
アルス「俺かぼちゃすきだぜ。煮物にすると美味いし。」
エル「ほんと渋いね...」
クッキーを受け取り、あることに気が付く。
アルス「ありがとな!...お、今日は特別仕様だな?」
エル「そう!包装こだわったんだよね~。」
紫の敷き紙と、オレンジのちり紙。
定番の2色を駆使しており、より一層ハロウィーン感が増す。
夜をイメージしているのか、背景は黒の厚紙が使われていた。
それを見て、俺はニヤけてしまった。
アルス「あれ、なんかこんな感じのどこかで見たことあるな。」
エル「え~ほんと?わりと我流なんだけど...去年と被っちゃったかな?」
エルは首を傾げた。
その様子から、ちゃんと自分で考えてデザインしたものだと分かる。
これが事実なら、もはや傑作まである。
アルス「あ、既視感の正体これか。」
俺はそう言って、懐からとあるものを出した。
それを見たエルは、「えっ!?」と、驚きの声を上げる。
アルス「で~ん。ほい、俺からもクッキー。」
実は俺も、エルにクッキーを作ってきていた。
俺の取り出した小袋には、エルのと同じような装飾が施してあった。
エル「え~!まんまじゃん!」
エルは、俺と自分のそれぞれの包装を交互に見る。
若干の違いはあるが、ベースはよく似ている。
アルス「流石にクッキー自体は違うけどな。俺のはプレーンだけど形をよく見よ。」
そう言い、クッキーに指をさす。
エル「あ、猫ちゃんだ!可愛い!」
俺の作ったクッキーは、黒猫、コウモリ、パンプキンをイメージして型取られていた。
あまり細かくしすぎると、焼いた時に膨らんでよく分かんなくなるので、形はざっくりだ。
アルス「まさかお互い作ってきてたとはな」
エル「驚きだね」
たまに、こうして2人でなにかをしていると、言動や思考が似ることがよくある。
だが、これに至ってはもはや馬が合うどうこうの話ではないだろう。
そんなこんなで、俺からもお菓子を渡そうとしたその時。
アルス「おわっ!?」
突然、視界が暗くなった。
何事かと思い、被せられたであろう黒い布を払うと、目の前にはテルがいた。
テル「トリック・オア・トリート!」
アルス「もうしたやん、イタズラ。」
そういえばお菓子をあげないとイタズラされるという風習があったな。
お決まりの台詞を言う前にされた場合どうすりゃいいんだって話だけど。
なんて考えていると、テルは頬を膨らませて歩み寄る。
テル「アルス君だけずるいよ~!僕にもちょうだいよ!」
そう言いながら、手に持ったかごを俺達に差し出してきた。
エル「もちろんみんなのもあるから安心してね~」
テル「わーい!やった~!」
テルははしゃいで、どこかへ言ってしまった。
切り替え早すぎでしょ。
と思っていたら、今度は衝撃と共に視界が真っ白になった。
なんだこれは、戦闘に負けたのか?
有り金半分くらい減っちまうのか?
近藤「トリックオアトリート!ギャハハ!アルス、お前真っ白やん!」
サトシ「なんだこいつ、マシュマロおばけか?」
俺にめがけてパイ砲をぶっぱなしてきた犯人は、近藤とサトシだった。
パイにまみれた俺を見て、楽しんでいる。
アルス「だからさ...お前らやってから言ってどうすんねん!!」
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