巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3A-街道と魔物

3A-14 研究生の魔法

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 カントリーハウスと呼ぶべきか。外から見た王都パール邸は三階建てに見えた。屋根近くに小窓があるので、三階は天井が低いのかもしれない。思思わず「ほう」と声を漏らし、見上げてしまう。

「後で案内してあげるから、まずは入りなさい」
「小僧、行くぞ」

 クリスティーヌ様とパラケル師に急かされ、玄関をくぐる。エントランスは圧倒的だった。磨き上げられた床、華美な額装に収められた絵画が並び、まるで社交会の会場のようだ。隣のホールを抜け、奥の応接間に通されると、そこは意外にも質素で落ち着いた雰囲気の部屋だった。

「意外だろう。ワシも初めて入ったときはそう思った」
「もっと重厚で豪華な部屋を想像していました」

「私が嫌いなのよ。落ち着かなくて」
「町の宿も落ち着いた雰囲気でしたね」
「高貴な客人用の部屋もあるけど、私は滞在しづらいわ」

 話す間にも使用人たちがてきぱきと動き、ティーセットが整えられていく。

「まずは筆頭使用人の紹介から。執事ベル。屋敷の使用人を束ねています。こちらはレッド=ベルナルさんと同行のリンネ=カストディアさん。学院に通う間は客人として遇します」

「レッド=ベルナルです。研究生としてしばらく学院に通います」
「リンネ=カストディアです。レッドの同行者ですが、学院では従者扱いとなります」

「執事ベルです。滞在の間は何なりとご用命ください」
 使用人たちの視線が集まる。――この少年は何者だ? そんな印象を受けた。

 クリスティーヌ様は補足する。
「レッド君は王都にも店舗を持つベルナル商会の跡取り。商人ギルド本部評議員の孫といった方が分かりやすいでしょう。リンネはエリスの又従妹です」

 続いてベルが上級使用人を紹介する。
「私と、ハウスキーパーのエマ、コックのマシューの三人が上級使用人です」

 年配で仕事のできそうなベル、厳しそうなエマ、筋骨隆々のマシュー。さらに下級使用人七名が紹介され、最後に料理人見習いのヨーゼフが顔を出した。

「ヨーゼフです。菓子が好きで――」
「誰も好きなものまで言えとは言っていない」
 その一言で場が和み、笑いが起きた。

「マシュー。レッドは菓子作りも得意よ。後で教えてもらいなさい」
「ほう、客人が菓子を? これは習わねば」

 その視線に、料理の腕を試される予感がした。

 続いて屋敷の案内。パール邸は三階建てで、主に一、二階を使用。右翼が主人たちの居住区、中央がゲストルーム三室、北側が使用人部屋、左翼にサロン。三階は納屋と屋根裏部屋だという。

「レッド君にはゲストルームを用意してあるが、パラケルからは屋根裏も見せろと言われている。片付けさせておいたわ」

 二階のゲストルームは豪奢すぎて落ち着かない。三階の屋根裏部屋は広く、窓も多く風通しが良い。少し天井が低いが、むしろ心が落ち着いた。

「自分はこちらの方が気楽です。リンネは?」
「私も、ここがいいわ」

 結局、屋根裏を借りることにした。家具はフットマンが運び入れてくれるという。

 配置を指示し、最後に自分は床の清掃を魔法で行った。オーク材の床に薄く液を展開し、汚れを浮かせて回収する。

 魔法を見た使用人たちは目を見開いたが、ベルは落ち着いた様子で言った。

「……お見事。流石は研究生。手入れにはリネン油を使っています」
「ありがとうございます。次はそれを使って仕上げます」

 天井は傾斜しているが、二部屋分の広さがある。荷物を整理しながら、この空間をどう使うか考え始めた。
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