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3A-街道と魔物
3A-15 *学院での役割
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♢♢
レッド君とリンネさんが執事ベルに連れられ、応接間を出ていった。母上の指示で使用人たちが三階を片づけていたのは知っている。客間か、あるいは屋根裏部屋に案内されているのだろう。
「マーカー。まだ気持ちは晴れないのかしら?」
「いえ、おばあ様。心は切り替えました。態度に出ていたなら申し訳ありません。自分は次期領主の立場。飲み込み、受け入れたつもりです。ただ……レッド君は年下で研究生として入学し、しかも商家出の庶民。同学年から何を言われるか、それが心配なのです」
わだかまりがないと言えば嘘になる。だが俺は辺境伯を引き継ぐ立場。器を広く持てと父から諭された。学院が認めたのだ。学院の経営は王宮に属する。認めないことは王宮、ひいては王を否定することになる。事実は受け入れた。しかし、それが浸透するには時間がかかる。
「最初だけよ。あなたも周囲も。むしろ隠していたことを問われるかもしれないわ」
「私は大丈夫。兄様は彼女のことを心配しているだけでしょう?」
「ぐっ……上級生には色々と事情があるのだ」
妹コーネリアに揶揄われる。確かに、カンティア領の令嬢との関係は繊細だ。彼女は魔導師課程、俺は騎士課程。進級すれば環境も変わる。悠長に構えていられないのは、妹の指摘通りだ。
パラケル師が口を開く。
「推薦はトーマス様、ワシ、エリスが後見人となり、鎮守の森の主テトラフィーラ様も後押しした。さらにクリスティーヌが学院長に口添えした。教授会も彼の実績を評価した。結果、研究生として遇された。異論はあるまい」
「はい、パラケル様。理解しています」
おばあ様が人払いを命じ、応接間に残ったのはパール家の者とごく限られた顔ぶれ。空気が張り詰める。
「マーカー、コーネリア。祝いがまだだったわね。進級おめでとう」
「「ありがとうございます!」」
おばあ様の声は魔力を帯び、重みを増していた。これからが本番という雰囲気だ。
「さて、あなた達が納得するように話しましょう。――『界上の賜物』という言葉は知っているかしら?」
俺は頷く。教員室で耳にしたことがある。コーネリアは噂で聞いたらしい。
「その人物が、今、屋根裏部屋にいるレッド君です。領内で次々と新製品が生まれているのは、彼の力によるものです」
やはり――。薄々感じていたことが確信に変わる。
「……界上の賜物。やはり彼が」
おばあ様は続ける。
「彼のアニマは界上から降り、本人の精神と融合した。界上の知識と経験を引き継いでいる。ただし肉体は十三歳のままで、貴族社会の常識には疎い。学院では彼と世間を繋ぐ者が必要です。今まではパラケルが担っていましたが、学院から退いた今、その役割をあなた達に託したいのです」
重責を感じる。だが同時に、合点もいった。領内の動き、母上や父上の忙しさ、祖父の奔走。すべては彼を中心に回っていたのだ。
「おばあ様。我々に期待するのは学院内での立ち回り、ということですね」
「そう。研究生は生徒や院生より上位だが、教員以下。問題は生徒との関係。貴族特権を振りかざす者もいる。彼を守りなさい。貴方の器ならばできます」
具体的な指示も下る。生徒は俺とコーネリア、院生はコカルスが支える。さらに「小僧の後ろにはパール家がいる」と周囲に思わせろ、と。彼が作った品は我々に優先的に流すから、それを影響力として使え、と。
――なるほど。実に現実的な策だ。おばあ様の後押しに自信が湧き上がる。
「コーネリア、協力してくれるな」
「当たり前よ。リンネちゃんに嫌がらせする者は排除するわ」
妹の言葉に苦笑しつつも、心強さを覚える。
――そうなると、彼と腹を割って話す必要がある。彼の真意を、この耳で確かめたい。
レッド君とリンネさんが執事ベルに連れられ、応接間を出ていった。母上の指示で使用人たちが三階を片づけていたのは知っている。客間か、あるいは屋根裏部屋に案内されているのだろう。
「マーカー。まだ気持ちは晴れないのかしら?」
「いえ、おばあ様。心は切り替えました。態度に出ていたなら申し訳ありません。自分は次期領主の立場。飲み込み、受け入れたつもりです。ただ……レッド君は年下で研究生として入学し、しかも商家出の庶民。同学年から何を言われるか、それが心配なのです」
わだかまりがないと言えば嘘になる。だが俺は辺境伯を引き継ぐ立場。器を広く持てと父から諭された。学院が認めたのだ。学院の経営は王宮に属する。認めないことは王宮、ひいては王を否定することになる。事実は受け入れた。しかし、それが浸透するには時間がかかる。
「最初だけよ。あなたも周囲も。むしろ隠していたことを問われるかもしれないわ」
「私は大丈夫。兄様は彼女のことを心配しているだけでしょう?」
「ぐっ……上級生には色々と事情があるのだ」
妹コーネリアに揶揄われる。確かに、カンティア領の令嬢との関係は繊細だ。彼女は魔導師課程、俺は騎士課程。進級すれば環境も変わる。悠長に構えていられないのは、妹の指摘通りだ。
パラケル師が口を開く。
「推薦はトーマス様、ワシ、エリスが後見人となり、鎮守の森の主テトラフィーラ様も後押しした。さらにクリスティーヌが学院長に口添えした。教授会も彼の実績を評価した。結果、研究生として遇された。異論はあるまい」
「はい、パラケル様。理解しています」
おばあ様が人払いを命じ、応接間に残ったのはパール家の者とごく限られた顔ぶれ。空気が張り詰める。
「マーカー、コーネリア。祝いがまだだったわね。進級おめでとう」
「「ありがとうございます!」」
おばあ様の声は魔力を帯び、重みを増していた。これからが本番という雰囲気だ。
「さて、あなた達が納得するように話しましょう。――『界上の賜物』という言葉は知っているかしら?」
俺は頷く。教員室で耳にしたことがある。コーネリアは噂で聞いたらしい。
「その人物が、今、屋根裏部屋にいるレッド君です。領内で次々と新製品が生まれているのは、彼の力によるものです」
やはり――。薄々感じていたことが確信に変わる。
「……界上の賜物。やはり彼が」
おばあ様は続ける。
「彼のアニマは界上から降り、本人の精神と融合した。界上の知識と経験を引き継いでいる。ただし肉体は十三歳のままで、貴族社会の常識には疎い。学院では彼と世間を繋ぐ者が必要です。今まではパラケルが担っていましたが、学院から退いた今、その役割をあなた達に託したいのです」
重責を感じる。だが同時に、合点もいった。領内の動き、母上や父上の忙しさ、祖父の奔走。すべては彼を中心に回っていたのだ。
「おばあ様。我々に期待するのは学院内での立ち回り、ということですね」
「そう。研究生は生徒や院生より上位だが、教員以下。問題は生徒との関係。貴族特権を振りかざす者もいる。彼を守りなさい。貴方の器ならばできます」
具体的な指示も下る。生徒は俺とコーネリア、院生はコカルスが支える。さらに「小僧の後ろにはパール家がいる」と周囲に思わせろ、と。彼が作った品は我々に優先的に流すから、それを影響力として使え、と。
――なるほど。実に現実的な策だ。おばあ様の後押しに自信が湧き上がる。
「コーネリア、協力してくれるな」
「当たり前よ。リンネちゃんに嫌がらせする者は排除するわ」
妹の言葉に苦笑しつつも、心強さを覚える。
――そうなると、彼と腹を割って話す必要がある。彼の真意を、この耳で確かめたい。
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