巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3B-学院と植物

3B-07 教授の命題

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 生徒の組み合わせの検討が終わり、会議は閉じられた。議論はしたものの、結局は最初の案通りの組み合わせに落ち着いたようだ。割り振り表は後日掲示されるはずだ。席に戻ろうとしたところで、教授に呼び止められた。

「レッド君。この後、少し打ち合わせをしたい。よいかね? フランコ君、リンネ君を呼んで欲しい」

 他の教員が退出し、部屋には教授と自分、そしてリンネの三人だけが残った。

「レッド君の研究内容についてだ。正直に言えば、君がいなくても研究室は回る。この教室で代々続けてきた各領の植物調査と編纂は、残すところマダガスタ領と関係国分だけだ。私の方針としては、教員たちにその作業を続けさせ、君には新規の案件を担当してもらいたい」

「新規の案件……先ほどの熱病の件ですか?」
「それも含む。先ほどの飲料もそうだ。シトラスの酸味に甘さと炭酸を加えた完成度は見事だった。君には我々とは違う着眼点がある。新規研究にはうってつけだ。逆に我々は既存の業務に慣れすぎている」

「今は全く道筋が見えませんが……」
「案を出すことに意義がある。王宮からは学院と宮廷魔導師会に諮問が下っている。教授会でまとめ、王宮に意見を提出する。並行して魔導師会も動くだろう。最終的に賛否を判断するのは宰相であり、決定を下すのは国王エーベルス陛下だ」

 学院に入ったばかりの自分には荷が重い。研究室の水準もまだ掴めていない。逡巡していると、教授はさらに言葉を重ねた。
「予防の観点が重要だと皆も考えている。魔術や魔導具は冒険者や商人には有効だろう。領民にとっては、予防策こそ急務だ。治療薬の開発は後回しになるだろう」

「他の教室はどう動きそうですか?」
「魔術科は魔力器官や魔術からの対策を考えるだろう。魔導具科のフリード教室はインセクト系魔導具の生産と改良に乗り出すはずだ。治療薬を生み出すのは我が錬金科の役目だ。ムカージ教授は第五精髄の研究に没頭している。金属変成や万能融化液など基礎研究が主で、具体的な案は出さぬだろう。採用された教授への後援に回るはずだ」

 第五精髄――クインタ・エッセンシア。中世錬金術で語られた第五原質の抽出。向こうの世界では見えぬ存在も、こちらでは魔力として実体を持つ。第四原質にあたる火・風・水・土は魔力として制御され、光や闇、無といった属性も存在する。第五原質とはすなわち魔素そのもの。第五精髄とは、魔素を純粋に抽出する手法に他ならない。

 考えに耽っていると、教授の声が続いた。
「アルナル教授は万能薬パナケイアの作成を目指している。彼らも第五精髄を追っているが、当面は現状の改良に留まるだろう。キンコンの入手は難しい。香草学を嫌っているからな。後詰めとしてハイポーションの量産に注力するはずだ。王都に流入しているPVポーションの磁器瓶をつかうだろう。宮廷魔導師会も同じ動きを見せるとみる」

 教授はさらにつづけた。
「我々の仕事は原質を追うことはない。現実に即して研究するのみだ。我らの武器は『マテリア・ハーバル』。植物の特徴を解析する力はあるが、活用の組み合わせには疎い。そこを補えるのは君だ。在野の魔術師に近い視点を持つ君ならば、病への対応法を見出せる。教授として命ずる。君の主題は――『ウオルク熱に対する、植物を用いた治癒手法の開発』だ」

「……文献調査は可能ですか? 実物も?」
「ある。この魔導塔に備わる遺構、賢石庫にな。各階に一つずつ備わっている。学院がここに建てられた理由もそれだ。明日、魔力波形を登録しよう。歴代の蓄積が君の助けになるはずだ」

「ウオルク領には行ったことがありませんが、昔からの病なのですか?」
「長期周期で蔓延してきた。文献にもあるし、領の長老も覚えているだろう」

「昔はどのように対応を?」
「キンコンだ。魔素を含む苦い樹皮を刻み服用していた。だが今は魔素が抜け落ち、効力を失っている。魔素を再び宿す試みは成功していない。まずはそこからだ。魔素を含むキンコンの資料も残っている。ヴィクターに聞け。彼はウオルク領の出身だ」

 リンネが思い出したように口を開く。
「レッド、マーブル香草店にあったわよね? “発熱時に”と表示されていた……」
「確かに。鑑定はしていなかったが、足がかりはキンコンだ。新規ではなく改良なら、何とかなるかもしれない」

「少しの進展でもよいのだ。今期は間に合うまい。突破口を探してくれ。我々も協力する。期限は一か月後の教授会。今回は取り掛かりの方針報告で構わぬ。トリニタをクルスに加工できる腕に期待している」

 教授は気づいていた。茶色のクルスがトリニタ味であることを。勇み足だったが、教員たちの輪に入るきっかけにはなった。

「各領から物が集まる王都なら目立たないと思ったのですが」
「儂はカンティア領の出だ。ショコラトルは幼い頃から飲んでいた。虚弱な体を強めるために、両親が取り寄せていたのだ」

 教授の言葉に、自分は静かに頷いた。新たな課題――ウオルク熱への挑戦が、ここから始まる。
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