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3C-分取と教育
3C-13 冷乾装置と虫除けの花
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学院からの馬車での移動中。コカルス君から魔道具の相談を受けた。
彼の課題は冷乾装置――その密閉機構でつまずいているという。食事を終えた後、自分の部屋の三階、屋根裏の奥にあるラボに彼を招く。学院では扱えない、少し込み入った作業もここなら可能だ。
「制御盤と魔導回路は何とかなった。冷却と加熱の魔法陣も、無事に稼働するのを確認した。空気の密閉調整の機構が分からない。減圧の魔法陣は機能するのに、構造に問題があって空気を漏らしてしまう」
コカルス君は研究室で作成していた試作機をそのまま持ち込んでいた。机ほどに縮小化された試作機を取り出す。
「なるほど。外側はよくできていますね。扉部分でしょうか、うまくいっていないのは?」
「遺構に倣って、扉にはらせん状の密閉機構を使っている。少しずつ金属同士を密着させる構造だ。加工が甘いのか、隙間からどうしても漏れてしまう」
遺構では、ハンドルのようなもので回転させ、二枚の板を密着させる。コカルスはその技術を模倣して取り付けたのだろう。
「パラケル師でも、二枚の板を完全に密着させるのは難しいと思うよ」
「やはりか……遺構の稼働が確認できなかった以上、独自に構造を考えるしかないか」
「パラケル師を呼んできましょう」
「それなら従者である自分が行くよ。レッド君はこのままで」
コカルス君がパラケル師を呼びに行っている間、自分は状況を整理した。ぴったり作っても漏れる――見せてもらった遺構のスケッチを再確認する。本物の遺構は教室の賢石庫に厳重に保管されているという。扉部分には輪状の溝が彫られていた。それは模様ではなく、機能の一部のようだ。
やがて、少しほろ酔い気味のパラケル師がコカルスに連れられてやってきた。
「よう、秘密基地で楽しそうにやってるな? ほう、ここまで部屋を改造したか」
パラケル師は奥のラボを見て唸った。
「教室の整備も少しずつ進めています。自分のスペースも、水の純度を上げましたよ」
ホーミィー村から持ってきたスライムは少数だったが、少人数の実験なら十分に対応できる。
「水はあらゆる品質に影響するからな。アレの扱いは慎重にしておけ」
「はい。取水の魔導盤は随時取り外し、最終はチャンバーで処理しています」
「秘密は厳守だ。上下の研究室が騒ぎ出すぞ」
話題はコカルス君の開発に戻る。先ほど気になった点を話す。
「呼びに行っている間に、遺構のスケッチを確認しました。溝が彫られていましたよね? この部分です」
「溝か……確かに扉の受け面に合わせて、ぐるりと溝があったな」
「遺構を確認しましたが、素材が何も残っていませんでした。経年劣化でしょうか?」
「おそらく。パッキンがあったのだろう」
「パッキン?」
「緩衝材だ。硬いもの同士を合わせるためのものだ。間に挟み、隙間なく密着させる」
自分は過去の記憶を辿る。そうだ、鎮守の森だ。パラケル師が言っていた、硬化すると反発するような素材――
「鎮守の森を出るときに貰った素材。柔らかい……『ゴム?』いや違う、『ラバー?』……グミ。そう、グミだ。おそらくそこにはグミが挟まっていたのでは?」
「グミ? そんな素材、王都では聞いたことがないぞ?」
「ああ、あれか。確かに」
サイカスの樹液を取り出す。今は粘性が高いが、時間が経てば硬化する。
「サイカスの樹液。コカルスよ、これはエルフたちが物の接着に使っているものだ」
「台車のガラスを嵌めるときにも使いました」
「これは……初めて見る」
「サイカスの樹液はエルフ特有の素材です。エルフの里では接着液として使われています。以前は入手経路が分からず諦めましたが、今回はサルファを使って加工できます。ちょっと見てください」
居住スペースではあるが、アイソレータを使うことにした。手への臭い移りを防げる。
「ん? それはドラフトチャンバか? 界面の揺らぎが違うように見える」
「ドラフトチャンバの界面を変動させるようにしました。こちらの動きに合わせて反応します。アイソレータと名付けました」
「ほう……よく見せてくれ。なるほど、膜。紙一枚隔てるような緩衝空間を挟むのか。内部の物が持てる。ドラフトチャンバとは違い、界の完全隔離か。参考になるな」
「参考にならないですよ! 師匠達、どれだけ魔術制御の高みに至っているのですか!」
驚くコカルス君を横目に、アイソレータ内でサイカスの樹液を火魔法で加熱する。そこに微粉化したサルファを加える。加硫――硫黄を加えて架橋重合させる反応だ。
「熱を入れつつ、サルファを加えます。徐々に粘性を持った素材ができるはずです」
火・土・水の三属性を複合制御し、魔力を込めて素材を練り上げる。アイソレータ内で魔素がゴリゴリと消費されていく。後半は魔銀製のローラーを使って混合。
「すごい制御ですね。自分には無理です」
「見ているだけでは錬金術だな。小僧は化学というが……次第に黄色く変色してきたな。形を整えていくぞ。おっ、もうそろそろ終わりか? 風魔法で冷却している」
魔力ポーションを数本煽り、魔素を回復させながら鑑定を行う。
【*加硫グミ:柔軟性と展延性を併せ持つ。形状:棒状】
「ふう。これで完了です。コカルス君、試作品の扉の受け部分に、グミが少し出っ張るように魔銀に溝を掘ってください」
「よし、これくらいなら。俺も上達したものだ。レッド君には負けるが」
溝に加硫グミをねじ込み、扉を閉めてハンドルを回す。グミが潰れ、空気の漏れが完全に防がれた。
「おお!! 潰れた! これがグミの効果か!」
コカルス君は興奮気味に試験機を稼働させる。減圧をかけても、空気の密閉は保たれたまま。魔導具の再現に手応えを感じたようだ。ここまでくれば、完成は目前だろう。
「うむ。二人とも、良い手際だ。成長したな。これならワシも早めにホーミィー村に帰れそうだな」
パラケル師が満足げに頷いた。
♢♢
帰り際。レッド君とパラケル師が急に声を潜めて話し始めた。
「パラケル師。帰る前に、王都でもう一仕事お願いしたいです。気になる植物があるんです。挿絵図は略しましたが、メモは残してあります。今回の病魔対策での必需品です。テオフラス商会の仕事として成立させたい。ご意見をいただけますか?」
レッド君は書籍を開き、パラケル師に示す。ん?あれはマテリア・ハーバル。
##マテリアハーバル2巻39項####
ピレトラム。アティ領に植生。白い花弁と黄色い花柱が特徴。多年草。虫が多いアティ領内では、庭や畑のふちに植え、農作物への食害を防ぐのに利用される。開花時期は菖の月。野生の白い花が広がる光景が見られる。(~略~)
図(~略~)
######
「***では***として**されていました。これの**を**して**する。***と混ぜて。***に頼らなくても****が発揮できるでしょう。これからがちょうど**時期です」
「なるほど!これは商売になるぞ!」
「**で抽出して****として販売もできそうです。販売先は*******と**。その後の展開は……」
「ちょうどこれからが開花の時期のようだな」
急に声を小さく話始めた、ドアの近くだと聞き取れない。
「金の日には冒険者ギルドへ依頼を出します。ついでに状況次第で隣にも寄ろうかと。商人ギルドへの伝手はありますか?」
「パテンツをいくつか提出している関係で、ワシは知っている。金の日か……すまんが都合がある。小僧なら、ベルナルの名を出せばよかろう。評議員の顔が利く」
「ちょっと二人で何やってるんですか! 自分も仲間に入れてくださいよ! 聞こえるように話してください!」
疎外された気持ちになり、奥に戻って叫んだ。リンネさんはそんな俺の行動に、くすりと笑う。師が真面目な表情で自分を諭す。
「ん? これはテオフラス商会の案件なのだが。お主も入会するか? 入会金は冷乾の魔導具研究すべての共有だな。見返りは販売後の利益分配と利点があるぞ?」
「くっ……うっ……うーん。今も少し助けてもらっているし。師匠たちと開発すると勉強になるし……入ります!」
「うむ。その即決の男気、いいぞ!」
「コカルス君がテオフラス商会に入れば、魔導具化も容易になりますね!」
あらためて、二人に詳細を聞く。なるほど。虫よけの花の手配とその魔導具化の案件か。確かに自分の勉強にもなりそうだ。
「お香のように棒状にして燃やすのはどうだ?」
「最初はそれですね……でもすぐに真似されそうです。ここは、新規入会したコカルス君に期待です! 成分を染み込ませた板状のものを開発しましょう。1~数日で効果が消えるものを。板を熱し、放散させる機構に。極力低価格で、単純化させて。コカルス君、頼んだ!」
「えっ、冷乾の魔導具もあるのに? 今から構想スケッチまで? 本気ですか……」
三人による商談の打ち合わせは、夜が更けるまで続いていった。
彼の課題は冷乾装置――その密閉機構でつまずいているという。食事を終えた後、自分の部屋の三階、屋根裏の奥にあるラボに彼を招く。学院では扱えない、少し込み入った作業もここなら可能だ。
「制御盤と魔導回路は何とかなった。冷却と加熱の魔法陣も、無事に稼働するのを確認した。空気の密閉調整の機構が分からない。減圧の魔法陣は機能するのに、構造に問題があって空気を漏らしてしまう」
コカルス君は研究室で作成していた試作機をそのまま持ち込んでいた。机ほどに縮小化された試作機を取り出す。
「なるほど。外側はよくできていますね。扉部分でしょうか、うまくいっていないのは?」
「遺構に倣って、扉にはらせん状の密閉機構を使っている。少しずつ金属同士を密着させる構造だ。加工が甘いのか、隙間からどうしても漏れてしまう」
遺構では、ハンドルのようなもので回転させ、二枚の板を密着させる。コカルスはその技術を模倣して取り付けたのだろう。
「パラケル師でも、二枚の板を完全に密着させるのは難しいと思うよ」
「やはりか……遺構の稼働が確認できなかった以上、独自に構造を考えるしかないか」
「パラケル師を呼んできましょう」
「それなら従者である自分が行くよ。レッド君はこのままで」
コカルス君がパラケル師を呼びに行っている間、自分は状況を整理した。ぴったり作っても漏れる――見せてもらった遺構のスケッチを再確認する。本物の遺構は教室の賢石庫に厳重に保管されているという。扉部分には輪状の溝が彫られていた。それは模様ではなく、機能の一部のようだ。
やがて、少しほろ酔い気味のパラケル師がコカルスに連れられてやってきた。
「よう、秘密基地で楽しそうにやってるな? ほう、ここまで部屋を改造したか」
パラケル師は奥のラボを見て唸った。
「教室の整備も少しずつ進めています。自分のスペースも、水の純度を上げましたよ」
ホーミィー村から持ってきたスライムは少数だったが、少人数の実験なら十分に対応できる。
「水はあらゆる品質に影響するからな。アレの扱いは慎重にしておけ」
「はい。取水の魔導盤は随時取り外し、最終はチャンバーで処理しています」
「秘密は厳守だ。上下の研究室が騒ぎ出すぞ」
話題はコカルス君の開発に戻る。先ほど気になった点を話す。
「呼びに行っている間に、遺構のスケッチを確認しました。溝が彫られていましたよね? この部分です」
「溝か……確かに扉の受け面に合わせて、ぐるりと溝があったな」
「遺構を確認しましたが、素材が何も残っていませんでした。経年劣化でしょうか?」
「おそらく。パッキンがあったのだろう」
「パッキン?」
「緩衝材だ。硬いもの同士を合わせるためのものだ。間に挟み、隙間なく密着させる」
自分は過去の記憶を辿る。そうだ、鎮守の森だ。パラケル師が言っていた、硬化すると反発するような素材――
「鎮守の森を出るときに貰った素材。柔らかい……『ゴム?』いや違う、『ラバー?』……グミ。そう、グミだ。おそらくそこにはグミが挟まっていたのでは?」
「グミ? そんな素材、王都では聞いたことがないぞ?」
「ああ、あれか。確かに」
サイカスの樹液を取り出す。今は粘性が高いが、時間が経てば硬化する。
「サイカスの樹液。コカルスよ、これはエルフたちが物の接着に使っているものだ」
「台車のガラスを嵌めるときにも使いました」
「これは……初めて見る」
「サイカスの樹液はエルフ特有の素材です。エルフの里では接着液として使われています。以前は入手経路が分からず諦めましたが、今回はサルファを使って加工できます。ちょっと見てください」
居住スペースではあるが、アイソレータを使うことにした。手への臭い移りを防げる。
「ん? それはドラフトチャンバか? 界面の揺らぎが違うように見える」
「ドラフトチャンバの界面を変動させるようにしました。こちらの動きに合わせて反応します。アイソレータと名付けました」
「ほう……よく見せてくれ。なるほど、膜。紙一枚隔てるような緩衝空間を挟むのか。内部の物が持てる。ドラフトチャンバとは違い、界の完全隔離か。参考になるな」
「参考にならないですよ! 師匠達、どれだけ魔術制御の高みに至っているのですか!」
驚くコカルス君を横目に、アイソレータ内でサイカスの樹液を火魔法で加熱する。そこに微粉化したサルファを加える。加硫――硫黄を加えて架橋重合させる反応だ。
「熱を入れつつ、サルファを加えます。徐々に粘性を持った素材ができるはずです」
火・土・水の三属性を複合制御し、魔力を込めて素材を練り上げる。アイソレータ内で魔素がゴリゴリと消費されていく。後半は魔銀製のローラーを使って混合。
「すごい制御ですね。自分には無理です」
「見ているだけでは錬金術だな。小僧は化学というが……次第に黄色く変色してきたな。形を整えていくぞ。おっ、もうそろそろ終わりか? 風魔法で冷却している」
魔力ポーションを数本煽り、魔素を回復させながら鑑定を行う。
【*加硫グミ:柔軟性と展延性を併せ持つ。形状:棒状】
「ふう。これで完了です。コカルス君、試作品の扉の受け部分に、グミが少し出っ張るように魔銀に溝を掘ってください」
「よし、これくらいなら。俺も上達したものだ。レッド君には負けるが」
溝に加硫グミをねじ込み、扉を閉めてハンドルを回す。グミが潰れ、空気の漏れが完全に防がれた。
「おお!! 潰れた! これがグミの効果か!」
コカルス君は興奮気味に試験機を稼働させる。減圧をかけても、空気の密閉は保たれたまま。魔導具の再現に手応えを感じたようだ。ここまでくれば、完成は目前だろう。
「うむ。二人とも、良い手際だ。成長したな。これならワシも早めにホーミィー村に帰れそうだな」
パラケル師が満足げに頷いた。
♢♢
帰り際。レッド君とパラケル師が急に声を潜めて話し始めた。
「パラケル師。帰る前に、王都でもう一仕事お願いしたいです。気になる植物があるんです。挿絵図は略しましたが、メモは残してあります。今回の病魔対策での必需品です。テオフラス商会の仕事として成立させたい。ご意見をいただけますか?」
レッド君は書籍を開き、パラケル師に示す。ん?あれはマテリア・ハーバル。
##マテリアハーバル2巻39項####
ピレトラム。アティ領に植生。白い花弁と黄色い花柱が特徴。多年草。虫が多いアティ領内では、庭や畑のふちに植え、農作物への食害を防ぐのに利用される。開花時期は菖の月。野生の白い花が広がる光景が見られる。(~略~)
図(~略~)
######
「***では***として**されていました。これの**を**して**する。***と混ぜて。***に頼らなくても****が発揮できるでしょう。これからがちょうど**時期です」
「なるほど!これは商売になるぞ!」
「**で抽出して****として販売もできそうです。販売先は*******と**。その後の展開は……」
「ちょうどこれからが開花の時期のようだな」
急に声を小さく話始めた、ドアの近くだと聞き取れない。
「金の日には冒険者ギルドへ依頼を出します。ついでに状況次第で隣にも寄ろうかと。商人ギルドへの伝手はありますか?」
「パテンツをいくつか提出している関係で、ワシは知っている。金の日か……すまんが都合がある。小僧なら、ベルナルの名を出せばよかろう。評議員の顔が利く」
「ちょっと二人で何やってるんですか! 自分も仲間に入れてくださいよ! 聞こえるように話してください!」
疎外された気持ちになり、奥に戻って叫んだ。リンネさんはそんな俺の行動に、くすりと笑う。師が真面目な表情で自分を諭す。
「ん? これはテオフラス商会の案件なのだが。お主も入会するか? 入会金は冷乾の魔導具研究すべての共有だな。見返りは販売後の利益分配と利点があるぞ?」
「くっ……うっ……うーん。今も少し助けてもらっているし。師匠たちと開発すると勉強になるし……入ります!」
「うむ。その即決の男気、いいぞ!」
「コカルス君がテオフラス商会に入れば、魔導具化も容易になりますね!」
あらためて、二人に詳細を聞く。なるほど。虫よけの花の手配とその魔導具化の案件か。確かに自分の勉強にもなりそうだ。
「お香のように棒状にして燃やすのはどうだ?」
「最初はそれですね……でもすぐに真似されそうです。ここは、新規入会したコカルス君に期待です! 成分を染み込ませた板状のものを開発しましょう。1~数日で効果が消えるものを。板を熱し、放散させる機構に。極力低価格で、単純化させて。コカルス君、頼んだ!」
「えっ、冷乾の魔導具もあるのに? 今から構想スケッチまで? 本気ですか……」
三人による商談の打ち合わせは、夜が更けるまで続いていった。
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