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3C-分取と教育
3C-14 ギルド長の覚書
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最初の週が終わり、藤月七日の金の日。学院が休みの日だ。今日の予定はコカルスたちと共に冒険者ギルドへ行き、採取依頼をかけること。依頼人として見えるよう、下級貴族の服装がよいだろうとパラケル師から助言を受けた。商人の恰好は避け、冒険者らと共に移動する。
「レッド君。王都の中央広場には、今日行く冒険者ギルド、魔導師ギルド、商人ギルドの総本部がある。今日は冒険者ギルドだけでいいんだよな?」
「王都周りでの採取を依頼したいです。ピレトラムに関しては流通がありますかね?」
「正直わからん。王都周りでは聞いたことがない。商人ギルドの案件かもしれん」
「それなら、今日は冒険者ギルドを主軸に。状況次第で商人ギルド。その後にベルナル商店。三か所を回る予定としましょう」
重厚な外壁でできた建物は、堅牢さを誇示しているようだ。中も滑らかな石造りで、地方支部とは格が違う。意外にも冒険者はまばらで、ベーガとルンフが慣れた感じで会話する。
「朝を外したから、ずいぶん余裕があるなぁ」
「今回は依頼側だからな。混んでいるときに来ても疲れるだけだ」
流石は王都。ベンベルクとは違い、規模が大きい。三つある依頼カウンターの一つに向かう。
「ルンフ君、ベーガ君。ここは依頼のカウンターよ。受注は向こうです」
「エバちゃん。今日は依頼主を連れてきたんだ。ここで合っている。レッド君」
「お姉さん、こんにちは。お願いがあってきました。採取依頼です」
「君、依頼は初めてかしら?」
「いえ。ベンベルクでは何度か。これはギルド証です」
「あら?魔石入り?えっ、この歳で暫定C! 記載者はエリス=カストディア! アール領のギルド長が直々に!」
「エバちゃん、声が大きい」
「し、失礼しました。今日はどのようなご依頼かしら?」
「用件はいくつか。依頼は複数です。一つは証の書き換えと所在登録を。魔術師から魔導師へ。これが認定のバッジです」
「し、少々お待ちください!」
エバ嬢はバッジと証を持って奥へ引っ込んだ。しばしコカルスらと待つ。やがて、ひげを蓄えた壮年の男が現れた。
「君が、エバから報告を受けた者かな?」
「証の本人で間違いありません。何か問題でも?」
「ギルド長のスプルースという。うむ? 君、魔素の乱れが無いな。見た目の年齢とは違い、魔導修練はしっかりしている。すまんが試させてもらうぞ……これならどうだ?」
精神干渉を狙った言霊の魔力が周囲を飛び交う。クリスティーヌ様や母、最近ではマリアさんが見せた威圧に近い魔力だ。周りを見ると、連れの冒険者たちは後ずさっている。動じないのは自分とリンネだけ。本気ではない威圧だと感じた。エバ嬢は顔を蒼白にし、落ち着かない。自分は周囲の魔素を遮断し、ギルド長の魔力を遮断する。リンネも慌てる様子はない。共に修練してきた成果だろう。
「皆さん、どうしましたか?」
「レッド君。よく平気だな……ギルド長の威圧だぞ?!」
「特に。これからここで戦うわけではないでしょう?」
「はははっ! うむ。君の年で暫定Cなのも納得だ。済まぬな、少し試してみた。記載の事項も間違いはない。エリスが記述した内容も嘘偽りはないとみる。十二歳、今は十三歳か。魔術師でパール領。多数の実績。魔導師への変更依頼。暫定Cランク……なるほど。エバ嬢、書き換えを頼む。ここは俺が担当しよう」
「はい。すぐに書き換えてきます」
「ひぇー、冷や冷やしたぜ」
「オレもどっと疲れたぞ」
その後、ギルド長を相手にスライム、ロッセア、パルモトなどの採取依頼を行った。ギルド長は「たまには受付もいいもんだ」とぶつぶつ言いながら、採取量や金額、納品について打ち合わせを進める。D、Eランクの仕事としてちょうど良いらしい。納品物は学院の研究室まで運んでくれることになった。三日後の三階、香草学教室を指定する。
「ついでにもう一つ。ピレトラムの採取依頼はできますか?」
「できることはできるが……ピレトラムは農家向けの虫害を避ける植物だろう? 食用でもないし、おそらく王都では用途が無い。農業用となると商人ギルドの案件だ。アティ領の植生だったか? 少し離れている。ここで頼むなら……採取依頼ながらもCランク。正直勧めできん」
「やはりそうですか。あきらめて商人ギルドへ行ってみます」
「ギルド長のトルッティーは知っているか? どれ、向こうで試されるのも面倒だろう。少し待っていろ。軽く覚書を書いてやろう。向こうも評議員の孫と伝えたらわかると思うがな」
どうやらここまで情報は漏れているようだ。そうか、ギルド長には伝わっていると言っていたな……。
馬車はルンフに任せ、広場を歩く。
「初日にも来ましたが、道が広いですね」
「馬車道と歩道が分かれ、交通整理はしっかりしている。衛兵も各所にいる。あそこも詰所だ。昼間なら面倒な輩に絡まれることは無い」
街道をまたぎ、隣の建物――商人ギルド本部に入る。ロビーでは裕福そうな商人が優雅に雑談していた。受付嬢がこちらを見て声をかけてきた。
「どのような要件でしょうか?」
「アティ領に精通している商人を紹介して欲しい」
「承りました。差し支えない範囲で内容を」
「ピレトラムの入手業者を仲介して欲しい。隣の建物のスプルース様の紹介となります」
覚書を渡すと、嬢は中身を見て表情を変えた。
「!? 少々お待ちくださいませ! マヌエラ!ご一行様を部屋にお通しして。ギルド長を呼んできます」
部屋で待っていると、恰幅のある後退頭の男が入ってきた。
「トルッティー様。こちらでございます」
「ニエベス君、ありがとう」
職員に礼を述べると、こちらに向き直る。
「君らが、ニエベスが言っていたお客様かな? ギルド長のトルッティーという。スプルースの紹介など、めったにないことだぞ? 覚書の通りならな」
「自分はレッドと申します。所属する商会の長が関係しているかもしれません。祖父のアゼルが、こちらの評議員も兼ねていると聞いています」
「ほう? ベンベルク支部のアゼルか! ではヌシが例の……」
「噂の内容は存じませんが、今回は別件で参りました」
この話を長引かせるつもりはない。本題に移らせてもらう。今はテオフラス商会としての仕事を果たさねばならない。魔導師となったことで、ようやく商会を正式に稼働させられる。代表として動く責務があるのだ。
「うむ。ピレトラムの件と覚書に書いてあるな。確かに、アゼルの一族は南部アティでの商いには疎いだろう。リンメル側の一族もいない。本部に頼るのは正解だ」
「ええ。祖父からも、アティ領には親戚がいないと聞いています」
ホーミィー村を出るとき、父と祖父に親戚の所在を確認していた。ベルナル一族は各地で商店を開いている。アゼルの親戚、祖母方の親戚を含め、場所と店長の名は頭に刻んである。だが、そのリストに南部アティはなかった。だからこそ、こちらでの伝手に期待していたのだ。
「植物か。その方面に強いとなれば、アレクノ商会だろう。アティに本部を置き、ルビシェ、王都にも支店がある。ルビシェ通りに支店があるはずだ。……商人は人脈が命。少年よ、祖父に感謝しておけ。ワシの紹介状も書いてやろう。これがあれば、少なくとも門前払いは避けられるはずだ」
「ご配慮、ありがとうございます」
「なに、困ったときはお互い様だ。こちらも君ら一族には助けられている。アゼルにはよろしく伝えてくれ。健闘を祈る」
アレクノ商会――初訪問の商会との交渉は、往々にして厳しいものだ。だが紹介状は有効な武器となる。ギルド長の厚意には、自然と感謝の念が湧いた。
「レッド君。王都の中央広場には、今日行く冒険者ギルド、魔導師ギルド、商人ギルドの総本部がある。今日は冒険者ギルドだけでいいんだよな?」
「王都周りでの採取を依頼したいです。ピレトラムに関しては流通がありますかね?」
「正直わからん。王都周りでは聞いたことがない。商人ギルドの案件かもしれん」
「それなら、今日は冒険者ギルドを主軸に。状況次第で商人ギルド。その後にベルナル商店。三か所を回る予定としましょう」
重厚な外壁でできた建物は、堅牢さを誇示しているようだ。中も滑らかな石造りで、地方支部とは格が違う。意外にも冒険者はまばらで、ベーガとルンフが慣れた感じで会話する。
「朝を外したから、ずいぶん余裕があるなぁ」
「今回は依頼側だからな。混んでいるときに来ても疲れるだけだ」
流石は王都。ベンベルクとは違い、規模が大きい。三つある依頼カウンターの一つに向かう。
「ルンフ君、ベーガ君。ここは依頼のカウンターよ。受注は向こうです」
「エバちゃん。今日は依頼主を連れてきたんだ。ここで合っている。レッド君」
「お姉さん、こんにちは。お願いがあってきました。採取依頼です」
「君、依頼は初めてかしら?」
「いえ。ベンベルクでは何度か。これはギルド証です」
「あら?魔石入り?えっ、この歳で暫定C! 記載者はエリス=カストディア! アール領のギルド長が直々に!」
「エバちゃん、声が大きい」
「し、失礼しました。今日はどのようなご依頼かしら?」
「用件はいくつか。依頼は複数です。一つは証の書き換えと所在登録を。魔術師から魔導師へ。これが認定のバッジです」
「し、少々お待ちください!」
エバ嬢はバッジと証を持って奥へ引っ込んだ。しばしコカルスらと待つ。やがて、ひげを蓄えた壮年の男が現れた。
「君が、エバから報告を受けた者かな?」
「証の本人で間違いありません。何か問題でも?」
「ギルド長のスプルースという。うむ? 君、魔素の乱れが無いな。見た目の年齢とは違い、魔導修練はしっかりしている。すまんが試させてもらうぞ……これならどうだ?」
精神干渉を狙った言霊の魔力が周囲を飛び交う。クリスティーヌ様や母、最近ではマリアさんが見せた威圧に近い魔力だ。周りを見ると、連れの冒険者たちは後ずさっている。動じないのは自分とリンネだけ。本気ではない威圧だと感じた。エバ嬢は顔を蒼白にし、落ち着かない。自分は周囲の魔素を遮断し、ギルド長の魔力を遮断する。リンネも慌てる様子はない。共に修練してきた成果だろう。
「皆さん、どうしましたか?」
「レッド君。よく平気だな……ギルド長の威圧だぞ?!」
「特に。これからここで戦うわけではないでしょう?」
「はははっ! うむ。君の年で暫定Cなのも納得だ。済まぬな、少し試してみた。記載の事項も間違いはない。エリスが記述した内容も嘘偽りはないとみる。十二歳、今は十三歳か。魔術師でパール領。多数の実績。魔導師への変更依頼。暫定Cランク……なるほど。エバ嬢、書き換えを頼む。ここは俺が担当しよう」
「はい。すぐに書き換えてきます」
「ひぇー、冷や冷やしたぜ」
「オレもどっと疲れたぞ」
その後、ギルド長を相手にスライム、ロッセア、パルモトなどの採取依頼を行った。ギルド長は「たまには受付もいいもんだ」とぶつぶつ言いながら、採取量や金額、納品について打ち合わせを進める。D、Eランクの仕事としてちょうど良いらしい。納品物は学院の研究室まで運んでくれることになった。三日後の三階、香草学教室を指定する。
「ついでにもう一つ。ピレトラムの採取依頼はできますか?」
「できることはできるが……ピレトラムは農家向けの虫害を避ける植物だろう? 食用でもないし、おそらく王都では用途が無い。農業用となると商人ギルドの案件だ。アティ領の植生だったか? 少し離れている。ここで頼むなら……採取依頼ながらもCランク。正直勧めできん」
「やはりそうですか。あきらめて商人ギルドへ行ってみます」
「ギルド長のトルッティーは知っているか? どれ、向こうで試されるのも面倒だろう。少し待っていろ。軽く覚書を書いてやろう。向こうも評議員の孫と伝えたらわかると思うがな」
どうやらここまで情報は漏れているようだ。そうか、ギルド長には伝わっていると言っていたな……。
馬車はルンフに任せ、広場を歩く。
「初日にも来ましたが、道が広いですね」
「馬車道と歩道が分かれ、交通整理はしっかりしている。衛兵も各所にいる。あそこも詰所だ。昼間なら面倒な輩に絡まれることは無い」
街道をまたぎ、隣の建物――商人ギルド本部に入る。ロビーでは裕福そうな商人が優雅に雑談していた。受付嬢がこちらを見て声をかけてきた。
「どのような要件でしょうか?」
「アティ領に精通している商人を紹介して欲しい」
「承りました。差し支えない範囲で内容を」
「ピレトラムの入手業者を仲介して欲しい。隣の建物のスプルース様の紹介となります」
覚書を渡すと、嬢は中身を見て表情を変えた。
「!? 少々お待ちくださいませ! マヌエラ!ご一行様を部屋にお通しして。ギルド長を呼んできます」
部屋で待っていると、恰幅のある後退頭の男が入ってきた。
「トルッティー様。こちらでございます」
「ニエベス君、ありがとう」
職員に礼を述べると、こちらに向き直る。
「君らが、ニエベスが言っていたお客様かな? ギルド長のトルッティーという。スプルースの紹介など、めったにないことだぞ? 覚書の通りならな」
「自分はレッドと申します。所属する商会の長が関係しているかもしれません。祖父のアゼルが、こちらの評議員も兼ねていると聞いています」
「ほう? ベンベルク支部のアゼルか! ではヌシが例の……」
「噂の内容は存じませんが、今回は別件で参りました」
この話を長引かせるつもりはない。本題に移らせてもらう。今はテオフラス商会としての仕事を果たさねばならない。魔導師となったことで、ようやく商会を正式に稼働させられる。代表として動く責務があるのだ。
「うむ。ピレトラムの件と覚書に書いてあるな。確かに、アゼルの一族は南部アティでの商いには疎いだろう。リンメル側の一族もいない。本部に頼るのは正解だ」
「ええ。祖父からも、アティ領には親戚がいないと聞いています」
ホーミィー村を出るとき、父と祖父に親戚の所在を確認していた。ベルナル一族は各地で商店を開いている。アゼルの親戚、祖母方の親戚を含め、場所と店長の名は頭に刻んである。だが、そのリストに南部アティはなかった。だからこそ、こちらでの伝手に期待していたのだ。
「植物か。その方面に強いとなれば、アレクノ商会だろう。アティに本部を置き、ルビシェ、王都にも支店がある。ルビシェ通りに支店があるはずだ。……商人は人脈が命。少年よ、祖父に感謝しておけ。ワシの紹介状も書いてやろう。これがあれば、少なくとも門前払いは避けられるはずだ」
「ご配慮、ありがとうございます」
「なに、困ったときはお互い様だ。こちらも君ら一族には助けられている。アゼルにはよろしく伝えてくれ。健闘を祈る」
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