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3D-道筋と察知
3D-01 *王家の食卓
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三学年に入り、藤月七日。金の日となると父様も夕方は執務が空き、幸いにも母様と三人で夕食を共にすることができた。
「シャーロット。学院の様子はどうだ? 三学年に上がって配属された香草学教室は問題無いか?」
「私の予想とは違い、専属先はマリア先生ではありませんでした。レッド=ベルナルという研究生に付いて学んでいます」
「ほう!? 噂の研究生か! ちなみにシャーロットの課題は何を与えられたのだ?」
「『苦味を有する香草と要素における服用法の開発』という大層な題をいただきました。課題に対する問題点の抽出と、解決方法の模索から入っています。並行して魔術修練も」
「魔術修練もか? 必要が無いと思ったが……お前は入学に先立ち、宮廷魔導師達に習っただろう? 通常の生徒よりかなり上のはずだが」
「先生にポーションの作成を見せましたが、魔術訓練からの学び直しを指示されました。教え方が全く違います。魔力回路もかなり広げられました」
「回路拡張は、シュヴァイツェルに直接お願いしたのだぞ! それ以上か!」
「ええ、魔素の移動が驚くほど滑らかになりました。まるで生まれ変わったようです」
「魔術はどうだ? 四大魔法の修練は?」
「水と風の修練が終わりました。教え方が具体的でわかりやすいです」
「ほう。興味深いな。して、その噂のベルナルは何の研究をしておる?」
「『ウオルク熱への、植物を用いた治癒手法の開発』のようですわ」
「ぬ!? ゲオルク教授は、最重要案件を教員へ振らず、研究生に采配したのか!」
「お言葉ですが、御父様。その委託された研究生のレッド=ベルナル先生は『界上の賜物』とか。ユリアーネは予め知らされていたようですが、私は知りませんでした。この前は嫌というほど、実力を味わいましたわ」
「『界上の賜物』の報告は、ホフマンより受けている。ワシは当然知っているが、お前たちには混乱の元となろう。貴族達には自制を、王子達には伏せるよう宰相に指示を出していた。学院に行き研究生となったのも、勿論宰相から報告を受けておる。香草学に入室したことは知らんがな。よりによって、お前が付いていたとは……」
「異例の研究生の入学の噂は流れていましたが、香草学にいるとは私も予想外でした」
「パラケルの門下だから、当然ワシも魔導具教室に行くと思い込んでいた。先日パラケルに会ったが、一弟子の動向なぞ聞けん。向こうも特段喋る必要もないと判断したのだろう。学院長にも、学院の一研究生の在籍報告を求めるのも不自然だ。干渉と言われかねん」
「先日は先生の魔術の実力を垣間見ました。出力では、エリス=カストディア女史と似たトゥルボーを見せつけられました。制御では、パラケル=アウレオール師と同等の精密制御を垣間見ました。空気を圧縮させ、爆発を生み出したのです。火魔法を使用せずに……」
「あいつらめ。『界上の賜物』と分かった上で、魔術の指導をしっかりとしたようだな。そうか、学院への飛び級を強く推したのは当然の成り行きとなろう。またしてもあ奴らは魔導師界に一石を投じるのか。パラケルの再来と騒ぐ総長の発言も、不合理でなかったという事だろう。彼らが慌てた原因が、ようやく理解できた。うむ、面白い。なるほど、それでこの前は譲歩したのか。宰相の言う通り、行き過ぎたバランスを正すときが来たかもしれん。それで研究の進捗はどうなんだ?」
父様は独り言のように語り、くっくっくっと笑った。私には何が面白いのか分からない。
「研究については、契約で縛られています。ご存じのように研究室の契約により具体的な事項の伝達が禁じられています。彼の研究は、契約が無くても古代語の略語で書かれ、詳しくわかりませんでした。もっとも我々二人の前では、ほとんど研究らしいことはしていません」
「研究室に配属されたのなら、守秘は当然だろう。これからも数々の契約を結ぶこととなる。研究室で見て知ったことは、言動に注意しなさい。関連が無い事でも、内通者と学院から疑われるかもしれん。宮廷魔導師もお前に気軽に聞いてくることもあるだろう。学院と宮廷魔導師会に諮問した返答は、あと三週間。双方の動きは気になるとみる。これからも王族の一員として注意するのだ。お前が付いたのも何かの縁とみよう」
ランベールとホリックにも連絡しておくか、とぶつぶつと独り言をしている。 父様は仕事の顔に戻っていた。宰相とカンティア侯爵との連携……北部対策かしら?
「あら、あなた。食事の時は難しい話は無しでなくて」
「ネガリアよ。そうだった。うっかりしていた」
「そういえば、御父様。御母様。苦みを持ったモノはどうしたら食べられるでしょうか?」
政治色の強い話題を避け、私はサラダを食べつつ二人に意見を求めた。
「味の話か? 苦みは舌の奥底で感じると言われておる。口の中で滞留させなければよいが……うむ」
「苦みも食のアクセント。あなたも大人になったら、苦味も美味しく感じるものです」
「ふふふ。ネガリアよ、それはシャーロットが求める答えではあるまい。最初の話に戻ったか? そういえば以前にも一度聞かれたな。サラダの話でもなさそうだ。どれ、料理長に聞いてみよう」
父様は課題の話と見当をつけたようだ。近くにいた侍女に料理長を呼びつけてもらう。料理長はすぐに来た。
「国王様、王妃様、シャーロット様。お呼びでしょうか?」
「忙しいときにすまぬな。苦みを感じにくくする食材、思い当たらんか?」
「呼ばれるのは光栄なことです。喜んで参上いたします。回答となりますと、食材限定とすれば……ゼラチンが一般的ですが、我が国の名前にもなったアカシアの樹液はどうでしょうか。確か苦みを感じにくくする働きがあると本で見ました。『マテリア・ハーバル』という定本だったと思います」
「料理長、それです! アカシア! 聞いたことがあります。『マテリア・ハーバル』のどの巻でしたか?」
「ずいぶん昔に見たものなので何とも……」
「シャーロットよ。それは自分で調べる項目だ。ジェレミよ、他に何がある?」と父様。
「植物に絞ると、海藻。具体的には紅藻が使えるかと。デザートのゲラーレの材料ですね。今日のデザートにも使われています。水を含ませてプルンとした触感となりましょう。紅藻の種類によっては舌へのあたりを弱め、苦みも閉じ込められるかと」
「ジェレミ! ゲラーレは私も発想としてあったわ! ゲラーレは紅藻から作っているのね! 王宮にも沢山あるかしら?」
「ええ。アクト領経由となりますが、ホラズムで採れますから」
「これも本に?」
「ええ。あの本は料理人にとっては食材集のようなものです。新たな気づきをもたらしてくれています」
「良いことを聞いたわ! ほかに何かあるかしら?」
「料理人の間では、このようなものが……シンセパルムというものが有りまして。使いどころが非常に難しい食材です」
私はしばらくの間、料理長を質問攻めにしてしまった。お仕事が忙しいのに、ごめんなさい。
父様はそんな私を見て、少し笑みを浮かべながら言った。
「学ぶ方向性があるのは良いことだ。各領の食材を知ることは、国内の関心、その貴族との繋がりにも関係する。シャーロット、学院で良い研究室と先生のところに配属されたな。しっかりと学んでくるのだ」
母様も優しく頷く。
「シャーロット。学びは必ず将来に繋がります。香草学は地味に見えて、国を支える大事な学問ですよ」
私は深く頷いた。
――私は深く頷いた。――レッド先生のもとで学ぶことが、きっと自分の未来を広げてくれる。そう確信できた、穏やかな夕餉だった。
「シャーロット。学院の様子はどうだ? 三学年に上がって配属された香草学教室は問題無いか?」
「私の予想とは違い、専属先はマリア先生ではありませんでした。レッド=ベルナルという研究生に付いて学んでいます」
「ほう!? 噂の研究生か! ちなみにシャーロットの課題は何を与えられたのだ?」
「『苦味を有する香草と要素における服用法の開発』という大層な題をいただきました。課題に対する問題点の抽出と、解決方法の模索から入っています。並行して魔術修練も」
「魔術修練もか? 必要が無いと思ったが……お前は入学に先立ち、宮廷魔導師達に習っただろう? 通常の生徒よりかなり上のはずだが」
「先生にポーションの作成を見せましたが、魔術訓練からの学び直しを指示されました。教え方が全く違います。魔力回路もかなり広げられました」
「回路拡張は、シュヴァイツェルに直接お願いしたのだぞ! それ以上か!」
「ええ、魔素の移動が驚くほど滑らかになりました。まるで生まれ変わったようです」
「魔術はどうだ? 四大魔法の修練は?」
「水と風の修練が終わりました。教え方が具体的でわかりやすいです」
「ほう。興味深いな。して、その噂のベルナルは何の研究をしておる?」
「『ウオルク熱への、植物を用いた治癒手法の開発』のようですわ」
「ぬ!? ゲオルク教授は、最重要案件を教員へ振らず、研究生に采配したのか!」
「お言葉ですが、御父様。その委託された研究生のレッド=ベルナル先生は『界上の賜物』とか。ユリアーネは予め知らされていたようですが、私は知りませんでした。この前は嫌というほど、実力を味わいましたわ」
「『界上の賜物』の報告は、ホフマンより受けている。ワシは当然知っているが、お前たちには混乱の元となろう。貴族達には自制を、王子達には伏せるよう宰相に指示を出していた。学院に行き研究生となったのも、勿論宰相から報告を受けておる。香草学に入室したことは知らんがな。よりによって、お前が付いていたとは……」
「異例の研究生の入学の噂は流れていましたが、香草学にいるとは私も予想外でした」
「パラケルの門下だから、当然ワシも魔導具教室に行くと思い込んでいた。先日パラケルに会ったが、一弟子の動向なぞ聞けん。向こうも特段喋る必要もないと判断したのだろう。学院長にも、学院の一研究生の在籍報告を求めるのも不自然だ。干渉と言われかねん」
「先日は先生の魔術の実力を垣間見ました。出力では、エリス=カストディア女史と似たトゥルボーを見せつけられました。制御では、パラケル=アウレオール師と同等の精密制御を垣間見ました。空気を圧縮させ、爆発を生み出したのです。火魔法を使用せずに……」
「あいつらめ。『界上の賜物』と分かった上で、魔術の指導をしっかりとしたようだな。そうか、学院への飛び級を強く推したのは当然の成り行きとなろう。またしてもあ奴らは魔導師界に一石を投じるのか。パラケルの再来と騒ぐ総長の発言も、不合理でなかったという事だろう。彼らが慌てた原因が、ようやく理解できた。うむ、面白い。なるほど、それでこの前は譲歩したのか。宰相の言う通り、行き過ぎたバランスを正すときが来たかもしれん。それで研究の進捗はどうなんだ?」
父様は独り言のように語り、くっくっくっと笑った。私には何が面白いのか分からない。
「研究については、契約で縛られています。ご存じのように研究室の契約により具体的な事項の伝達が禁じられています。彼の研究は、契約が無くても古代語の略語で書かれ、詳しくわかりませんでした。もっとも我々二人の前では、ほとんど研究らしいことはしていません」
「研究室に配属されたのなら、守秘は当然だろう。これからも数々の契約を結ぶこととなる。研究室で見て知ったことは、言動に注意しなさい。関連が無い事でも、内通者と学院から疑われるかもしれん。宮廷魔導師もお前に気軽に聞いてくることもあるだろう。学院と宮廷魔導師会に諮問した返答は、あと三週間。双方の動きは気になるとみる。これからも王族の一員として注意するのだ。お前が付いたのも何かの縁とみよう」
ランベールとホリックにも連絡しておくか、とぶつぶつと独り言をしている。 父様は仕事の顔に戻っていた。宰相とカンティア侯爵との連携……北部対策かしら?
「あら、あなた。食事の時は難しい話は無しでなくて」
「ネガリアよ。そうだった。うっかりしていた」
「そういえば、御父様。御母様。苦みを持ったモノはどうしたら食べられるでしょうか?」
政治色の強い話題を避け、私はサラダを食べつつ二人に意見を求めた。
「味の話か? 苦みは舌の奥底で感じると言われておる。口の中で滞留させなければよいが……うむ」
「苦みも食のアクセント。あなたも大人になったら、苦味も美味しく感じるものです」
「ふふふ。ネガリアよ、それはシャーロットが求める答えではあるまい。最初の話に戻ったか? そういえば以前にも一度聞かれたな。サラダの話でもなさそうだ。どれ、料理長に聞いてみよう」
父様は課題の話と見当をつけたようだ。近くにいた侍女に料理長を呼びつけてもらう。料理長はすぐに来た。
「国王様、王妃様、シャーロット様。お呼びでしょうか?」
「忙しいときにすまぬな。苦みを感じにくくする食材、思い当たらんか?」
「呼ばれるのは光栄なことです。喜んで参上いたします。回答となりますと、食材限定とすれば……ゼラチンが一般的ですが、我が国の名前にもなったアカシアの樹液はどうでしょうか。確か苦みを感じにくくする働きがあると本で見ました。『マテリア・ハーバル』という定本だったと思います」
「料理長、それです! アカシア! 聞いたことがあります。『マテリア・ハーバル』のどの巻でしたか?」
「ずいぶん昔に見たものなので何とも……」
「シャーロットよ。それは自分で調べる項目だ。ジェレミよ、他に何がある?」と父様。
「植物に絞ると、海藻。具体的には紅藻が使えるかと。デザートのゲラーレの材料ですね。今日のデザートにも使われています。水を含ませてプルンとした触感となりましょう。紅藻の種類によっては舌へのあたりを弱め、苦みも閉じ込められるかと」
「ジェレミ! ゲラーレは私も発想としてあったわ! ゲラーレは紅藻から作っているのね! 王宮にも沢山あるかしら?」
「ええ。アクト領経由となりますが、ホラズムで採れますから」
「これも本に?」
「ええ。あの本は料理人にとっては食材集のようなものです。新たな気づきをもたらしてくれています」
「良いことを聞いたわ! ほかに何かあるかしら?」
「料理人の間では、このようなものが……シンセパルムというものが有りまして。使いどころが非常に難しい食材です」
私はしばらくの間、料理長を質問攻めにしてしまった。お仕事が忙しいのに、ごめんなさい。
父様はそんな私を見て、少し笑みを浮かべながら言った。
「学ぶ方向性があるのは良いことだ。各領の食材を知ることは、国内の関心、その貴族との繋がりにも関係する。シャーロット、学院で良い研究室と先生のところに配属されたな。しっかりと学んでくるのだ」
母様も優しく頷く。
「シャーロット。学びは必ず将来に繋がります。香草学は地味に見えて、国を支える大事な学問ですよ」
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