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3D-道筋と察知
3D-02 *揺らぐ均衡
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ここは王城の一角、きらびやかな会議室。
この会を招集したのはワシだ。椅子は一位から七位まで、七つ。今日は出席率が良い。全員が時間内に着席し、皆がワシの発言を待っている。
ここでのワシの立場は会長。しかし、会員の一人に過ぎぬ。強権を振るえる下部ギルドとは違い、ここは王宮の諮問機関。各人の意見を集約し、王宮へと届けるのが務め。各人の思惑を調整し、均衡を保つのがこの場の役割だ。難しい役目だが、ワシ以外に勤め上げられる者はおるまい。
「皆。よく来てくれた。これより定例の検討会を始める。議長はこのシュヴァイツェルが司る。今回の議題は四つ。手元の紙を見よ」
#######
――定例検討会 議事――
1284年藤月八日
一.商人ギルドのパテンツ状況
二.学院事項
三王宮からの諮問経緯
四.研鑽・進捗状況
出席者:シュヴァイツェル、ミケル、アルナル、レオナルド、カルラ、イゾルテ、レノック
######
「まず一番目。商人ギルドの主要なパテンツ状況を報告する。昨年下期は学院から二件、商会から五件の申請と許可がなされた。注目すべきは学院からのムカージ教授によるヴィトリオールの製造法。商人からは、有色ガラスの製造方法、サナーレウンゲンの用途、リンスなる中和液の製造法と用途だ。皆の意見を求めたい」
「ヴィトリオールは学院でも発表があったな。少し遅れての申請か。万能溶解液への道が一つ積み上げられたと聞く」
「酢の酸を使わずに済むのは助かる。製品化が待ち遠しい」
「出入りの商会が間に入り、工房で製造を行うそうだ。体制が整うまで、権利の貸与は商人ギルドが仲介する。作成願と金を払えばレシピが貸与されるとのこと」
「酢を凌ぐ強酸か。面白いものを開発したものだ」
「学院のもう一件は、凍結による乾燥物の製造法。フリード教室の院生コカルス。迷宮からの発掘品を元にしたのだろう。魔導具そのものの製造が取れていないのはそのためだ」
「有色ガラスの製造は特段新規性は薄い。コロ*栓の開発は面白かったがな。これはペインター商会の申請だ」
「すでに磁器瓶でポーションの魔素拡散は払拭されている。特に注意深く見る必要はあるまい」
「次。酸とカルサイトの組み合わせによる気体の製造法。登録のみで即時パテンツ開放。申請人はテオフラス商会」
「気体は炭酸だろう。酒の発酵でも得られる。目新しさはない」
「三件目。スライムによる汚物の浄化手法。当たり前すぎて誰も出願していなかったため登録のみ。即時開放。申請人はテオフラス商会」
「さらに工夫を促す狙いだろう。目新しさはない」
「四件目。サナーレウンゲンの用途パテンツ。製造を取らずに用途のみ。これもテオフラス商会だ」
カルラが口を開く。
「テオフラス商会が多いわね。パテンツ戦略だわ。囲われる前に抑え、開放したい考え。隠したいのは別にある。この商会、申請に慣れているわね。申請者は……パラケル師弟! 商会名が違う。通常ならアウレオール商会、パールが絡むならマルガリタ商会だったはず。なぜ使い分けているのかしら? 請求項目は……皮膚に特化した膏を用いた治療。製造手法は出していないわね。本当ならハイポーションに次ぐ偉業。芳香を含められる?……貴族向けね」
ワシは心中で唸る。――やはりカルラの分析力は抜きん出ている。
「サナーレウンゲンは宰相と辺境伯との打ち合わせでも出てきた」
「学院への推薦の理由のだったと思うぞ」
「ああ。霊薬に比べると霞む印象だった」
「物を見なければ新規性が不明ね。現物が入手できないのが残念だわ」
「五件目。リンスなる中和液の製造法と用途。クエン酸? 未知の酸だな。グリセロール? これも未知。分からぬものだらけのレシピだ。芳香精油を組み合わせることもできる。石鹸の効力を緩やかに打ち消す役割。製造と用途、両方の申請だ」
ミケルがのんびりと答える。
「石鹸? そういえばシャーロット王女から検品の拝命を受けた。辺境伯の子息から貰った物を王宮に入れたいと。液はシトラスリンスという名。特段特徴も無い物品で返却したが……失敗だったな。同時に検品をした石鹸は質に特化していた。鑑定しても、溶解しても製法が推測できんかった」
イゾルテも頷く。
「私もユリアーネ様から拝借し鑑定しました。結果は同じ。芳香はローサ。リンスは酸性の液ですね。恋仲から貰ったと嬉しそうにしていたわ」
レノックも口を開く。
「私の教室でも話題になった。芳香は別のものだった。デンタータとアントス。中和液は石鹸で洗髪した後に使うもの。組で使用することに意義があるらしいぞ」
カルラが声を荒げる。
「従来の石鹸では質が足りず、実現できなかった用途よ。革新的だわ。なぜリンスだけで肝心の石鹸の製法を登録しないの!?」
ワシは唸る。――確かに異質。学院への浸透は、貴族社会へ標的にするための工作。パールからワシへの挑戦状か。
「それぞれ解析を続けよ。次。学院の事項。レノック教授、報告を」
「式は滞りなく行われた。特段報告は無い」
「レノック君。それだけではあるまい。『界上の賜物』レッド=ベルナル君の動向は?」
ワシは問いただす。以前も学院に馬車を派遣したが、下町に行かれ巻かれてしまった。
「推薦枠で魔導師試験を受け合格。研究生待遇で入学。希望通り香草学教室に配属。パール家により入室判断はぎりぎりまで引き延ばされた。実績からすればアルナル君かフリード君を選ぶと予想されていたが、植物に興味があるとして香草学を選んだ。学内では周知の事実だ」
レノックが淡々と答える。
「アルナル君。意見は?」
ワシは門下の弟子に問いを投げた。
「落胆した。下賤なる民を率いてきたのも頂けない。香草学教室にはふさわしいのではないか?」
「レノック君は紳士的だが、アルナル君。君はもう少し言葉を選ぶ必要がある。学舎では身分や出自は問われぬはず。平等であるべきではないかね」
ミケルが間に入り、窘める。
「……あの一族が神格に近いなど、おこがましい限りです! それ以上はありません」
アルナルは吐き捨てるように言った。
「ミケル君。アルナル君とそこを同一にするのは好かん。私はエルフ族を嫌ってはおらん。ただ、感情により魔力が乱れることはありえぬと思うだけだ。規律こそ第一。一時期在籍していたエリス君とは、魔術の運用については合わなかった。それだけだ」
「やれやれだわ。よくあなた達をまとめているわね。ミューラーも大変だわ」
イゾルテがため息をついた。
****
コロ*栓はコ*ナ栓となります。規定により伏字対応。
この会を招集したのはワシだ。椅子は一位から七位まで、七つ。今日は出席率が良い。全員が時間内に着席し、皆がワシの発言を待っている。
ここでのワシの立場は会長。しかし、会員の一人に過ぎぬ。強権を振るえる下部ギルドとは違い、ここは王宮の諮問機関。各人の意見を集約し、王宮へと届けるのが務め。各人の思惑を調整し、均衡を保つのがこの場の役割だ。難しい役目だが、ワシ以外に勤め上げられる者はおるまい。
「皆。よく来てくれた。これより定例の検討会を始める。議長はこのシュヴァイツェルが司る。今回の議題は四つ。手元の紙を見よ」
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――定例検討会 議事――
1284年藤月八日
一.商人ギルドのパテンツ状況
二.学院事項
三王宮からの諮問経緯
四.研鑽・進捗状況
出席者:シュヴァイツェル、ミケル、アルナル、レオナルド、カルラ、イゾルテ、レノック
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「まず一番目。商人ギルドの主要なパテンツ状況を報告する。昨年下期は学院から二件、商会から五件の申請と許可がなされた。注目すべきは学院からのムカージ教授によるヴィトリオールの製造法。商人からは、有色ガラスの製造方法、サナーレウンゲンの用途、リンスなる中和液の製造法と用途だ。皆の意見を求めたい」
「ヴィトリオールは学院でも発表があったな。少し遅れての申請か。万能溶解液への道が一つ積み上げられたと聞く」
「酢の酸を使わずに済むのは助かる。製品化が待ち遠しい」
「出入りの商会が間に入り、工房で製造を行うそうだ。体制が整うまで、権利の貸与は商人ギルドが仲介する。作成願と金を払えばレシピが貸与されるとのこと」
「酢を凌ぐ強酸か。面白いものを開発したものだ」
「学院のもう一件は、凍結による乾燥物の製造法。フリード教室の院生コカルス。迷宮からの発掘品を元にしたのだろう。魔導具そのものの製造が取れていないのはそのためだ」
「有色ガラスの製造は特段新規性は薄い。コロ*栓の開発は面白かったがな。これはペインター商会の申請だ」
「すでに磁器瓶でポーションの魔素拡散は払拭されている。特に注意深く見る必要はあるまい」
「次。酸とカルサイトの組み合わせによる気体の製造法。登録のみで即時パテンツ開放。申請人はテオフラス商会」
「気体は炭酸だろう。酒の発酵でも得られる。目新しさはない」
「三件目。スライムによる汚物の浄化手法。当たり前すぎて誰も出願していなかったため登録のみ。即時開放。申請人はテオフラス商会」
「さらに工夫を促す狙いだろう。目新しさはない」
「四件目。サナーレウンゲンの用途パテンツ。製造を取らずに用途のみ。これもテオフラス商会だ」
カルラが口を開く。
「テオフラス商会が多いわね。パテンツ戦略だわ。囲われる前に抑え、開放したい考え。隠したいのは別にある。この商会、申請に慣れているわね。申請者は……パラケル師弟! 商会名が違う。通常ならアウレオール商会、パールが絡むならマルガリタ商会だったはず。なぜ使い分けているのかしら? 請求項目は……皮膚に特化した膏を用いた治療。製造手法は出していないわね。本当ならハイポーションに次ぐ偉業。芳香を含められる?……貴族向けね」
ワシは心中で唸る。――やはりカルラの分析力は抜きん出ている。
「サナーレウンゲンは宰相と辺境伯との打ち合わせでも出てきた」
「学院への推薦の理由のだったと思うぞ」
「ああ。霊薬に比べると霞む印象だった」
「物を見なければ新規性が不明ね。現物が入手できないのが残念だわ」
「五件目。リンスなる中和液の製造法と用途。クエン酸? 未知の酸だな。グリセロール? これも未知。分からぬものだらけのレシピだ。芳香精油を組み合わせることもできる。石鹸の効力を緩やかに打ち消す役割。製造と用途、両方の申請だ」
ミケルがのんびりと答える。
「石鹸? そういえばシャーロット王女から検品の拝命を受けた。辺境伯の子息から貰った物を王宮に入れたいと。液はシトラスリンスという名。特段特徴も無い物品で返却したが……失敗だったな。同時に検品をした石鹸は質に特化していた。鑑定しても、溶解しても製法が推測できんかった」
イゾルテも頷く。
「私もユリアーネ様から拝借し鑑定しました。結果は同じ。芳香はローサ。リンスは酸性の液ですね。恋仲から貰ったと嬉しそうにしていたわ」
レノックも口を開く。
「私の教室でも話題になった。芳香は別のものだった。デンタータとアントス。中和液は石鹸で洗髪した後に使うもの。組で使用することに意義があるらしいぞ」
カルラが声を荒げる。
「従来の石鹸では質が足りず、実現できなかった用途よ。革新的だわ。なぜリンスだけで肝心の石鹸の製法を登録しないの!?」
ワシは唸る。――確かに異質。学院への浸透は、貴族社会へ標的にするための工作。パールからワシへの挑戦状か。
「それぞれ解析を続けよ。次。学院の事項。レノック教授、報告を」
「式は滞りなく行われた。特段報告は無い」
「レノック君。それだけではあるまい。『界上の賜物』レッド=ベルナル君の動向は?」
ワシは問いただす。以前も学院に馬車を派遣したが、下町に行かれ巻かれてしまった。
「推薦枠で魔導師試験を受け合格。研究生待遇で入学。希望通り香草学教室に配属。パール家により入室判断はぎりぎりまで引き延ばされた。実績からすればアルナル君かフリード君を選ぶと予想されていたが、植物に興味があるとして香草学を選んだ。学内では周知の事実だ」
レノックが淡々と答える。
「アルナル君。意見は?」
ワシは門下の弟子に問いを投げた。
「落胆した。下賤なる民を率いてきたのも頂けない。香草学教室にはふさわしいのではないか?」
「レノック君は紳士的だが、アルナル君。君はもう少し言葉を選ぶ必要がある。学舎では身分や出自は問われぬはず。平等であるべきではないかね」
ミケルが間に入り、窘める。
「……あの一族が神格に近いなど、おこがましい限りです! それ以上はありません」
アルナルは吐き捨てるように言った。
「ミケル君。アルナル君とそこを同一にするのは好かん。私はエルフ族を嫌ってはおらん。ただ、感情により魔力が乱れることはありえぬと思うだけだ。規律こそ第一。一時期在籍していたエリス君とは、魔術の運用については合わなかった。それだけだ」
「やれやれだわ。よくあなた達をまとめているわね。ミューラーも大変だわ」
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コロ*栓はコ*ナ栓となります。規定により伏字対応。
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