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3D-道筋と察知
3D-05 *正位への奉納
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藤月八日。二度目の銀日。
私は今、神殿の奥に立っている。これからルプラ、ローセアと共に、正位様との接見に臨むのだ。
私達と別れたエリスはすでに賜物を伴い、王都へ向かっている。私たちには別の使命がある。主位テトラフィーラ様からは「早い時期に神殿へ詣でよ」との御言葉を賜っていた。妖精となった我らは、神格者の目であり耳である。周辺の異変を察知し、報告し、影響を見極めることが役割。直属の上長はテトラフィーラ様だが、その上位者への謁見は避けて通れぬ務めであった。
「正位様。主位テトラフィーラ様配下、マジャリス、ローセア、ルプラの御三方が到着されました」
巫女ルーナの声が響く。
「入れ」
その一言に、私たちは静かに進み出て、深く頭を垂れた。
「アクティフォーリア様の聖域、アクティアの森に参上いたしました。鎮守の森テトラフィーラ配下、ルプラ、ローセア。そしてその上役、マジャリスにございます。ご挨拶が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます。主位に代わり、僅かながら神力を奉納させていただきました」
「遠路ご苦労。氾濫で地も荒れたと聞く。主位を助け、地鎮に協力したこと、感謝する。これからも務めよ」
「はっ。ありがたきお言葉。帰郷の折には必ず主位へ報告いたします」
正位様は続けて、テトラフィーラ様の像を通じての対面について語られた。ヘルメス様の御神力を一旦納めた影響で、主位の器が大きく増していたという。
「界上の賜物が関わっていた件でしょうか」
私が問うと、正位様は頷かれた。
「うむ。ヘルメス様の御意向により、テトラフィーラは賜物へ杖を下賜したと聞く。その杖は過分な許可証となろう。必ず伝えておけ」
私は即座に答えた。
「界上の賜物、レッド=ベルナルに周知いたします。ローセア、あなたの役目です」
「はっ。必ず伝えます」
奉納の儀では、ローセアがアイテムボックスから取り出した品々をルーナに託した。魔素酒精、エリクシール、モルテーム……その数々に正位様は目を見開かれた。
「魔素酒精か! 神酒に匹敵する仕上がり……ここまで至ったとは!」
その反応に、私は胸の奥で小さく息を呑んだ。パラケルやレッドの側にいると、感覚が麻痺してしまう。だが、神格者の目から見れば、それは確かに驚異的な成果なのだ。
「界上の賜物はパラケルに師事しておりましたが、今は学院に籍を移し、師弟関係は解かれております。後見人として名を残してはおりますが」
「技術が継承されるのは良いことだ。ヒト族の強みは研鑽と知の継承にある。これからも励めと伝えよ」
謁見を終え、私たちは神殿を後にした。外に出れば、アクティアの森が果てしなく広がる。ここは神力そのものが結界となる聖域。油断はできない。二段の界を抜け、ようやく一息ついた。
「はぁ……緊張した」
「慣れない言葉は疲れるね」
「ロセアスティルを飲んで落ち着きたい」
詣出は終わった。あとは彼に伝えるだけだ。アクティフォーリア様は変わらず優しい御方だったが、ウオルク領の主位の衰微は気がかりだ。これは必ずテトラフィーラ様へ報告せねばならない。
彼が像作成の折に手にしていた杖は、下賜された物―――正位様から聞けたのは大きな収穫だった。彼は急速に成長している。直接問うことはできないが、確かに神域にて下賜されたのだろう。
我らが仕える主は、私たちの働きをねぎらってくれるかしら?もちろん当然よね。
♢♢
「ルーナ。先ほどから態度がおかしいが」
正位様の声が、静かに私を射抜いた。
「……すでに賜物が神酒まで作成できる力を持っているとは思わず、驚いてしまいまして」
私は慌てて頭を垂れ、声を震わせながら答えた。
「ヘルメス様からスキルの開示があったと伝えただろう。その賜物の力ならば当然ではないのか?」
「ですが……修練が早すぎます! 魔力の扱いだけでも、私たちには長い年月が必要でした。それを、あの方は……」
正位様は静かに首を振られた。
「パラケルというヒト族の力ではないのか? 『教授』と言われるくらいだ。教育者としても優れていたのだろう」
「……このまま進めば、彼は神力を生み、至る道へ歩むのでしょうか?」
私の問いに、正位様は短く答えられた。
「杖を持っているからな。常に神力に触れているならば、早かろう」
私は思わず口を開いた。
「アクティフォーリア様! 下賜された杖とは、『ヒュギエイアの杯』のことを指すのでしょうか?」
正位様はわずかに目を細め、私を見据えられた。
「杖が気になるのか。テトラフィーラは自らの分身である蛇と、器としての杯を掛け合わせ、ヘルメス様の御意向に従い杖を生み出したと聞く。確かに名は杖ではなく、『ヒュギエイアの杯』と言っていたな」
「やはり神器……! 王国の一角で、総長からも話が出ていました。あれこそが《パナケイア》に至る道だと」
私は胸の鼓動を抑えきれず、声を震わせた。
正位様はふと壁面に視線を移された。そこには『スマラグディナ石碑』が埋め込まれている。
「錬金術か。ハビテュスも好むものだ。賢者の石、万物溶解液、そして万能薬《パナケイア》。それらは万象を一者に集めるたるもの。太陽と月の力の集積、大地と天の循環。純粋なる魔素は神気に至る。……それはヘルメス様の御力そのものに変わりがない。我ら神格者が長き時をかけてその身へ集めるのだ。ヒト族が術と称する実験程度で得られるものではない。それを受け止める“器”が必要なのだ」
その言葉を聞きながら、私は息を呑んだ。
――器。
賜物は、その器たり得るのだろうか。
私の胸に、畏怖と期待が入り混じった熱が広がっていった。
私は今、神殿の奥に立っている。これからルプラ、ローセアと共に、正位様との接見に臨むのだ。
私達と別れたエリスはすでに賜物を伴い、王都へ向かっている。私たちには別の使命がある。主位テトラフィーラ様からは「早い時期に神殿へ詣でよ」との御言葉を賜っていた。妖精となった我らは、神格者の目であり耳である。周辺の異変を察知し、報告し、影響を見極めることが役割。直属の上長はテトラフィーラ様だが、その上位者への謁見は避けて通れぬ務めであった。
「正位様。主位テトラフィーラ様配下、マジャリス、ローセア、ルプラの御三方が到着されました」
巫女ルーナの声が響く。
「入れ」
その一言に、私たちは静かに進み出て、深く頭を垂れた。
「アクティフォーリア様の聖域、アクティアの森に参上いたしました。鎮守の森テトラフィーラ配下、ルプラ、ローセア。そしてその上役、マジャリスにございます。ご挨拶が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます。主位に代わり、僅かながら神力を奉納させていただきました」
「遠路ご苦労。氾濫で地も荒れたと聞く。主位を助け、地鎮に協力したこと、感謝する。これからも務めよ」
「はっ。ありがたきお言葉。帰郷の折には必ず主位へ報告いたします」
正位様は続けて、テトラフィーラ様の像を通じての対面について語られた。ヘルメス様の御神力を一旦納めた影響で、主位の器が大きく増していたという。
「界上の賜物が関わっていた件でしょうか」
私が問うと、正位様は頷かれた。
「うむ。ヘルメス様の御意向により、テトラフィーラは賜物へ杖を下賜したと聞く。その杖は過分な許可証となろう。必ず伝えておけ」
私は即座に答えた。
「界上の賜物、レッド=ベルナルに周知いたします。ローセア、あなたの役目です」
「はっ。必ず伝えます」
奉納の儀では、ローセアがアイテムボックスから取り出した品々をルーナに託した。魔素酒精、エリクシール、モルテーム……その数々に正位様は目を見開かれた。
「魔素酒精か! 神酒に匹敵する仕上がり……ここまで至ったとは!」
その反応に、私は胸の奥で小さく息を呑んだ。パラケルやレッドの側にいると、感覚が麻痺してしまう。だが、神格者の目から見れば、それは確かに驚異的な成果なのだ。
「界上の賜物はパラケルに師事しておりましたが、今は学院に籍を移し、師弟関係は解かれております。後見人として名を残してはおりますが」
「技術が継承されるのは良いことだ。ヒト族の強みは研鑽と知の継承にある。これからも励めと伝えよ」
謁見を終え、私たちは神殿を後にした。外に出れば、アクティアの森が果てしなく広がる。ここは神力そのものが結界となる聖域。油断はできない。二段の界を抜け、ようやく一息ついた。
「はぁ……緊張した」
「慣れない言葉は疲れるね」
「ロセアスティルを飲んで落ち着きたい」
詣出は終わった。あとは彼に伝えるだけだ。アクティフォーリア様は変わらず優しい御方だったが、ウオルク領の主位の衰微は気がかりだ。これは必ずテトラフィーラ様へ報告せねばならない。
彼が像作成の折に手にしていた杖は、下賜された物―――正位様から聞けたのは大きな収穫だった。彼は急速に成長している。直接問うことはできないが、確かに神域にて下賜されたのだろう。
我らが仕える主は、私たちの働きをねぎらってくれるかしら?もちろん当然よね。
♢♢
「ルーナ。先ほどから態度がおかしいが」
正位様の声が、静かに私を射抜いた。
「……すでに賜物が神酒まで作成できる力を持っているとは思わず、驚いてしまいまして」
私は慌てて頭を垂れ、声を震わせながら答えた。
「ヘルメス様からスキルの開示があったと伝えただろう。その賜物の力ならば当然ではないのか?」
「ですが……修練が早すぎます! 魔力の扱いだけでも、私たちには長い年月が必要でした。それを、あの方は……」
正位様は静かに首を振られた。
「パラケルというヒト族の力ではないのか? 『教授』と言われるくらいだ。教育者としても優れていたのだろう」
「……このまま進めば、彼は神力を生み、至る道へ歩むのでしょうか?」
私の問いに、正位様は短く答えられた。
「杖を持っているからな。常に神力に触れているならば、早かろう」
私は思わず口を開いた。
「アクティフォーリア様! 下賜された杖とは、『ヒュギエイアの杯』のことを指すのでしょうか?」
正位様はわずかに目を細め、私を見据えられた。
「杖が気になるのか。テトラフィーラは自らの分身である蛇と、器としての杯を掛け合わせ、ヘルメス様の御意向に従い杖を生み出したと聞く。確かに名は杖ではなく、『ヒュギエイアの杯』と言っていたな」
「やはり神器……! 王国の一角で、総長からも話が出ていました。あれこそが《パナケイア》に至る道だと」
私は胸の鼓動を抑えきれず、声を震わせた。
正位様はふと壁面に視線を移された。そこには『スマラグディナ石碑』が埋め込まれている。
「錬金術か。ハビテュスも好むものだ。賢者の石、万物溶解液、そして万能薬《パナケイア》。それらは万象を一者に集めるたるもの。太陽と月の力の集積、大地と天の循環。純粋なる魔素は神気に至る。……それはヘルメス様の御力そのものに変わりがない。我ら神格者が長き時をかけてその身へ集めるのだ。ヒト族が術と称する実験程度で得られるものではない。それを受け止める“器”が必要なのだ」
その言葉を聞きながら、私は息を呑んだ。
――器。
賜物は、その器たり得るのだろうか。
私の胸に、畏怖と期待が入り混じった熱が広がっていった。
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