巻き込まれた薬師の日常

白髭

文字の大きさ
243 / 259
3D-道筋と察知

3D-07 シンセパルムの甘い罠

しおりを挟む
 午後。
 ピレトラムの抽出については、彼らに任せることになった。生徒による研究の案件だから、少しずつ進めていくだろう。やがて学生の二人が入室してきた。

「レッド先生。『マテリア・ハーバル』はいろんな方が見ているのですね! 王都の料理人も参考にしているとは知りませんでした!」

「基礎的な研究は、地道で孤独な道です。この教室の『マテリア・ハーバル』の編纂だったり、ムカージ先生のような仕事はその類です。派手さはありませんが、脈々と行うことに意義が有るのですよ。自分の研究が他の人の研究、仕事に役立つ――それも基幹となる部分で。立派な研究です」

「料理の素材について、料理人と話が出来ましたわ。父様も居たので、いろいろ教えてもらいました」

 シャーロットさんは王様と王宮の料理人に聞いたのか。まったく、すごいところへ踏み込む。話を聞いただけでも、こちらが恐縮しそうだ。

「私もやはり料理人に聞いたわ。料理人の間でも『マテリア・ハーバル』は定本として支持されているようね」

「アカシアと藻類が使えると提案されたわ」

「私もその二つね。アカシアは苦味を感じにくくする。藻類は綺麗にしてゲラーレに使うもの。聞いて初めてゲラーレの素材を知ったわ」
「料理長のジェレミからはもう一つ提案されたの。料理に使うには、扱いが難しいと言われたけど……なら、おそらく使い道を思いつくって」

 シャーロットさんはアイテムボックスから、籠に入った果実を取り出した。
「赤い果実。シンセパルムだわ。珍しいわね。久々に見たわ」
 自分はリンネと共に鑑定を試みる。

【シンセパルム。味の変化を生じる。生食可】

 ユリアーネさんの言う通り、確かにシンセパルムだ。珍しくスキルによる追記がない。これは体験が必要なものだろう。

「先生。ジェレミから貰った紙に使い方が書いてあるわ。この果実を食べた後に、苦いものを食べると甘く感じるって」
「一つ食べてみようかな」

「中の種を除き、果肉を食べなさいと書いてあるわ。その後の味を変化させるようです」

 種を除き、果肉を食べる。特段甘さもない果実――はて、この感覚。どこかで体験したようだ。

「次に、苦味があるものを食べてみなさい、と書いてあります」
「では、ここはもちろんキンコンを舐めてみよう」

 キンコン抽出液を口に含む。……ほう! 確かに苦味は減る。それも格段に。そうだ、これは意識の外に追いやっていた。ここまで来れば、もう分かる。

「『ミラクリン?』だ! シンセパルムは『ミラクルフルーツ?』のことか!」
「ミラクリン? なにかしら?」

「あっ。ごめん。こっちの話ね」

 試食で思い出した。これはミラクルフルーツ、ミラクリンの効果。甘さを感じる舌の部位を塞ぎ、酸に応答して味蕾を刺激する。苦味、酸味を変えて、甘みを感じさせる特殊な果実だ。再度鑑定する。

【シンセパルム。味の変化を生じる。生食可。[錬金材料;要魔素。マダガスタ島産]】

「これは使えるね! となるよ!」
「シャーロット。素晴らしいわ。ようやく一つ、レッド先生の合格を貰ったわ!」
 喜ぶ二人の横で、リンネが疑問を呈する。この素材を使用する問題点。リンネは流石に気づいたようだ。

「これ、いくらするのかしら?」
「えっ!? 値段?」
「私も知らない……」

 喜んでいるだけでは駄目だ。ここはすかさず楔を打ち込む。

「ちなみに産地は? 料理での使用法は? おそらく『マテリア・ハーバル』にも記載があるはずだよ? シャーロットさん、確認はしたかな? まさか人に聞いただけで裏付けをしていない、という事はないよね?」

「……」
「……」

「良いものを紹介してくれたのだから、今回は良しとしましょう。これは宿題です、二人とも。研究となると、素材をそのまま持ってきても意味がありません。何かしらの使う利点、理由、目的があるはずです。自領産の活用でもよいし、料理人から聞いた話を基に特性を調べることでもよい」

 自分は一息吐き、先生の顔から少し謙った口調へ変える。
「シャーロット様、ユリアーネ様。恐れながら、御助言申し上げます。シャーロット様は王女の御立場です。ユリアーネ様も侯爵令嬢の御立場。いろいろな御方が、あらゆる思惑をもって貴女方へ近づきます。右から左に流すだけでは、貴女の立場を利用して、その御方の思惑に乗ってしまう恐れがありましょう。入手したモノの価値、背景、渡してきた人の思惑――それぞれをよく考えなければいけません。貴女方の立場ならば、貴族と領地で採れる収穫物を必ず把握しておく必要があります。貴女方が香草学を学ぶのは、そのためでもあります。さらに珍しいモノならば、一段と警戒ください。おそらく今回は、王が近くにいたので料理長も張り切っただけでしょう。純粋にシャーロット様の役に立ちたくて、珍しい物を渡しただけだと推測いたします」

 正直なところ、このシンセパルムは貴重な食材と思われる。リンネも反応したくらいだ。栄養を取るための食材ではない。贅沢の果て、変わり種を求める貴族階級のための果実。素材としては確かに面白い。今回の研究課題の解決策となり得るか――現時点では結論が出せないから、候補として保留とした。この素材をそのまま使うには難しいが、この特性を捨て置くのも勿体ない。

 よく見るとこの果実、トリニタ豆と同じくマダガスタ島産だ。おそらく輸送費が相当かかる。直接果実として使うには、薬としてのコスパは非常に悪い。ただし、可能性はある。一つの案が頭をよぎった。こちらには魔素があり、この材料は錬金材料の判定。同じマダガスタ島産で用いたあの手法と、アレを組み合わせれば化けるかもしれない。加工で性質が変わるのなら、それは楽しみでもある。

 喜び、そのまま急降下した王女だったが、自分の言葉で持ち直したようだ。

「調べてみます! レッド先生。この前のように展開すればよいのかしら? この植物の特徴をつかんでみたいです」

「その手法で良いと思う。まずはよく調べてください。時間をかけても良いのです。ユリアーネさんは、ゲラーレとして使う藻類を調べましょう。加えて、アカシアを二人の共通課題として追加します。深く調査して、薬に使えるか考えてください」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...