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3D-道筋と察知
3D-07 シンセパルムの甘い罠
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午後。
ピレトラムの抽出については、彼らに任せることになった。生徒による研究の案件だから、少しずつ進めていくだろう。やがて学生の二人が入室してきた。
「レッド先生。『マテリア・ハーバル』はいろんな方が見ているのですね! 王都の料理人も参考にしているとは知りませんでした!」
「基礎的な研究は、地道で孤独な道です。この教室の『マテリア・ハーバル』の編纂だったり、ムカージ先生のような仕事はその類です。派手さはありませんが、脈々と行うことに意義が有るのですよ。自分の研究が他の人の研究、仕事に役立つ――それも基幹となる部分で。立派な研究です」
「料理の素材について、料理人と話が出来ましたわ。父様も居たので、いろいろ教えてもらいました」
シャーロットさんは王様と王宮の料理人に聞いたのか。まったく、すごいところへ踏み込む。話を聞いただけでも、こちらが恐縮しそうだ。
「私もやはり料理人に聞いたわ。料理人の間でも『マテリア・ハーバル』は定本として支持されているようね」
「アカシアと藻類が使えると提案されたわ」
「私もその二つね。アカシアは苦味を感じにくくする。藻類は綺麗にしてゲラーレに使うもの。聞いて初めてゲラーレの素材を知ったわ」
「料理長のジェレミからはもう一つ提案されたの。料理に使うには、扱いが難しいと言われたけど……先生なら、おそらく使い道を思いつくって」
シャーロットさんはアイテムボックスから、籠に入った果実を取り出した。
「赤い果実。シンセパルムだわ。珍しいわね。久々に見たわ」
自分はリンネと共に鑑定を試みる。
【シンセパルム。味の変化を生じる。生食可】
ユリアーネさんの言う通り、確かにシンセパルムだ。珍しくスキルによる追記がない。これは体験が必要なものだろう。
「先生。ジェレミから貰った紙に使い方が書いてあるわ。この果実を食べた後に、苦いものを食べると甘く感じるって」
「一つ食べてみようかな」
「中の種を除き、果肉を食べなさいと書いてあるわ。その後の味を変化させるようです」
種を除き、果肉を食べる。特段甘さもない果実――はて、この感覚。どこかで体験したようだ。
「次に、苦味があるものを食べてみなさい、と書いてあります」
「では、ここはもちろんキンコンを舐めてみよう」
キンコン抽出液を口に含む。……ほう! 確かに苦味は減る。それも格段に。そうだ、これは意識の外に追いやっていた。ここまで来れば、もう分かる。
「『ミラクリン?』だ! シンセパルムは『ミラクルフルーツ?』のことか!」
「ミラクリン? なにかしら?」
「あっ。ごめん。こっちの話ね」
試食で思い出した。これはミラクルフルーツ、ミラクリンの効果。甘さを感じる舌の部位を塞ぎ、酸に応答して味蕾を刺激する。苦味、酸味を変えて、甘みを感じさせる特殊な果実だ。再度鑑定する。
【シンセパルム。味の変化を生じる。生食可。[錬金材料;要魔素。マダガスタ島産]】
「これは使えるね! 候補となるよ!」
「シャーロット。素晴らしいわ。ようやく一つ、レッド先生の合格を貰ったわ!」
喜ぶ二人の横で、リンネが疑問を呈する。この素材を使用する問題点。リンネは流石に気づいたようだ。
「これ、いくらするのかしら?」
「えっ!? 値段?」
「私も知らない……」
喜んでいるだけでは駄目だ。ここはすかさず楔を打ち込む。
「ちなみに産地は? 料理での使用法は? おそらく『マテリア・ハーバル』にも記載があるはずだよ? シャーロットさん、確認はしたかな? まさか人に聞いただけで裏付けをしていない、という事はないよね?」
「……」
「……」
「良いものを紹介してくれたのだから、今回は良しとしましょう。これは宿題です、二人とも。研究となると、素材をそのまま持ってきても意味がありません。何かしらの使う利点、理由、目的があるはずです。自領産の活用でもよいし、料理人から聞いた話を基に特性を調べることでもよい」
自分は一息吐き、先生の顔から少し謙った口調へ変える。
「シャーロット様、ユリアーネ様。恐れながら、御助言申し上げます。シャーロット様は王女の御立場です。ユリアーネ様も侯爵令嬢の御立場。いろいろな御方が、あらゆる思惑をもって貴女方へ近づきます。右から左に流すだけでは、貴女の立場を利用して、その御方の思惑に乗ってしまう恐れがありましょう。入手したモノの価値、背景、渡してきた人の思惑――それぞれをよく考えなければいけません。貴女方の立場ならば、貴族と領地で採れる収穫物を必ず把握しておく必要があります。貴女方が香草学を学ぶのは、そのためでもあります。さらに珍しいモノならば、一段と警戒ください。おそらく今回は、王が近くにいたので料理長も張り切っただけでしょう。純粋にシャーロット様の役に立ちたくて、珍しい物を渡しただけだと推測いたします」
正直なところ、このシンセパルムは貴重な食材と思われる。リンネも反応したくらいだ。栄養を取るための食材ではない。贅沢の果て、変わり種を求める貴族階級のための果実。素材としては確かに面白い。今回の研究課題の解決策となり得るか――現時点では結論が出せないから、候補として保留とした。この素材をそのまま使うには難しいが、この特性を捨て置くのも勿体ない。
よく見るとこの果実、トリニタ豆と同じくマダガスタ島産だ。おそらく輸送費が相当かかる。直接果実として使うには、薬としてのコスパは非常に悪い。ただし、可能性はある。一つの案が頭をよぎった。こちらには魔素があり、この材料は錬金材料の判定。同じマダガスタ島産で用いたあの手法と、アレを組み合わせれば化けるかもしれない。加工で性質が変わるのなら、それは楽しみでもある。
喜び、そのまま急降下した王女だったが、自分の言葉で持ち直したようだ。
「調べてみます! レッド先生。この前のように展開すればよいのかしら? この植物の特徴をつかんでみたいです」
「その手法で良いと思う。まずはよく調べてください。時間をかけても良いのです。ユリアーネさんは、ゲラーレとして使う藻類を調べましょう。加えて、アカシアを二人の共通課題として追加します。深く調査して、薬に使えるか考えてください」
ピレトラムの抽出については、彼らに任せることになった。生徒による研究の案件だから、少しずつ進めていくだろう。やがて学生の二人が入室してきた。
「レッド先生。『マテリア・ハーバル』はいろんな方が見ているのですね! 王都の料理人も参考にしているとは知りませんでした!」
「基礎的な研究は、地道で孤独な道です。この教室の『マテリア・ハーバル』の編纂だったり、ムカージ先生のような仕事はその類です。派手さはありませんが、脈々と行うことに意義が有るのですよ。自分の研究が他の人の研究、仕事に役立つ――それも基幹となる部分で。立派な研究です」
「料理の素材について、料理人と話が出来ましたわ。父様も居たので、いろいろ教えてもらいました」
シャーロットさんは王様と王宮の料理人に聞いたのか。まったく、すごいところへ踏み込む。話を聞いただけでも、こちらが恐縮しそうだ。
「私もやはり料理人に聞いたわ。料理人の間でも『マテリア・ハーバル』は定本として支持されているようね」
「アカシアと藻類が使えると提案されたわ」
「私もその二つね。アカシアは苦味を感じにくくする。藻類は綺麗にしてゲラーレに使うもの。聞いて初めてゲラーレの素材を知ったわ」
「料理長のジェレミからはもう一つ提案されたの。料理に使うには、扱いが難しいと言われたけど……先生なら、おそらく使い道を思いつくって」
シャーロットさんはアイテムボックスから、籠に入った果実を取り出した。
「赤い果実。シンセパルムだわ。珍しいわね。久々に見たわ」
自分はリンネと共に鑑定を試みる。
【シンセパルム。味の変化を生じる。生食可】
ユリアーネさんの言う通り、確かにシンセパルムだ。珍しくスキルによる追記がない。これは体験が必要なものだろう。
「先生。ジェレミから貰った紙に使い方が書いてあるわ。この果実を食べた後に、苦いものを食べると甘く感じるって」
「一つ食べてみようかな」
「中の種を除き、果肉を食べなさいと書いてあるわ。その後の味を変化させるようです」
種を除き、果肉を食べる。特段甘さもない果実――はて、この感覚。どこかで体験したようだ。
「次に、苦味があるものを食べてみなさい、と書いてあります」
「では、ここはもちろんキンコンを舐めてみよう」
キンコン抽出液を口に含む。……ほう! 確かに苦味は減る。それも格段に。そうだ、これは意識の外に追いやっていた。ここまで来れば、もう分かる。
「『ミラクリン?』だ! シンセパルムは『ミラクルフルーツ?』のことか!」
「ミラクリン? なにかしら?」
「あっ。ごめん。こっちの話ね」
試食で思い出した。これはミラクルフルーツ、ミラクリンの効果。甘さを感じる舌の部位を塞ぎ、酸に応答して味蕾を刺激する。苦味、酸味を変えて、甘みを感じさせる特殊な果実だ。再度鑑定する。
【シンセパルム。味の変化を生じる。生食可。[錬金材料;要魔素。マダガスタ島産]】
「これは使えるね! 候補となるよ!」
「シャーロット。素晴らしいわ。ようやく一つ、レッド先生の合格を貰ったわ!」
喜ぶ二人の横で、リンネが疑問を呈する。この素材を使用する問題点。リンネは流石に気づいたようだ。
「これ、いくらするのかしら?」
「えっ!? 値段?」
「私も知らない……」
喜んでいるだけでは駄目だ。ここはすかさず楔を打ち込む。
「ちなみに産地は? 料理での使用法は? おそらく『マテリア・ハーバル』にも記載があるはずだよ? シャーロットさん、確認はしたかな? まさか人に聞いただけで裏付けをしていない、という事はないよね?」
「……」
「……」
「良いものを紹介してくれたのだから、今回は良しとしましょう。これは宿題です、二人とも。研究となると、素材をそのまま持ってきても意味がありません。何かしらの使う利点、理由、目的があるはずです。自領産の活用でもよいし、料理人から聞いた話を基に特性を調べることでもよい」
自分は一息吐き、先生の顔から少し謙った口調へ変える。
「シャーロット様、ユリアーネ様。恐れながら、御助言申し上げます。シャーロット様は王女の御立場です。ユリアーネ様も侯爵令嬢の御立場。いろいろな御方が、あらゆる思惑をもって貴女方へ近づきます。右から左に流すだけでは、貴女の立場を利用して、その御方の思惑に乗ってしまう恐れがありましょう。入手したモノの価値、背景、渡してきた人の思惑――それぞれをよく考えなければいけません。貴女方の立場ならば、貴族と領地で採れる収穫物を必ず把握しておく必要があります。貴女方が香草学を学ぶのは、そのためでもあります。さらに珍しいモノならば、一段と警戒ください。おそらく今回は、王が近くにいたので料理長も張り切っただけでしょう。純粋にシャーロット様の役に立ちたくて、珍しい物を渡しただけだと推測いたします」
正直なところ、このシンセパルムは貴重な食材と思われる。リンネも反応したくらいだ。栄養を取るための食材ではない。贅沢の果て、変わり種を求める貴族階級のための果実。素材としては確かに面白い。今回の研究課題の解決策となり得るか――現時点では結論が出せないから、候補として保留とした。この素材をそのまま使うには難しいが、この特性を捨て置くのも勿体ない。
よく見るとこの果実、トリニタ豆と同じくマダガスタ島産だ。おそらく輸送費が相当かかる。直接果実として使うには、薬としてのコスパは非常に悪い。ただし、可能性はある。一つの案が頭をよぎった。こちらには魔素があり、この材料は錬金材料の判定。同じマダガスタ島産で用いたあの手法と、アレを組み合わせれば化けるかもしれない。加工で性質が変わるのなら、それは楽しみでもある。
喜び、そのまま急降下した王女だったが、自分の言葉で持ち直したようだ。
「調べてみます! レッド先生。この前のように展開すればよいのかしら? この植物の特徴をつかんでみたいです」
「その手法で良いと思う。まずはよく調べてください。時間をかけても良いのです。ユリアーネさんは、ゲラーレとして使う藻類を調べましょう。加えて、アカシアを二人の共通課題として追加します。深く調査して、薬に使えるか考えてください」
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