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3D-道筋と察知
3D-09 灰酸を越えた道
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自分はキンコンの抽出を始めるため、一リットルのフラスコを用いてガラス器具を組み立てた。その上に冷却器具を据え、三人の前で説明を始める。リンネにはドラフトチャンバの維持を任せた。彼女にとっては経験値となるからだ。さらに補助のため、もう一つの出入り口を展開してもらう。少し苦戦していたが、やり遂げた。自分はリンネの対面に移動し、彼女を補助しつつ生徒たちへ解説を行う。
「蒸留法とは、水を加熱して蒸気を生じさせ、それを冷却して凝結させる技術だ。この現象を利用して物を得るのが蒸留。実習ではなぜか扱われないが、目的は水そのものや香りを得るための精油抽出にある。ベイノイ領ではローサやアントス、デンタータの精油が特産品となっているだろう?」
「精油は蒸留で作られていたのね。初めて知ったわ」
「授業でも習わなかったわ」
やはり。実習だけでなく授業でも触れられない。錬金術の基幹を成す手技のひとつであるのに。ムカージ教授の教室では行っていたから、配属後に習得するものなのだろう。それとも別の力が働いているのか?
「だが今回は蒸留を使わない。似ているが別の手技――【還流】を用いる。目的は異なるが装置は共通です。蒸留は蒸気を積極的に回収するが、還流は冷却した蒸気を再び反応液へ戻す。冷却器具を斜めに置くか縦に置くかの違いもあります。還流は液量を減らさず長時間反応を続けるための方法ですね。今回はキンコンから要素を抽出するにあたり、液量を変えずに進めたい。そのための還流法を採用します」
「なぜ蒸留では駄目なのですか?」
「蒸留は水と混じりやすいものや、沸点が近いものに適している。酒精や精油などだ。だが今回のキンコンの要素には適さない」
「適さない理由……判断の基準が分かりません」
「実験を重ねるか、錬金スキルを磨くしかない。自分の場合は要素の特性がスキルによって見える。『製薬』スキルの恩恵としか言えない」
今回の硫酸キンコンの物性は、スキルによって既に明らかとなっていた。スキルから得られる知識は、自分にとって生命線でもある。だがそれを全て開示するのは難しい。今日の実習ではそこまで踏み込む必要もない。少し答えに窮していると、リンネが助け舟を出してくれた。
「シャーロットさん。レッドの『製薬』スキルはレア。我々の『錬金』スキルの上位に位置するものと考えてください」
「スキルで分かるものなら、理由は分かりませんね」
「……三人とも。まずは復習だ。伝承を再度確認しよう」
##叙情詩 後半の詩(抜粋)###
無垢なる途、欲すれば 灰に接し、酸に接し、狭きを通じ
#####
「この意味を分かりやすく訳すと、『無垢なる途』はキンコンからの要素抽出を指す。『灰に接し』はソジウム液でアルカリに晒して抽出すること。『酸に接し』は酸性に傾けて反応させること。『狭きを通じ』は一定のところに、液性を一定の範囲に調整することと解釈できる。……分からない? まあ、実験しながら理解すればいい。まずは最初の操作から行おう」
入手した段階では茶色い木片のキンコン。それをミキサで微粉砕し、フラスコに入れる。ソジウム液を注ぎ、沸騰しない程度に加熱して反応を進める。二人は必死にメモを取っていた。
「ここではソジウム液を加えて木片中の要素を追い出す。常に加熱と冷却を維持する」
隣ではユリアーネさんが記録を取っている。中々よくまとまったノートになっていた。
######
主題:キンコン抽出_工程a-1)アルカリ化:灰に接し(灰はアルカリを指す)
目的:キンコンをソジウム液でアルカリに晒し、要素を抽出する。
準備する物:フラスコ。還流器具。加熱魔導具。ミキサ(粉砕器具)。
材料:キンコン。ソジウム液
操作:
a)キンコン樹皮
↓ミキサで粉砕し、フラスコに入れる。
↓ソジウム液を入れる。
↓沸騰しない程度で1時間加熱。
結果:少し白く呈色した茶色い溶液。このままa-2)へ
######
一時間後、溶液は白濁した茶色となった。木片を濾紙を敷いた漏斗で濾す。温度を下げずに行う必要がある。
「リンネ、火傷に注意して。加熱維持は必須だ。ボア革の手袋を使い、慎重に。漏斗と濾紙の加熱は自分が魔法で補助する」
「確かに熱そうね。すべて濾す必要はあるの?」
「今回はフラスコ内に残して構わない。無理に掻き出す必要はない」
#####
主題:キンコン抽出_工程a-2)ろ過
目的:木粉の除去
準備する物:漏斗。濾紙。フラスコ。加熱魔導具。
材料:a-1の続き。
操作:素早く濾す。すべて魔法で加温。受けフラスコも予熱しておく。
暖めた環境でろ過。
↓_____________
↓ ↓
水相① 沈殿 ②
(薄茶色)
結果:①薄茶色の液体。②は沈殿物(不要)。①をb)へ
######
「伝承に従い、酸性へ傾ける。液の温度維持は続ける。次は工程b。ここではムカージ先生の提供品を使う。リンネ、ヴィトリオールは既に加温してある。九十度を保ちながら酸を投入してくれ」
「わかったわ」
######
主題:キンコン抽出_工程b)酸化:酸に接し
目的:抽出液をヴィトリオールで酸性に傾け、反応させる。
準備する物:ロッセラ指示紙(レッド先生作成)。ヴィトリオール
材料:a-2の続き。①を使用。
操作:酸投入量を記録。酸も加温。
b)水相①
↓ヴィトリオール 投入量を確認しつつ加える
↓90℃ ロッセラ指示紙で確認し、赤色でさらに加熱還流。酸を追加投入
結果:液色は薄黄色を呈す。
######
リンネは、加温したヴィトリオールを慎重に注ぎ込んでいった。ソジウム液と等価の量を加え、ロッセラ指示紙で確認する。だが、まだ青色のまま。さらに酸を加え、酸度を高める。投入量の記録は欠かせない。やがて指示紙が赤色に変わり、さらにヴィトリオールを追加。還流を続けながら反応を見守り、温度を維持し続けた。
「蒸留法とは、水を加熱して蒸気を生じさせ、それを冷却して凝結させる技術だ。この現象を利用して物を得るのが蒸留。実習ではなぜか扱われないが、目的は水そのものや香りを得るための精油抽出にある。ベイノイ領ではローサやアントス、デンタータの精油が特産品となっているだろう?」
「精油は蒸留で作られていたのね。初めて知ったわ」
「授業でも習わなかったわ」
やはり。実習だけでなく授業でも触れられない。錬金術の基幹を成す手技のひとつであるのに。ムカージ教授の教室では行っていたから、配属後に習得するものなのだろう。それとも別の力が働いているのか?
「だが今回は蒸留を使わない。似ているが別の手技――【還流】を用いる。目的は異なるが装置は共通です。蒸留は蒸気を積極的に回収するが、還流は冷却した蒸気を再び反応液へ戻す。冷却器具を斜めに置くか縦に置くかの違いもあります。還流は液量を減らさず長時間反応を続けるための方法ですね。今回はキンコンから要素を抽出するにあたり、液量を変えずに進めたい。そのための還流法を採用します」
「なぜ蒸留では駄目なのですか?」
「蒸留は水と混じりやすいものや、沸点が近いものに適している。酒精や精油などだ。だが今回のキンコンの要素には適さない」
「適さない理由……判断の基準が分かりません」
「実験を重ねるか、錬金スキルを磨くしかない。自分の場合は要素の特性がスキルによって見える。『製薬』スキルの恩恵としか言えない」
今回の硫酸キンコンの物性は、スキルによって既に明らかとなっていた。スキルから得られる知識は、自分にとって生命線でもある。だがそれを全て開示するのは難しい。今日の実習ではそこまで踏み込む必要もない。少し答えに窮していると、リンネが助け舟を出してくれた。
「シャーロットさん。レッドの『製薬』スキルはレア。我々の『錬金』スキルの上位に位置するものと考えてください」
「スキルで分かるものなら、理由は分かりませんね」
「……三人とも。まずは復習だ。伝承を再度確認しよう」
##叙情詩 後半の詩(抜粋)###
無垢なる途、欲すれば 灰に接し、酸に接し、狭きを通じ
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「この意味を分かりやすく訳すと、『無垢なる途』はキンコンからの要素抽出を指す。『灰に接し』はソジウム液でアルカリに晒して抽出すること。『酸に接し』は酸性に傾けて反応させること。『狭きを通じ』は一定のところに、液性を一定の範囲に調整することと解釈できる。……分からない? まあ、実験しながら理解すればいい。まずは最初の操作から行おう」
入手した段階では茶色い木片のキンコン。それをミキサで微粉砕し、フラスコに入れる。ソジウム液を注ぎ、沸騰しない程度に加熱して反応を進める。二人は必死にメモを取っていた。
「ここではソジウム液を加えて木片中の要素を追い出す。常に加熱と冷却を維持する」
隣ではユリアーネさんが記録を取っている。中々よくまとまったノートになっていた。
######
主題:キンコン抽出_工程a-1)アルカリ化:灰に接し(灰はアルカリを指す)
目的:キンコンをソジウム液でアルカリに晒し、要素を抽出する。
準備する物:フラスコ。還流器具。加熱魔導具。ミキサ(粉砕器具)。
材料:キンコン。ソジウム液
操作:
a)キンコン樹皮
↓ミキサで粉砕し、フラスコに入れる。
↓ソジウム液を入れる。
↓沸騰しない程度で1時間加熱。
結果:少し白く呈色した茶色い溶液。このままa-2)へ
######
一時間後、溶液は白濁した茶色となった。木片を濾紙を敷いた漏斗で濾す。温度を下げずに行う必要がある。
「リンネ、火傷に注意して。加熱維持は必須だ。ボア革の手袋を使い、慎重に。漏斗と濾紙の加熱は自分が魔法で補助する」
「確かに熱そうね。すべて濾す必要はあるの?」
「今回はフラスコ内に残して構わない。無理に掻き出す必要はない」
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主題:キンコン抽出_工程a-2)ろ過
目的:木粉の除去
準備する物:漏斗。濾紙。フラスコ。加熱魔導具。
材料:a-1の続き。
操作:素早く濾す。すべて魔法で加温。受けフラスコも予熱しておく。
暖めた環境でろ過。
↓_____________
↓ ↓
水相① 沈殿 ②
(薄茶色)
結果:①薄茶色の液体。②は沈殿物(不要)。①をb)へ
######
「伝承に従い、酸性へ傾ける。液の温度維持は続ける。次は工程b。ここではムカージ先生の提供品を使う。リンネ、ヴィトリオールは既に加温してある。九十度を保ちながら酸を投入してくれ」
「わかったわ」
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主題:キンコン抽出_工程b)酸化:酸に接し
目的:抽出液をヴィトリオールで酸性に傾け、反応させる。
準備する物:ロッセラ指示紙(レッド先生作成)。ヴィトリオール
材料:a-2の続き。①を使用。
操作:酸投入量を記録。酸も加温。
b)水相①
↓ヴィトリオール 投入量を確認しつつ加える
↓90℃ ロッセラ指示紙で確認し、赤色でさらに加熱還流。酸を追加投入
結果:液色は薄黄色を呈す。
######
リンネは、加温したヴィトリオールを慎重に注ぎ込んでいった。ソジウム液と等価の量を加え、ロッセラ指示紙で確認する。だが、まだ青色のまま。さらに酸を加え、酸度を高める。投入量の記録は欠かせない。やがて指示紙が赤色に変わり、さらにヴィトリオールを追加。還流を続けながら反応を見守り、温度を維持し続けた。
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