巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1C-試行と結果

1C-01 *爺の回顧録

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♢♢ 

 ワシはホーミィー村で魔導具店を営む、独り身の爺だ。
 錬金術師と魔導師の職業スキルを持っておるが、その他のスキルは年の功で身についたものばかり。
 主な商いは魔導具作りだが、正直、売れ行きは芳しくない。
 副業としてポーションを近くの商店に卸してはいるが、これは村との関わりを保つための口実にすぎぬ。
 冒険者時代の蓄えもあるし、生活に困ることはない。
 店を開いたのも、ボケ防止と気晴らしだ。
 

 この村での表の顔は魔導具職人。
 だが、裏の役割もある。
 魔の森から魔物が村へ侵入せぬよう、監視をしておるのだ。
 定期的に魔力を拡散し、感知を行う。
 森の中や村周辺には魔導具を設置し、異変があれば店に通報が入る仕組みだ。
 寝ている間に襲われるのはご免こうむるからな。

 この件を知っているのは村の上層部だけ。
 もちろん、ワシ一人で守っているわけではない。
 領主と鎮守の森の主との間には不可侵の契約がある。
 主が鎮守の森を監視し、ワシは魔の森側を担当する。
 村が今日も平和なのは、そうした網の目が機能しているからだ。
 

 ワシはこの村の農家の三男坊として生まれた。
 教会で初等教育を受けた後、農家を継げぬ身として冒険者の道へ。
 幸いにもアイテムボックスの容量が多く、城郭都市ベンベルクで見習いを始めた。
 荷物持ちとして重宝され、魔力量の多さも手伝って、魔術師の先輩方から魔法を教わった。
 教える者ごとに理論が違い、混乱もしたが、少しずつ身に付けていった。
 

 見習いを卒業し、正式な冒険者として働き始めたのは20代半ば。
 名も知られるようになり、自由気ままな単独行動を好んだ。
 パーティーやクランの勧誘が増え、煩わしくなって他領へ移った。
 独り身は気楽だ。
 国の内外を旅しながら、自由に生きていた。
 

 40を過ぎた頃、里心が芽生えた。
 故郷の様子が気になり、残していた課題も思い出した。
 王都滞在中、ギルドから辺境への護衛任務を斡旋された。
 希望通りのベンベルク行き。
 護衛対象はパール家の貴族だった。

 夜営中、貴族付きの魔導師ダミアンと話す機会があり、故郷への思いや魔術の伸び悩みを漏らした。
 それが貴族に伝わったのだろう。
 後日、パール家から学院への推薦を受けた。
 費用はパール家持ち、特別枠での入学。
 講義は免除、研究生として成果を出すことが条件だった。
 

 学院では、魔術の理解が浅かったことを痛感した。
 自然法則、物理、構造――
 系統立てた学問が、魔術の伸びに直結していたのだ。

 貴族の子供たちの魔力量や制御方法も参考になった。
 良い刺激を受け、パール家への感謝の念が芽生えた。
 

 研究テーマは魔導具の解析。
 技術は百年前に途絶えており、文献も乏しかった。
 王都の学院には情報が集まりやすく、パール家の協力も得て、
 壊れた魔導具や資料を収集した。

 十年かけて研究を続け、魔導具に使われる文字体系が四種類あることを突き止めた。
 意味を持つ文字と、読みだけの文字。
 それらを辞典にまとめ、作成方法と共に書籍化。
 実物の魔導具も制作し、学会で発表した。


 この成果は、魔術界に衝撃を与えた。
 王国からは一代男爵として叙爵され、アウレオールの姓を賜った。
 パール家からは相談役としての地位と褒章を受けた。
 学院には予算が下り、魔導具開発の組織が生まれ、産業が動き始めた。
 ワシは第一人者として数々の作品を生み出した。

 パール家も発明の配当金で潤い、貴族としての影響力を増した。
 王族への覚えも良く、城郭都市は栄えた。
 ワシの実績も、さらに積み重なった。


 だが、二~三年前から心が変わり始めた。
 さらなる重要ポストへの打診が来た頃だ。
 階級に縛られるのが怖かった。
 自由に研究したい。
 冒険者時代も学院時代も、自由だった。
 今はどうだ?
 あらゆることに追われる生活だ。

 村でやり残していたことも思い出した。
 知識の伝達、事業の引き継ぎを済ませ、学院を辞め、相談役も弟子に譲った。
 ホーミィー村に戻ったのだ。

 パール家は、ワシが変わり者だと理解していたのか、あっさり手を引いた。
 城郭都市近辺にいるなら、連絡は取れる――
 そう納得してくれたようだ。
 

 今は、自由と暇はあるが、刺激が少ない。
 魔導具開発の配当金は、黙っていても商人ギルドの口座に振り込まれる。
 研究も少しずつ進んでいる。
 独り身の生活を謳歌していた。

 そんな中、面白い人物と再会した。
 レッド少年だ。
 城郭都市へ丁稚に出た後、行方不明になり、一ヶ月。
 死んだか、拉致されたかと思っていた。
 最近になって村長宅に生存の連絡が入り、陰気臭いサルタンが息を吹き返した。
 

 再会した少年は、風貌が一変していた。
 死線をくぐった者特有の貫禄。
 魔力の系統も、魔力量も、以前とはまるで違う。
 冒険者でもない商人の息子に起きる変化ではない。

 話してみると、確かにレッド少年だった。
 話し方も変わっていた。
 サルタンも同じ印象を持ったという。
 拉致の出来事が、少年の心に深い衝撃を与えたのだ。
 

 サルタンは、帰宅当日にワシに魔法の教授を依頼してきた。
 跡取りの自衛能力の無さは、商店の存亡に関わる。
 本人も不安を抱えていたらしい。

 以前から教授を頼まれていたが、ワシの気分が乗らず断っていた。
 少し罪悪感もあった。
 今回は、本人のやる気があれば許可すると返答した。


 再会した後の小僧は明らかに魔力量が増えている。
 系統も変わっているように思えるので、面白い素材だ。

 以前から出入りしている小僧なら相手にはちょうど良い。

 一通り使えるまで教えてやろう。
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