巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1C-試行と結果

1C-02 陶器の余波

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 土魔法の制御にもようやく慣れた頃、父から報告があった。
 城郭都市の冒険者ギルドに依頼していた拉致事件の捜査が、ついに決着したという。

「冒険者数名が洞窟を見つけ、野盗の討伐を達成した。レッド、安心してくれ。野盗は三人組で全員死亡だ。所持品から身元が判明した。ウオルク領の元冒険者だった」

 生死問わずの依頼だったため、手加減はなかったらしい。
 洞窟は鎮守の森の結界ギリギリにあり、街道から入り組んだ場所。
 生活の痕跡はあったが、滞在理由が不明瞭。
 冒険者が質問を投げかけたところで、問答無用で切りかかってきたという。

「ひとまず安心しました」
 そう口にしながらも、内心では「雑な仕事だな」と思った。
 拘束して聴取すればよかったのではないか。

「ああ。他領の住民となると、パール家も本人以外には手出しができん。貴族の拉致案件ではないからな。抗議止まりだ。ウオルク領の領主とは仲が悪い。商人の身元も判明したが、こちらもウオルク領所属だった」

 他領絡みのため、うやむやになりそうだと父は悔しそうに言った。

「すっきりしないですね」

「そうだな。ご領主も同じらしい。ウオルク領へ抗議し、対策を依頼された。領都では兵士を動員し、徹底的な捜査が行われた。ギルドに所属していない商人が数人検挙されたが、事件との関連性は不明。違法な取引が確認されたのみで、核心には届かなかった」

 パール家には、元相談役のパラケル爺さんの言づけもあり、祖父である商人ギルド長の上申も通った。
 祖父は都市の執行役の一人で、領主への意見が通りやすいという。
 その二人の要請もあり、パール家が動いてくれた。

「捜査は終了でしょうか?」

「御領主は拉致事件の終了宣言を出された。被疑者は死亡、他領の商人も死亡。
 幕引きとしては十分と判断されたようだ。村での行動制限も解禁となるだろう。これで森にも、城郭都市にも行けるな」

「はい。ようやく買い付けの再開ができます」

「パラケル爺との契約があるだろう? 納得いくまで魔力制御の教授は続けておけ。護身にもなるしな」

 午前と午後の店番は変わらず継続。
 魔法の習得は、今後生きるために必要不可欠だ。
 

 午後、魔導具店へ向かう。
 いつものように客のいない店内を抜け、裏の作業所へ。
 そこには、準備万端の製造容器が並び、パラケル爺さんがこちらを向いていた。

「家業は終わったか? 拉致事件は収束となったようだな」

「はい。後味は悪いですが」
「容疑者は全員死亡だからな。生きて返せばよいものを…」

「貴族の決定は庶民には覆せませんから。この幕引きでも、十分に安心できます」
「お前が納得できるならそれでよい。他領絡みの厄介事は、パール家も放置はせんだろう。貴族案件は貴族に任せておけ。よし、昨日までで基礎訓練は終了。今日からはポーション作りを始めるぞ」



 魔力制御を習い始めてから一ヶ月。
 水・風・土・火の四属性を習得し、ようやくポーション作りに入る。
 これからが正念場。
 この世界の【薬師】としての出発点に、ようやく立てた。

「一ヶ月で魔力制御と四属性魔法を物にするとは思わなかったがな」

「おかげさまで集中できましたから」
 喜怒哀楽の少ない爺さんも、習得速度には驚いていたようだった。
 通常は魔力制御に半年、属性魔法に半年。
 早くても一ヶ月、遅ければ一年以上かかる。
 一ヶ月で両方を覚えるのは、常軌を逸しているらしい。

 レッド君の肉体は未熟でも、精神は年数を経ている。
 学ぶことが習慣化しており、生活が懸かっている。
 吸収速度が早いのは、当然のことだった。

「随分この一ヶ月はきつかったです。なんとか覚えた程度ですよ」
「何をいう。自主練習をサルタンから聞いているぞ。庭の土をこねくり回して、売り物になる陶器を作っていたと。立体地図も村長宅に飾られるそうだ。お前の両親は今が商戦だ!とばかりに方々に連絡を取っているからな」

 両親は嬉々として商戦真っ最中。
 魔力操作の題材として、陶器づくりはちょうどいい。
 ものづくりは楽しい。
 何より材料は無料。土は無限にある。
 訓練成果が形になるのは、素晴らしいことだ。

 釉薬や本焼きの焼成温度の研究も進めば、焼成窯の導入も必要になるかもしれない。
 魔力枯渇の回復と魔力操作の訓練にも、役立つだろう。

「ポーションを作る前に陶器を作るとは、ワシも想定外だ。だが、うまく回れば領内の産業になるぞ。覚悟しておけ」


 魔術修練の成果が、薬師としての出発に繋がり、思わぬ副産物が村の産業の芽となる。
 家族の商魂、村の期待、そして自分の成長――
 すべてが交差する、物語の新たな章が始まろうとしていた。
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