巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1C-試行と結果

1C-03 器とポーション--

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焼き物談義は、思いのほか盛り上がった。
この王国で流通しているのは「陶器」で間違いないらしい。
狙い目は、毛色の違う紋様。
「粘土がどうだ」「どこで取れる」「絵付けはどこのものが良い」――
話は尽きない。

近隣では、城郭都市の西側にある村で、きめ細かい粘土質の石が採れる。
ただし、加工には手間がかかるため、採掘は進んでいない。
需要は見込まれるが、技術が足りないのだ。
父サルタンは、すでに商人の親戚を巻き込み、情報収集と材料確保に奔走しているらしい。
さすが商人。行動が早い。


陶器の話はひとまず終わり、いよいよポーション作りへ。

「工程は教本で知っての通りだ。薬草を刻み、水へ浸漬する。加熱して煮出し、布で濾す。最後に瓶に入れる。魔力を使わないと品質が悪い。薬草に存在する魔素が移動しないからな。浸漬と加熱の工程では、最低限魔力を使う必要がある。薬草に自分の魔力を当てすぎると、汎用性がなくなり、売り物にはならん。ワシのやり方は、薬草から魔素を“弾いて”水に移す感覚だ。これは自分の感覚を研ぎ澄ませて、自分なりのやり方を見つけるしかない」


『治薬作成法』という教本は、パラケル爺さんから渡されていた。
学院で販売されている一般向けの本らしい。
時間のあるときに読んでみたが、内容はほぼ料理本だった。

薬草学の部分は、薬草の判別方法くらいしか載っていない。
後半は、料理初心者向けの絵本のような構成。
道具の種類、包丁の握り方、刻み方――
あっという間に読める内容だった。


教本通りに道具を用意し、まずは魔力を使わずに少量の試作を行う。
包丁で薬草を刻み、ビーカーに放り込む。
かまどの熱で水を沸騰させ、十分間煮る。
布で漉して冷まし、ポーション瓶に充填。

「教本通りに作ると、劣化品のポーションになる。飲み味は劣るが、効果は同じ。これが基本だ。冒険者ギルドに卸すときは、百ミリリットルの容器が規格となる」


次は、かまどの熱で加熱しながら、魔力操作を加える。
薬草から魔素を“弾く”ように分離させる。

「加熱しながら魔力操作することで、薬草からの魔素が段違いに抜けるのだ」

確かに、教本通りに作ると薬草に魔素が残っている印象がある。
魔力操作をしても、すべての魔素が抜けきれているわけではない。
だが、確実に抽出量は増えている。

「この魔力操作で作るのが、魔術師のポーション。【物質鑑定】によると“普及品”だ」


さらに、パラケル爺さんが実演する。
薬草を風魔法で細かく刻み、水魔法で処理した水に浸漬。
攪拌しながら加熱し、薬草と水を分離。
土魔法でガラスのポーション瓶を作成し、封印して完成。

「これが魔導師のパラケルが作るポーション。【物質鑑定】では“一級品”の判定だ」

無駄のない工程。
時間をかけすぎると魔素が拡散してしまう。
薬草の魔素が、無駄なく液体に移行しているのが確認できた。

なるほど――
汎用性を保つためには、自分の魔力を浸透させないこと。
そして、魔素を素早く抽出する必要がある。


「まずは“普及品”を目指せ。自分の魔力が入ると“劣化品”の判定になる。試作するときは、魔力を“目”に集める意識をしろ。魔素の動きがわかるようになれば、尚よい」


渡された『治薬作成法』は、一般人や学院の初期教育用。
緊急時に使えるよう、簡易な内容になっている。
学院で使用する魔術師用の教本は別にあり、
さらに個々の魔術師・魔導師による創意工夫が加えられている。
それらも出版されているが、感覚の差があるため、実用性はまちまちらしい。



これからしばらくは、薬草との格闘が続く。
魔力と魔素の流れを見極め、
自分だけの抽出技術を磨いていく日々が始まる。
薬師としての本格的な修行が、いま始まった。
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