巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1D-窯業と産業

1D-02 陶芸家と転写

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 父サルタンの話によれば、領主一族は以前から陶器を産業にしたいと考えていたらしい。そのために他領からスカウトしてきたのが陶芸家ジュアンだ。彼は一年ほど前から準備を進めており、領主お抱えの商人に預けられて窯業の研究をしていたという。

 ただし、ジュアンの専門は絵付けであり、陶器全般の知識はあっても実際の研究は魔力の少なさが足かせとなり、試行錯誤を繰り返すうちに行き詰まっていた。だが彼には確かな鑑識眼があり、最近は領主の陶器買い付けにもしばしば同行していたそうだ。

 今日は、そのジュアンと共に素焼きの皿を作ることになった。村営の焼成窯はジュアンの設計図を基に、父とパラケル爺さんの指揮で既に完成している。ホーミィー村には実験用の小さな窯と中型の窯があり、その近くには急ピッチで整えられた作業場もあった。ジュアンは持参した道具を仕分けしていた。

「ジュアンさん、おはようございます。この前の会議で同席したレッドです」
「レッド少年、おはよう。今日はよろしく頼むよ」

 ボサボサの髪を掻き分けながら挨拶するジュアン。会議の後、村長に交渉して村の空き家を借りて住んでいるらしい。母から聞いた話では、その家は持ち込んだ本で溢れているそうだ。

「ある程度下準備をしたものを持ってきました。陶石と魔物の骨を砕き、ホーミィー村の粘土を加えて水で練り上げたものです」
 そう言って、アイテムボックスから陶土を取り出し、ろくろにセットして皿の整形を始めた。

「普段はろくろを使わずに作業しています。魔力を使わない場合はこのように整形します。自分は魔力で工程を短縮していますが、混合の際は空気を抜くようご指導願います」
「なるほど。魔力が豊富なレッド少年ならではのやり方だね」

 ジュアンは原料をアイテムボックスにしまいながら答えた。
「十分に乾燥させた現物を百枚ほど持ってきました。これを焼成試験に使いましょう」
「あい、わかりました。炎の色はどのくらいに?」
「自分のイメージはこのくらいです。白に近い赤ですね」

 火魔法で約1300度の炎を出力して見せると、ジュアンは目を丸くした。
「おお、陶器の条件よりも高温だな」

「この後、絵付けと釉薬を塗布して本焼きに移ります。ちなみにポーション磁器瓶ではこの条件で焼きました」
 昨日の試作品――版画、転写紙、本焼き前の素地と焼成後の現物を見せ、転写インクの特性を説明する。

「ほうほう、これは参考になる。この割合で魔石を入れると、こんな鮮やかな青になるのか」
 ジュアンは驚いていた。魔石による色変化は珍しいらしい。

「今回の仕事は魔法陣を刻む必要がありました。手書きでは時間がかかるので、パラケル爺さんに木の版を作ってもらい、インクを紙に移して素地に転写しました。円筒形のポーション瓶に魔法陣を刻むには最適な方法だと思います」
「これは魔法陣だけでなく、複雑な文様を描くのにも使えるな。生産の際にはぜひ採用したい」

 ジュアンは文様転写に強い関心を示した。ここは彼に任せて研究を続けてもらうのが良いだろう。

「陶石、魔石の現物、それぞれの粉末、道具一式と報告書。すべて置いていきますので、後はよろしくお願いします」
 そう告げると、ジュアンはもう子供のように夢中で道具をいじっていた。こちらの話は耳に入っていないようだ。改めてお願いを伝え、作業場を後にした。

 ――脱線せず、きちんと成果を出してくれるだろうか。
 
 定期的に様子を見に行こう。
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