40 / 259
1D-窯業と産業
1D-02 陶芸家と転写
しおりを挟む
父サルタンの話によれば、領主一族は以前から陶器を産業にしたいと考えていたらしい。そのために他領からスカウトしてきたのが陶芸家ジュアンだ。彼は一年ほど前から準備を進めており、領主お抱えの商人に預けられて窯業の研究をしていたという。
ただし、ジュアンの専門は絵付けであり、陶器全般の知識はあっても実際の研究は魔力の少なさが足かせとなり、試行錯誤を繰り返すうちに行き詰まっていた。だが彼には確かな鑑識眼があり、最近は領主の陶器買い付けにもしばしば同行していたそうだ。
今日は、そのジュアンと共に素焼きの皿を作ることになった。村営の焼成窯はジュアンの設計図を基に、父とパラケル爺さんの指揮で既に完成している。ホーミィー村には実験用の小さな窯と中型の窯があり、その近くには急ピッチで整えられた作業場もあった。ジュアンは持参した道具を仕分けしていた。
「ジュアンさん、おはようございます。この前の会議で同席したレッドです」
「レッド少年、おはよう。今日はよろしく頼むよ」
ボサボサの髪を掻き分けながら挨拶するジュアン。会議の後、村長に交渉して村の空き家を借りて住んでいるらしい。母から聞いた話では、その家は持ち込んだ本で溢れているそうだ。
「ある程度下準備をしたものを持ってきました。陶石と魔物の骨を砕き、ホーミィー村の粘土を加えて水で練り上げたものです」
そう言って、アイテムボックスから陶土を取り出し、ろくろにセットして皿の整形を始めた。
「普段はろくろを使わずに作業しています。魔力を使わない場合はこのように整形します。自分は魔力で工程を短縮していますが、混合の際は空気を抜くようご指導願います」
「なるほど。魔力が豊富なレッド少年ならではのやり方だね」
ジュアンは原料をアイテムボックスにしまいながら答えた。
「十分に乾燥させた現物を百枚ほど持ってきました。これを焼成試験に使いましょう」
「あい、わかりました。炎の色はどのくらいに?」
「自分のイメージはこのくらいです。白に近い赤ですね」
火魔法で約1300度の炎を出力して見せると、ジュアンは目を丸くした。
「おお、陶器の条件よりも高温だな」
「この後、絵付けと釉薬を塗布して本焼きに移ります。ちなみにポーション磁器瓶ではこの条件で焼きました」
昨日の試作品――版画、転写紙、本焼き前の素地と焼成後の現物を見せ、転写インクの特性を説明する。
「ほうほう、これは参考になる。この割合で魔石を入れると、こんな鮮やかな青になるのか」
ジュアンは驚いていた。魔石による色変化は珍しいらしい。
「今回の仕事は魔法陣を刻む必要がありました。手書きでは時間がかかるので、パラケル爺さんに木の版を作ってもらい、インクを紙に移して素地に転写しました。円筒形のポーション瓶に魔法陣を刻むには最適な方法だと思います」
「これは魔法陣だけでなく、複雑な文様を描くのにも使えるな。生産の際にはぜひ採用したい」
ジュアンは文様転写に強い関心を示した。ここは彼に任せて研究を続けてもらうのが良いだろう。
「陶石、魔石の現物、それぞれの粉末、道具一式と報告書。すべて置いていきますので、後はよろしくお願いします」
そう告げると、ジュアンはもう子供のように夢中で道具をいじっていた。こちらの話は耳に入っていないようだ。改めてお願いを伝え、作業場を後にした。
――脱線せず、きちんと成果を出してくれるだろうか。
定期的に様子を見に行こう。
ただし、ジュアンの専門は絵付けであり、陶器全般の知識はあっても実際の研究は魔力の少なさが足かせとなり、試行錯誤を繰り返すうちに行き詰まっていた。だが彼には確かな鑑識眼があり、最近は領主の陶器買い付けにもしばしば同行していたそうだ。
今日は、そのジュアンと共に素焼きの皿を作ることになった。村営の焼成窯はジュアンの設計図を基に、父とパラケル爺さんの指揮で既に完成している。ホーミィー村には実験用の小さな窯と中型の窯があり、その近くには急ピッチで整えられた作業場もあった。ジュアンは持参した道具を仕分けしていた。
「ジュアンさん、おはようございます。この前の会議で同席したレッドです」
「レッド少年、おはよう。今日はよろしく頼むよ」
ボサボサの髪を掻き分けながら挨拶するジュアン。会議の後、村長に交渉して村の空き家を借りて住んでいるらしい。母から聞いた話では、その家は持ち込んだ本で溢れているそうだ。
「ある程度下準備をしたものを持ってきました。陶石と魔物の骨を砕き、ホーミィー村の粘土を加えて水で練り上げたものです」
そう言って、アイテムボックスから陶土を取り出し、ろくろにセットして皿の整形を始めた。
「普段はろくろを使わずに作業しています。魔力を使わない場合はこのように整形します。自分は魔力で工程を短縮していますが、混合の際は空気を抜くようご指導願います」
「なるほど。魔力が豊富なレッド少年ならではのやり方だね」
ジュアンは原料をアイテムボックスにしまいながら答えた。
「十分に乾燥させた現物を百枚ほど持ってきました。これを焼成試験に使いましょう」
「あい、わかりました。炎の色はどのくらいに?」
「自分のイメージはこのくらいです。白に近い赤ですね」
火魔法で約1300度の炎を出力して見せると、ジュアンは目を丸くした。
「おお、陶器の条件よりも高温だな」
「この後、絵付けと釉薬を塗布して本焼きに移ります。ちなみにポーション磁器瓶ではこの条件で焼きました」
昨日の試作品――版画、転写紙、本焼き前の素地と焼成後の現物を見せ、転写インクの特性を説明する。
「ほうほう、これは参考になる。この割合で魔石を入れると、こんな鮮やかな青になるのか」
ジュアンは驚いていた。魔石による色変化は珍しいらしい。
「今回の仕事は魔法陣を刻む必要がありました。手書きでは時間がかかるので、パラケル爺さんに木の版を作ってもらい、インクを紙に移して素地に転写しました。円筒形のポーション瓶に魔法陣を刻むには最適な方法だと思います」
「これは魔法陣だけでなく、複雑な文様を描くのにも使えるな。生産の際にはぜひ採用したい」
ジュアンは文様転写に強い関心を示した。ここは彼に任せて研究を続けてもらうのが良いだろう。
「陶石、魔石の現物、それぞれの粉末、道具一式と報告書。すべて置いていきますので、後はよろしくお願いします」
そう告げると、ジュアンはもう子供のように夢中で道具をいじっていた。こちらの話は耳に入っていないようだ。改めてお願いを伝え、作業場を後にした。
――脱線せず、きちんと成果を出してくれるだろうか。
定期的に様子を見に行こう。
283
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる