巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1D-窯業と産業

1D-08 魔力ポーションの秘密

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 買い取りが終わり、十分な薬草を確保できた。あとはピレネ村からの陶石の到着を待つだけだ。父が帰ってきたら、残りのポーション作りと皿の試作品に追われることになるだろう。その前に、余った時間を使ってポーションの改良を試みたい。

 候補は原っぱで採取した薬草の中でも群生が多く、再生力の強いメンタだ。地下茎を残せばすぐに増える印象がある。ミントといえばメントール。あの清涼感のある香りは、ポーション特有のえぐみを打ち消してくれるはずだ。矯味剤としての働きを期待できる。含量も多く、抽出も容易だろう。魔力を使えば化合物の抽出も可能だが――なぜ知っているのかと問われれば答えようがない。

 作業場所は爺さんの魔導具店。店番をしていれば作業場は自由に使ってよいと言われている。ビーカー、丸底フラスコ、冷却管、ロート……雑多に置かれた器具の数々。中には装置として組まれたままのものもある。魔導具製のヒーターもあった。水浴式で、温度調整も可能。さすがは爺さんだ。長時間の反応実験に使ったのだろう。既製品か自作かはわからない。応用の教本は渡されていないので、今度聞いてみよう。

 冷却管があるなら蒸留ができる。以前見たときから、熱水抽出以外の方法を考えていた。直線型の管――リービッヒ冷却管に似ている。こちらの呼び名は知らないが、いずれ螺旋型も試作してみたい。

 丸底フラスコに組まれていた還流装置を分解し、45度のガラス管を接続。そこに冷却管を下向きに這わせ、出口を三角フラスコに繋ぐ。水浴の魔導具も確認した。水を入れる浴槽に突起が二つあり、導管で繋げば循環する仕組みだ。魔石を置くと水が流れ出す。温度はスライダー式で、-20から200まで大雑把な目盛り。幅が広すぎるので改造が必要だが、20度付近で安定させることは可能だった。

 準備が整ったので、乾燥させておいたメンタを使う。
【*ホワイトメンタ。スッとした香り。メンタオイルが取れる。全草;乾燥状態】
 川の水を水魔法で浄化し、丸底フラスコに乾燥メンタと同量の水を入れる。ヒーターを100度付近に設定し、加熱を開始。今回は「熱水蒸留法」だ。蒸気を冷却管で冷やし、液体に戻す。気化と凝縮を利用して、揮発性の高い成分を分離する。メントールを得るには適しているはずだ。

 一時間後、200mLの水と乾燥メンタ一本分から、蒸留水5mLとオイル0.5mLを回収した。
【*メンタ劣化オイル。芳香のある油。不純物が多い】
【*メンタ劣化ウォータ。芳香蒸留水。清涼感はあるが苦味・えぐみ多い】

 清涼感はあるが、苦味とえぐみが強い。煮すぎるのは良くない。方法を改めることにした。

 急遽、装置を改良する。金属器をヒーターにかけ、底に蒸し器のような陶器を作って嵩を持たせる。蓋には突起をつけ、蒸気を逃がす。冷却管は銅板を加工して螺旋状にし、冷却効率を高めた。乾燥メンタ三株を刻んで布袋に入れ、蒸し器にセット。いわゆる「水蒸気蒸留法」だ。

 一時間加熱すると、作業場はメントールの香りで満たされた。蒸留水15mL、オイル1.5mLを回収。舐めてみると、清涼感が強く、苦味は抑えられている。さらに二時間続けると、後半は苦味が増した。最適は一時間程度だろう。

【*メンタオイル。芳香のある油。化粧水・香水・石鹸の香料】
【*メンタウォータ。芳香蒸留水。化粧水として使用可】

 続いてブラックメンタを試す。
【*ブラックメンタオイル。芳香のある油。魔素回復効果有】
【*ブラックメンタウォータ。芳香蒸留水。魔素回復効果有。補剤;ハイポーションの原料。主剤;魔力ポーションの原料】

 驚きの結果だった。熱水蒸留では劣化品しか得られなかったが、水蒸気蒸留では高品質のオイルとウォータが得られた。温和な加熱が功を奏したのだろう。しかもブラックメンタは魔素回復効果を持ち、ハイポーションや魔力ポーションの原料になると鑑定される。

 これまでポーションは完成品を瓶に入れてから【物質鑑定】していた。爺さんに教わった通りだ。だが今回は工程ごとに止め、液体そのものを鑑定した。アルテミ草の抽出液を作ったときは、液体そのものを鑑定していなかった。魔導師たちも一連の動作としてしか見ていないのだろう。

 ――アルテミ草の熱水抽出液はどうなる? 蒸留物は? 水蒸気蒸留なら?
 
 新たな疑問が次々に湧き上がる。
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