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2C-幹果と油脂
2C-12 香粧と嗜好の狭間
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午後のパラケル魔導具店。母の追及と手伝いを何とか終え、ようやく自分の時間が戻ってきた――午後の魔導具店にて。
「全員、軒並み魔素の回りが良くなっているわ。後は真面目に修練するかどうかね」
「他に変わったことはなかった?」
「元気が有り余って、外で遊び惚けた子が数名いたくらいかしら?」
濃い目に飲んだ子かもしれない。初回のショコラトルは、思った以上に効いていたようだ。気分を高揚させる作用が、思ったより強かったのだろう。
「今日は続きか?」
パラケル爺さんが、いつもより少し低い声で尋ねてくる。続き――つまり、トリニタ豆の加工の話だ。ショコラトルの作成を優先したため、脱脂末と脂の分離にはまだ手を付けていなかった。
「そうですね。母親からも追及されましたよ。マリンが報告したみたいで」
「サルタンがいないとなると、大変そうだな」
「面倒なので、菓子への応用の話はしていません。トリニタ脂と香粧品の話だけですね」
「……そっちの隠し事をしていると、ジーナに尋問されるぞ。あいつは甘い物にも関心が強いからな」
「だからこそです。まずは試作を進めて、形にしてから話します。モノがないと、話が進みませんから」
「甘いものと言えば、鍛冶屋のディオスからも話が来ていたぞ。商人ギルドから要請されたクリスプスの屋台、いつ作るのだ?と。明日、レッドと行くからよろしくと言っておいた」
「わかりました。今日はやはり脱脂末の作成ですね」
作業の方針を決める。トリニタ豆は20ポッド分を加工する予定だ。
「今日はずいぶん多いわね」
「焙煎までは問題なさそうだから、一気に焼いてしまおうと思って」
「アゼルからはどのくらい貰っているのだ?」
「100ポッド分ですね。爺からは遠慮するなと言われましたが……」
リンネと共に豆を擦り洗い、水分を飛ばしていく。
「1ポッドで銀貨70枚。金貨70枚分となると、遠慮もするだろうな」
パラケル爺さんは棚から2台のオーブンを出してきた。
「最近、金貨が軽く感じますが、それでも100でも貰いすぎかもと思っています」
「まったく、金持ちの会話ね。無駄話してないで、焼くのでしょう?」
「商品開発に金を惜しむな。アゼルも商材開発のために渡しているだけだ。ワシからすれば、買い取っても良いくらいだ。リンネ、時間が10になってるぞ。50にしておけ」
「はいはい、わかりました、お金持ちのアウレオール男爵。レッド、予熱から手抜き魔法使うのでしょう?」
開始の魔力を注入し、2台のオーブンを稼働させる。
「ひどい言われようだなぁ。経過魔法って呼んでよ」
予熱のため、1/100の経過魔法をかけて短時間で処理。豆をオーブンに入れ、再度経過をかける。取り出すと、豆は前回同様パチパチと音を立てていた。
「冷却する魔導具が欲しくなるな。下から風を送って、焙煎反応を止めるような」
「いいですね。ゆっくりかき混ぜながら冷ます機構を作ってください」
「あなた達、次から次へと発想が出てくるわね。そういえば、監視役の妖精はどうしたのかしら?」
豆を篩にかけ、風魔法で冷却しながら、3人で作業を進める。
「あいつらは霊薬をベンベルクへ急配に行ってから、帰ってこないな。ルプラもローセアも、マジャリスに同伴させられたから、エリスとクリスティーヌに使われているのではないか?」
「ミハエルさんの子供は助かりますかね?」
「頼まれた仕事は満点に行えた。30年前とは違い、今回は負い目はない。胸を張れ。クリスティーヌが見立てたのだ。ケンダール師も経過を見ているだろう。追加の知らせもない。おそらく大丈夫だ」
豆をミキサにかけて粉砕する爺さんの横で、自分はグリンダ――自動乳鉢のサイズを測り、陶土を取り出す。
「少し深めに作れ。1回で処理できるようにな」
「はい。わかりました。少し外で作業してきます」
陶磁器は焼成で収縮する。見越して大きめに整形し、水と土、風と火、経過魔法を組み合わせて、大型の乳鉢と乳棒を焼成する。魔素を大量に消費し、魔力ポーションをあおりながら、素焼きから本焼きまで一気に仕上げた。
「あなたね。そばで見ていても規格外よ。ここにいると本当に自重しないわね」
「経過魔法を使うと、処理に集中しなきゃならない。周りが見えなくなるから、リンネが居て助かるよ」
「そんなことを言ってるんじゃないけど……」
「リンネの言ってることも理解してる。できることが増えるのが嬉しいだけだよ」
「わかってるならいいわ。そのために私が居るんだから」
「これからもお手柔らかにお願いします」
「んもう。あなた、少年の見た目とは裏腹に、出てくる言葉が違うからやりづらいわね」
大型の乳鉢乳棒が完成した。これからは磨砕の工程だ。
「さあ、中に入ろう。作業を再開しないと」
「エリスさんもこんな気持ちだったのかなぁ」
「えっ、何のこと?」
「何でもない。もう外も涼しくなってきたね。入りましょう」
リンネの声に、ふと季節の移ろいを感じる。秋は過ぎ、冬が近づいている。こちらに来て、もう半年。魔術修練、商品開発、適応――あわただしくも充実した日々。性格は、やはり変わらないままだ。
空を見上げる自分に、「なにやってるのよ」とリンネが声をかける。
その声に背を押され、魔導具店の扉をくぐった。
「全員、軒並み魔素の回りが良くなっているわ。後は真面目に修練するかどうかね」
「他に変わったことはなかった?」
「元気が有り余って、外で遊び惚けた子が数名いたくらいかしら?」
濃い目に飲んだ子かもしれない。初回のショコラトルは、思った以上に効いていたようだ。気分を高揚させる作用が、思ったより強かったのだろう。
「今日は続きか?」
パラケル爺さんが、いつもより少し低い声で尋ねてくる。続き――つまり、トリニタ豆の加工の話だ。ショコラトルの作成を優先したため、脱脂末と脂の分離にはまだ手を付けていなかった。
「そうですね。母親からも追及されましたよ。マリンが報告したみたいで」
「サルタンがいないとなると、大変そうだな」
「面倒なので、菓子への応用の話はしていません。トリニタ脂と香粧品の話だけですね」
「……そっちの隠し事をしていると、ジーナに尋問されるぞ。あいつは甘い物にも関心が強いからな」
「だからこそです。まずは試作を進めて、形にしてから話します。モノがないと、話が進みませんから」
「甘いものと言えば、鍛冶屋のディオスからも話が来ていたぞ。商人ギルドから要請されたクリスプスの屋台、いつ作るのだ?と。明日、レッドと行くからよろしくと言っておいた」
「わかりました。今日はやはり脱脂末の作成ですね」
作業の方針を決める。トリニタ豆は20ポッド分を加工する予定だ。
「今日はずいぶん多いわね」
「焙煎までは問題なさそうだから、一気に焼いてしまおうと思って」
「アゼルからはどのくらい貰っているのだ?」
「100ポッド分ですね。爺からは遠慮するなと言われましたが……」
リンネと共に豆を擦り洗い、水分を飛ばしていく。
「1ポッドで銀貨70枚。金貨70枚分となると、遠慮もするだろうな」
パラケル爺さんは棚から2台のオーブンを出してきた。
「最近、金貨が軽く感じますが、それでも100でも貰いすぎかもと思っています」
「まったく、金持ちの会話ね。無駄話してないで、焼くのでしょう?」
「商品開発に金を惜しむな。アゼルも商材開発のために渡しているだけだ。ワシからすれば、買い取っても良いくらいだ。リンネ、時間が10になってるぞ。50にしておけ」
「はいはい、わかりました、お金持ちのアウレオール男爵。レッド、予熱から手抜き魔法使うのでしょう?」
開始の魔力を注入し、2台のオーブンを稼働させる。
「ひどい言われようだなぁ。経過魔法って呼んでよ」
予熱のため、1/100の経過魔法をかけて短時間で処理。豆をオーブンに入れ、再度経過をかける。取り出すと、豆は前回同様パチパチと音を立てていた。
「冷却する魔導具が欲しくなるな。下から風を送って、焙煎反応を止めるような」
「いいですね。ゆっくりかき混ぜながら冷ます機構を作ってください」
「あなた達、次から次へと発想が出てくるわね。そういえば、監視役の妖精はどうしたのかしら?」
豆を篩にかけ、風魔法で冷却しながら、3人で作業を進める。
「あいつらは霊薬をベンベルクへ急配に行ってから、帰ってこないな。ルプラもローセアも、マジャリスに同伴させられたから、エリスとクリスティーヌに使われているのではないか?」
「ミハエルさんの子供は助かりますかね?」
「頼まれた仕事は満点に行えた。30年前とは違い、今回は負い目はない。胸を張れ。クリスティーヌが見立てたのだ。ケンダール師も経過を見ているだろう。追加の知らせもない。おそらく大丈夫だ」
豆をミキサにかけて粉砕する爺さんの横で、自分はグリンダ――自動乳鉢のサイズを測り、陶土を取り出す。
「少し深めに作れ。1回で処理できるようにな」
「はい。わかりました。少し外で作業してきます」
陶磁器は焼成で収縮する。見越して大きめに整形し、水と土、風と火、経過魔法を組み合わせて、大型の乳鉢と乳棒を焼成する。魔素を大量に消費し、魔力ポーションをあおりながら、素焼きから本焼きまで一気に仕上げた。
「あなたね。そばで見ていても規格外よ。ここにいると本当に自重しないわね」
「経過魔法を使うと、処理に集中しなきゃならない。周りが見えなくなるから、リンネが居て助かるよ」
「そんなことを言ってるんじゃないけど……」
「リンネの言ってることも理解してる。できることが増えるのが嬉しいだけだよ」
「わかってるならいいわ。そのために私が居るんだから」
「これからもお手柔らかにお願いします」
「んもう。あなた、少年の見た目とは裏腹に、出てくる言葉が違うからやりづらいわね」
大型の乳鉢乳棒が完成した。これからは磨砕の工程だ。
「さあ、中に入ろう。作業を再開しないと」
「エリスさんもこんな気持ちだったのかなぁ」
「えっ、何のこと?」
「何でもない。もう外も涼しくなってきたね。入りましょう」
リンネの声に、ふと季節の移ろいを感じる。秋は過ぎ、冬が近づいている。こちらに来て、もう半年。魔術修練、商品開発、適応――あわただしくも充実した日々。性格は、やはり変わらないままだ。
空を見上げる自分に、「なにやってるのよ」とリンネが声をかける。
その声に背を押され、魔導具店の扉をくぐった。
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