巻き込まれた薬師の日常

白髭

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2D-迷宮と魔具

2D-01 *迷宮への道のりと観察

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 ♢♢

 迷宮への道のりは、思った以上に静かだった。
 いや、正確には――我々にとってだけは静かだった。
 息子たちのグループは、相変わらず無駄な戦闘を引き寄せていた。
 探知の精度が甘く、魔虫の接近を見逃す。
 そのたびに我々が声をかけ、進行を止める。
 だが、彼らは確かに学び始めている。
 昨日よりも今日、今日よりも明日。
 その変化を見守るのも、親の務めというものだろう。

 エリス様は、相変わらず容赦がない。
 だが、その言葉の裏にあるのは、確かな期待と導きだ。
 彼女の指摘に、ベーガもコカルスも、ルンフでさえも真剣に耳を傾けていた。
 魔術の基礎――魔力循環、経絡の解放、探知の精度。
 それらがどれほど重要か、彼らはようやく実感し始めている。
 そして、話題は自然と、ある人物へと向かっていった。


「パラケルなら、遭遇すら回避しているくらい」
 エリス様の言葉に、思わず頷いた。
 彼の名は、私の中でも特別な響きを持っていた。
 辺境伯の警護任務で何度か同席したことはある。
 だが、あの時はただの“鋭い眼光の爺様”という印象だった。
 それが今、こうして話を聞くたびに、別の像が浮かび上がってくる。
 農家上がり。冒険者として名を馳せ、学院に進学。
 教書の執筆者であり、錬金術師であり、魔導具職人でもある。
 そして、霊薬の再現者でもある。
 ――多才。だが、それだけではない。
 そのすべてを“実行”してきたという事実が、何より重い。

「彼、自分の魔力制御が人外の域に達していること、ちゃんと自覚してるのかしらね」
 エリス様の呟きに、私は小さく笑った。
 おそらく、していない。
 あるいは、していても気にしていない。
 そういう人物なのだろう。
 貴族の地位も、金も、名声も――
 彼にとっては、ただの副産物に過ぎないのかもしれない。
 それでも、彼の周囲には優秀な人が集まる。
 辺境伯の親子、ギルド長、そして今回の依頼。
 そのすべてが、彼の“実力”を証明している。


 彼と共に歩いた女性を見て思う。
 冒険者として大成するのだろうか。
 目指すべき目標はあるのか。
 未来への展望はあるのか。
 騎士からみた、冒険者の行きつく先は闇。
 目の前に見える光には手に届くのか。
 親からすると心配が勝るのだ。

 目の前にはわかりやすい見本がある。
 アウレオール師というまぶしい光。
 その師が認める、レッド=ベルナルという少年。
 若い光は同世代を引き寄せる。
 その力、その在り方、その“本質”を掴ませたい。

 この依頼は、ただの任務ではないのだ。
 義務や感謝は当然のことだろう。
 この冒険は彼らの分岐点。
 雇い主に、それ以上の達成と貢献を示せるか。
 それが彼らの将来を決めるだろう。

 命よりも重い物はない。
 掬われた命の対価をこの冒険に示せ。
 今の自分に出来ることは、同伴し助言せしめることだ。
 短期間に、教化と薫陶を。

 私にとってもまた、一つの“挑戦”となるだろう。

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