巻き込まれた薬師の日常

白髭

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2D-迷宮と魔具

2D-02 *迷宮と遺構

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 遺跡の入り口に立ち、私は深く息を吐いた。
 この地に足を踏み入れるのは、何年ぶりだろうか。
 かつて若き騎士として巡回任務に就いていた頃とは、違う意味での緊張が走る。
 今回は、息子たちを連れての探索だ。
 そして、彼らに“本物の仕事”を見せる機会でもある。


 教会の記録によれば、迷宮とは、かつて地上に存在した高度文明の都市が、森や地に飲み込まれた成れの果て。
 地表に残るものを「遺跡」と呼び、埋もれたものを「迷宮」と呼称する。
 この魔の森にある迷宮も、教会が発足する以前の文明の痕跡だ。
 パール家が主導して発掘を進めてきたこの地は、今や国の重要拠点となっている。
 魔導具の発掘は、都市機能の根幹を支えるものばかりだ。
 住民登録、通信、身分確認、都市防衛――
 その多くが、迷宮から得られた技術を基にしている。
 再現はできても、原理は未解明。
 それでも、パラケル師や学院の研究によって、少しずつ紐解かれつつある。


「帰ったら、みっちり魔力循環の訓練だな。基礎が甘すぎる」
「剣士にはそれほど重要じゃないでしょう?力を増す程度でしょう?」
「認識が甘い。探知、気配の察知、筋力増幅、持続力強化……使いどころは多い。先輩から学ぶ機会はなかったのか?」
「オレら、2人で活動してたから。先輩の誘いも断ってたし、苦労はしてないし……」
「馬鹿なことだ。素直に教えを請えばよいものを……ほら、来るぞ。探知を解くな。ヴェスパが3匹、飛来している。構えろ」
 エリス様が呟く。
「これはギルドの問題でもあるわね……メンター制度、復活させようかしら」
「メンター制度?」
「昔、冒険者ギルドに魔術師間の制度があったの。先輩が後輩を教える仕組み。でも技術も感覚もバラバラで、効率が悪かったのよ。パラケルも混乱したって言ってたわ」


 ヴェスパ程度なら問題ない。
 息子たちの剣術は、私が仕込んだものだ。
 狭い森の中でも、技術は生きている。
 ベーガと共に、虫どもを難なく撃退していく。
 自己流が混じってはいるが、真面目に取り組んでいたようだ。
「ルンフ、そのまま探知を継続しろ。エリス様、制度導入には反対意見も出るでしょう。改善策は?」
「魔術に関しては、魔導師ギルドに協力を仰ぐわ」

 エリス様が風魔法で下草を薙ぎ払う。
 一人分の幅の道が、瞬く間に開かれていく。
 その制御力に、コカルスが驚きの声を漏らす。
「すごいです……学院の教授でも、ここまで空間制御はできません」
「コカルス。あなたも魔導師を名乗るなら、このくらい実用的にならないと。暫定ランクCでこれでは先行きが不安だわ」
「ミハエル。制度を再開する前に、共通基礎講座として希望者を募りたい。私が前面に立ってもいいけど、今後を考えて魔導師ギルドに任せたいわね」
「評議会で提案いたします」


 目の前に、人工物と思われる構造が見えてきた。
 灰色の岩盤のような壁と床。
 森の浸食を拒む硬質な素材――
 そこが迷宮の入り口だった。

「ベーガ。古代都市に入ったぞ。どこの迷宮区域だった?」
「a-4区域棟、2層目の先です。細かい場所は行かないと分かりません」
「都村通信が見つかった区域か。期待が持てるな」


 地下へと潜る。
 コカルスは光魔法を、ベーガとルンフは魔導具で前方を照らす。
 カツーン、カツーンと靴音が反響する。
 迷宮の静寂が、緊張を引き立てる。

「潜れば楽ですね。魔物は入ってこないし」
「魔物はな。だが、盗掘者対策が必要だ」
 迷宮への入宮は、ギルドでの申請が必要。
 銀貨一枚で地図と許可証が発行される。
 罰則は金貨一枚。軽いものだが、申請せずに入る者は自己責任。
 素行の悪い冒険者が逃げ込むこともある。
 定期巡回は、兵士・騎士・ギルド職員の仕事。
 私も若い頃は、よくこの地を巡っていた。



「現在、申請済みのパーティーは1組。経過期間ぎりぎりなので、今は不在のはず」
「つまり、遭遇するなら盗掘者か違法居住者ね。魔素が掴みづらいから探知も効きづらい。彼女らを使いましょう」

「彼女ら?」
 コカルスが首を傾げる。
「見てなさい。マジャリス、いいわよ」
 何もない空間から、小さな羽の生えた子が現れる。
 エリス様付きの妖精――それも3人。

「マジャリス、ルプラ、ローセアよ。皆よろしくね」
「マジャリスよ。エリス付きね」
「ルプラよ。パラケルについてるけど、マジャリスに駆り出されてる~」
「ローセアよ。レッドについてるけど、今はマジャリス付き」
 息子たちは目を見開いている。
 私は初対面ではないので、驚きはない。

「パラケル師も妖精付きだったのですか!」
「当然でしょう?影響範囲からすれば、神格者の影響下に置かれるのは確定事項よ」
「レッド少年も妖精を持たされていると?」
「ローセアよ。コカルスさん、よろしくね」
「あ、ああ、よろしく」


「無駄話はここまで。3人で先行して頂戴」
「えー、ここ行くの?怖いし」
「姿隠ししていれば見つからないわ。手分けすれば簡単でしょう?」
「特別報酬を要求するわ」
「そうよ。最近は無償の仕事が多いし」
「……なにか考えておくわ」
 エリス様が言葉少なに答える。

 妖精を従えるのも、なかなか骨が折れるようだ。
 ジョゼに目を向けると、同僚も同じ思いに至ったようだった。


 この迷宮の奥に、何が待っているのか。
 息子たちの成長と、未知の発見。
 そして、師の“本質”に触れる機会。
 さらに弟子は未知数だ。
 この旅は、ただの任務ではない。
 私にとっても、一つの転機となるだろう。
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