巻き込まれた薬師の日常

白髭

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幕間

幕間3 *真実のアトロパ

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 ♢♢

「ほら、吐け! すべてをだ。なぜこの領に来た! なぜ迷宮に屯していた! ウオルク男爵から何を命じられた!」
「い、言えぬ……言えるものか!」

「ならば、これはどうだ。一瓶、飲んでみるか?」
 奴らが所持していた怪しげな薬瓶を一本、適当に取り出して見せつける。

「そ、それは……死んでしまう……!」
「無理やり飲ませられたくなければ、早く吐け!」

「それだけは……口が裂けても言えぬ!」
「ミハエル様、本日はこれくらいに……」

 ザトクと呼ばれる男を牢に放り込む。やはり駄目だ。口が堅い。クラン長にまで上り詰めた男だけはある。

「ミハエル様、この男は落ちません。手下から攻めましょう」
 部下のロックが疲れた顔で進言してきた。

「ああ、俺もそう思っていた。何か策はあるか?」
「先ほどロッドという者のアイテムボックスを拘束の腕輪で強制解放しました。中にあった薬品……使えませんか?」

「ああ、奴らが迷宮で口にしていた『真実のアトロパ』か。自白剤の類だろう」
「ですが、私の鑑定では酩酊効果6。酒のように酔うだけの薬にしか見えません」

【*アトロパ。普及品。酩酊効果6】

「俺の鑑定でも同じだ。……よし、領主様に鑑定を仰ごう」
 押収した瓶を領主に差し出す。封は開けぬよう念を押した。

「ふむ……鑑定結果は『真実のアトロパ』。奴らの言葉通りだな。代行、母上も」
「俺は物質鑑定が不得手でな。クリスティーヌ、頼む」

 クリスティーヌ様が侍女から薬を受け取り、即座に鑑定を施す。瞳が輝き、さらさらと結果を書き記した。

【*真実のアトロパ。普及品。魔素有。酩酊効果6。[規定量:小薬匙1。過量服用:見当識障害を誘発]】

「見当識障害……?」
「時間や場所、人を正しく認識できなくなることよ。学院の薬物学で習わなかった?」

「私は騎士教程でしたので……」
「残念ね。本来は不眠解消に使う薬。酒に似た酩酊作用を示す。通常は小匙一杯。だが付属の匙は大きいわ」

「つまり、多めに使えば自白薬として働く。裏の用途だな。しかも丁寧に匙まで用意している。……本来の目的では使っていない」

「嫌な使い方ね。過量なら悪夢に苛まれるでしょう。だが、うまく使えば捜査は進む」
「奴らが持参した物だ。取り扱いは厳重に。本人らにのみ使用せよ。間違っても兵は口にするな」

「はっ!」
 牢に戻り、ロックに伝える。
「やはり自白を促す薬だった。奴ら自身が持ち込んだ物だ。使用は許可された」
「ご丁寧に使用法まで残されています。匙一杯。十杯を超えるな。飲食に混ぜても可、と」

「ならば試すか。負傷していたホプキンに使おう」
 個別に収監し、ホプキンには治療を施していた。多少こちらに心を寄せている。そこに薬を混ぜる。

「ホプキン、喉が渇いただろう。特別にウーヴァの果汁をやろう。ベンベルクの特産だ」
「ありがとうございます!」
 ごくごくと飲み干すホプキン。

「さて、改めて聞こう。故郷はどこだ?」
「ウオルク領でさぁ」

「どの辺りだ?」
「湿原近くのパクトキという町でさぁ」

「ラーナの干物が特産だったな」
「ああ、ゲコゲコうるさい特大ラーナを捕まえて干す。冒険者はそんな仕事ばかりださぁ」

「それが嫌で領都に?」
「そうでさぁ。そこでザトクさんに誘われ、クランに入ったさぁ」

「ザトクのどこに惹かれた?」
「偉大なお方でさぁ……組織を束ね、仕事を斡旋してくれるださぁぁぁ……」

 語尾が崩れ始めた。薬が効いてきたか。

「いつからおかしくなった?」
「クランが大きくなり、領主と仲良くなってからかぁぁぁ……人狩りと称して近隣に手を出し始めてからかぁぁぁ……」

「魔の森にも?」
「そう、何度もぉぉぉ……エルフは守りが堅くぅぅ……だが人物指定がありぃぃ……拉致せよと……薬師……ぐう」
 ホプキンは眠りに落ちた。

「……効き始めてから眠るまでが勝負か」

 その後、他の者にも試した。敵意の強さで量を調整するのが肝要。過ぎれば眠り、悪夢に苛まれる。だが効果は絶大だった。

 四人の証言を集約できた。ウオルク男爵は、魔の森に薬師の[賜物]が降下するとの情報を、主位ネレイフォリアから得ていた。商人エルベスを連絡役とし、周辺の村やエルフの里を調査。別動隊が偶然通った少年を拉致し、商人に引き渡したが行方不明に。以降、取り締まりが厳しくなり、迷宮と都市を秘密通路で往来していた。

 都市の壁に抜け道がある証言は収穫だった。検問が効かぬ理由もこれで合点がいく。ザトクを捕らえたのは大きい。真実のアトロパは厄介だが、適切に使えば強力な武器だ。

「ずいぶん好き勝手していたものだな。レッド君、間一髪だった。エルベスが連絡役か……逃げられたか」
「お前がいた場では最善を尽くした。領主も追い払っただけで良しとするだろう」

「だが村が襲われていた可能性も」
「通常ならそうだ。だがあの村は防壁が無いように見えて、パラケル師の探知魔導具が張り巡らされている」

「さすが元相談役……」
「ロック、忘れるな。村長もパール家の傍系だ。学院で騎士課程を修めた男。職人たちも、鍛冶も細工もこなすが、戦闘もできる。俺の盾も奴らの作品だ」
「なるほど……パール家にとって重要拠点。エルフとの協定もある村でしたね」

 商人の活動を制限せねばならぬかもしれぬ。だが治安の確保は必須。秘密通路は塞がねばならぬ。一連の情報をまとめ、当主トーマスの采配に委ねよう。ウオルク男爵への圧力を強めるために。


 ――さて、奴らはもう用済みだ。
 これ以上、真実のアトロパを使う必要もない。得るべき情報はすべて吐かせた。
 私は牢の前に立ち、鉄格子越しに四人を見下ろした。

 ホプキンはまだ浅い眠りに沈んでいる。ザトクは腕を組み、睨み返してくるが、その眼にはもはや覇気はない。ロッドとジョンは疲弊しきり、床にうずくまっていた。

「お前たちの罪は重い。だが、命までは取らぬ。領に尽くして償え」
 私の言葉に、ロックが頷いた。
「労働刑に処すのですね」
「ああ。通常の状態で罪を認めさせ、労働で領に貢献させる。それが領主の御意向だ」

 私は拳を握りしめた。
 ウオルク男爵の影は深い。だが、今回の捕縛で奴の企みの一端は暴けた。秘密通路も塞がれるだろう。これ以上、魔の森と都市を好き勝手に往来させはしない。

 パール辺境領の治安は、我ら近衛騎士が守る。
 たとえどれほどの陰謀が渦巻こうとも、剣と盾を掲げ、領民の安寧を守り抜く――それが私の誓いだ。

 牢を後にし、私は夜風を吸い込んだ。
 冷たい空気が肺を満たす。

 ――この戦いはまだ序章に過ぎぬ。だが、必ず勝ち抜いてみせる。
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