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増殖は禁断のお味
13.甘いキャロンと渋いキャロン
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仁王立ちした二人のキャロンを見て唖然とする。
「⋯えっと、俺いつの間にか寝てた?」
「「現実だ」」
すかさずキャロンの鋭いツッコミが聞こえ、ドバッと俺から汗が吹き出した。
「え、え!?双子だったとかじゃないよな?これってもしかして⋯」
「双子だったとしても突然現れる訳ないだろう」
「大丈夫だエイベル、きっとなんとかなるから」
「⋯⋯え?」
焦る俺にいつも通りの呆れた一言を投げるキャロンと、いつもとは違うフォローを口にするキャロン。
そんな対照的な二人を見た俺は、迷わず呆れモードのキャロンの腕にしがみついて。
「に、偽物だ!キャロンがお説教の前に励ますとかする訳ない!!!」
思い切り甘いキャロンを指差しながらそう叫んだ。
“もちろんフォローだってしてくれるけど、キャロンはまず俺の成長の為にミスを自覚させるところからはじめるんだから⋯!!”
だからこそ、第一声から甘い対応をするなんてあり得ない。
あり得ない、のだが⋯。
「⋯だ、そうだぞ」
「不本意だ。だがエイベルがこう思うのは俺の責任だから仕方ない」
どこか得意気な渋いキャロンと、不服そうな甘いキャロン。
不服そうな甘いキャロンがそのまま大きくため息を吐く様子に思わず目を見開く。
「ため息の吐き方がいつものキャロンだ⋯」
「「俺だからな」」
「!!?」
思わず溢れた疑問にシンクロしながら返事が来た。
「こうなったのはさっきの魔法のせいだろうな」
「魔法書がおかしかったんだろう。エイベルの責任じゃないから気にする必要はない」
「え、え?」
パニックになりながら二人のキャロンの顔を見比べ⋯
「「どっちも本物だ」」
「えぇえっ!!?」
あっさり二人に断言された。
「恐らくさっきの魔法が誤作動起こしてこうなったんだろう。精神的に自分を客観視する魔法だったはずだからこの誤作動は理解できんがな」
「え⋯っ」
「そんなことないだろう。客観視するってことは自分を別人として見るって事だから、本来の自分と客観視する対象の自分で2人に増えてもおかしくないはずだ」
「ま、待っ⋯」
「だがそれは精神論だろう?俺は今物理的に分裂している」
「それはエイベルが優秀だからじゃないか」
「す、ストーーップ!!」
淡々と分析する二人のキャロンに慌てて割り込んだ俺は、気になる単語を1つずつ拾って。
「待って、えーっと、確認するけど、二人とも本物なんだよね?」
「「そうだ」」
「恐らくさっきの魔法でこうなった⋯んだよね?」
「「そうだ」」
「ちなみに元に戻る方法なんかは⋯」
「「知らん」」
「ですよね!」
ハッキリキッパリ断言され項垂れる。
こうなった原因が魔法書というならば、その魔法書を隅々まで読めば何かしらの解決策が出るかもしれないが⋯
“魔法書、燃やしちゃったよ⋯⋯”
浅はかだったさっきの自分を思い出し、更にガクリと肩を落とした。
「だから俺は行動を起こす前に一度冷静になれと常々言ってだな⋯」
「咄嗟の判断が大事な事もあるはずだ、そんなに説教ばかりだと嫌われるぞ?」
「言わない方が良くないだろう!俺が常に側にいれる訳じゃないんだから」
「俺なら側にいるけどな」
「お前は俺だろ!側にいれない時はどうするんだ!?」
“なんかすごい言い合ってる⋯”
自分の事を言われてるようだが、キャロンとキャロンが言い合うなんていう現実離れした現実に内容がちっとも頭に入ってこない。
――それでも自分の責任なのだから。
「俺がなんとかしないと⋯!」
突然自分が増えるなんて事になってしまったキャロンはきっと不安になっているはずだ、と思った俺は気合いを入れる。
“キャロンを絶対元に戻さなきゃ⋯!”
グッと拳を握った俺は、言い合いをしている二人のキャロンに割り込んで。
「大丈夫だ!俺が絶対元に⋯」
「大体、俺はいつも小言と説教ばかりを口にするから大事なことが伝わらないんじゃないのか?」
「元に戻す⋯」
「小言も説教も大事な事だろう!」
「そうかもしれないが、だが伝え方ってものがあるんだ。俺は素直さが足りない!」
「あの。聞いて⋯俺が、俺もその⋯」
「思ったことをハッキリ言ってる、十分素直な部類だと思うが?」
「ハッキリ主張を⋯!俺もするから⋯!」
「本当に素直だったら、二人目の俺がこんな性格になる訳ないだろう!?」
“ひえぇ、全然割り込めない⋯!”
しかし怯んでばかりはいられない。
いつもフォローして貰っているからこそ、こういう時こそ俺が冷静にならなくちゃいけない訳で。
“諦めるのは、努力してから⋯!”
言葉で割り込む事は不可能だと判断した俺は、物理的に二人の真ん中に割って入る。
――二人とも本物。
それは本人達も言っていたし、仕草を見てもそうなのだとわかってはいるのだが⋯
「俺はキャロンからのお説教、嬉しいよ⋯!たまに泣きそうにはなるけど、でも全部俺の為を想って言ってくれてることだから⋯っ」
無意識に渋いキャロンを背に庇うようにし、甘いキャロンの前に立ち塞がった。
そしてそんな俺を見た甘いキャロンは少し悲しそうな、しかしどこか嬉しそうな表情をし――
「抱きたいな」
「は?」
とんでもない事を口走る。
そのあまりにも想定外な言葉に俺も、渋いキャロンすらもフリーズしてしまって。
「客観視する魔法、悪くないな。いつもの俺を冷静に見て、もっと甘やかして優しくドロドロにしてやりたいと思ったからこそこんな性格で具現化したんだろうが⋯」
ふむ、と一瞬考え込む目の前の甘いキャロンは、やはりどこからどう見てもいつも通りのキャロンにしか見えなくて。
“いや、本人なんだから当たり前なんだけどー⋯”
「それでも、いつもの不器用な俺をちゃんと見て慕ってくれていると思うと嬉しいよ」
「えっと⋯、よ、喜んで貰えたなら俺も嬉しい⋯かな?」
「けど、心残りだってあるんだ」
ふっとキャロンの表情が翳る。
「心残り⋯?」
思わず聞き返すと、ゆっくり頷いたキャロンが再び口を開いて。
「せっかくエイベルと体を重ねるというのに、呪いだとかスライムだとか⋯そうじゃなくて、俺は俺の意思でエイベルを大事に抱きたいんだ」
「抱き、たい⋯?」
真っ直ぐ射貫くように好きな人に言われた俺の心は、その言葉だけで一気に熱くなり震えてしまう。
いや、今の状態もある意味『状態異常』ですけども⋯というツッコミは、もちろん口に出すどころか頭に過りもしなくて――
「で、でもキャロ⋯、ッ!」
トキメキを隠しつつ、それでも何か言わなくてはと思った俺を今度は渋いキャロンが後ろからそっと抱き締めた。
「⋯それは俺も同感だ。時間をかけて慣らしてやりたかったのに」
「呪いにスライムで増幅された強化魔法だろ、あれは仕方なかった」
「あぁ、出来なかった分は今から取り戻せばいいんだもんな」
「そうだな、今からリベンジすればいい」
さっきまで言い合いをしていたはずの二人のキャロンは、やはり二人とも本物のキャロンだったらしく意見がピッタリ一致して。
「「エイベル、やり直してもいいか?」」
なんて、劣情を孕んだ濃紺の瞳を同時に俺へ向けるのだった。
「⋯えっと、俺いつの間にか寝てた?」
「「現実だ」」
すかさずキャロンの鋭いツッコミが聞こえ、ドバッと俺から汗が吹き出した。
「え、え!?双子だったとかじゃないよな?これってもしかして⋯」
「双子だったとしても突然現れる訳ないだろう」
「大丈夫だエイベル、きっとなんとかなるから」
「⋯⋯え?」
焦る俺にいつも通りの呆れた一言を投げるキャロンと、いつもとは違うフォローを口にするキャロン。
そんな対照的な二人を見た俺は、迷わず呆れモードのキャロンの腕にしがみついて。
「に、偽物だ!キャロンがお説教の前に励ますとかする訳ない!!!」
思い切り甘いキャロンを指差しながらそう叫んだ。
“もちろんフォローだってしてくれるけど、キャロンはまず俺の成長の為にミスを自覚させるところからはじめるんだから⋯!!”
だからこそ、第一声から甘い対応をするなんてあり得ない。
あり得ない、のだが⋯。
「⋯だ、そうだぞ」
「不本意だ。だがエイベルがこう思うのは俺の責任だから仕方ない」
どこか得意気な渋いキャロンと、不服そうな甘いキャロン。
不服そうな甘いキャロンがそのまま大きくため息を吐く様子に思わず目を見開く。
「ため息の吐き方がいつものキャロンだ⋯」
「「俺だからな」」
「!!?」
思わず溢れた疑問にシンクロしながら返事が来た。
「こうなったのはさっきの魔法のせいだろうな」
「魔法書がおかしかったんだろう。エイベルの責任じゃないから気にする必要はない」
「え、え?」
パニックになりながら二人のキャロンの顔を見比べ⋯
「「どっちも本物だ」」
「えぇえっ!!?」
あっさり二人に断言された。
「恐らくさっきの魔法が誤作動起こしてこうなったんだろう。精神的に自分を客観視する魔法だったはずだからこの誤作動は理解できんがな」
「え⋯っ」
「そんなことないだろう。客観視するってことは自分を別人として見るって事だから、本来の自分と客観視する対象の自分で2人に増えてもおかしくないはずだ」
「ま、待っ⋯」
「だがそれは精神論だろう?俺は今物理的に分裂している」
「それはエイベルが優秀だからじゃないか」
「す、ストーーップ!!」
淡々と分析する二人のキャロンに慌てて割り込んだ俺は、気になる単語を1つずつ拾って。
「待って、えーっと、確認するけど、二人とも本物なんだよね?」
「「そうだ」」
「恐らくさっきの魔法でこうなった⋯んだよね?」
「「そうだ」」
「ちなみに元に戻る方法なんかは⋯」
「「知らん」」
「ですよね!」
ハッキリキッパリ断言され項垂れる。
こうなった原因が魔法書というならば、その魔法書を隅々まで読めば何かしらの解決策が出るかもしれないが⋯
“魔法書、燃やしちゃったよ⋯⋯”
浅はかだったさっきの自分を思い出し、更にガクリと肩を落とした。
「だから俺は行動を起こす前に一度冷静になれと常々言ってだな⋯」
「咄嗟の判断が大事な事もあるはずだ、そんなに説教ばかりだと嫌われるぞ?」
「言わない方が良くないだろう!俺が常に側にいれる訳じゃないんだから」
「俺なら側にいるけどな」
「お前は俺だろ!側にいれない時はどうするんだ!?」
“なんかすごい言い合ってる⋯”
自分の事を言われてるようだが、キャロンとキャロンが言い合うなんていう現実離れした現実に内容がちっとも頭に入ってこない。
――それでも自分の責任なのだから。
「俺がなんとかしないと⋯!」
突然自分が増えるなんて事になってしまったキャロンはきっと不安になっているはずだ、と思った俺は気合いを入れる。
“キャロンを絶対元に戻さなきゃ⋯!”
グッと拳を握った俺は、言い合いをしている二人のキャロンに割り込んで。
「大丈夫だ!俺が絶対元に⋯」
「大体、俺はいつも小言と説教ばかりを口にするから大事なことが伝わらないんじゃないのか?」
「元に戻す⋯」
「小言も説教も大事な事だろう!」
「そうかもしれないが、だが伝え方ってものがあるんだ。俺は素直さが足りない!」
「あの。聞いて⋯俺が、俺もその⋯」
「思ったことをハッキリ言ってる、十分素直な部類だと思うが?」
「ハッキリ主張を⋯!俺もするから⋯!」
「本当に素直だったら、二人目の俺がこんな性格になる訳ないだろう!?」
“ひえぇ、全然割り込めない⋯!”
しかし怯んでばかりはいられない。
いつもフォローして貰っているからこそ、こういう時こそ俺が冷静にならなくちゃいけない訳で。
“諦めるのは、努力してから⋯!”
言葉で割り込む事は不可能だと判断した俺は、物理的に二人の真ん中に割って入る。
――二人とも本物。
それは本人達も言っていたし、仕草を見てもそうなのだとわかってはいるのだが⋯
「俺はキャロンからのお説教、嬉しいよ⋯!たまに泣きそうにはなるけど、でも全部俺の為を想って言ってくれてることだから⋯っ」
無意識に渋いキャロンを背に庇うようにし、甘いキャロンの前に立ち塞がった。
そしてそんな俺を見た甘いキャロンは少し悲しそうな、しかしどこか嬉しそうな表情をし――
「抱きたいな」
「は?」
とんでもない事を口走る。
そのあまりにも想定外な言葉に俺も、渋いキャロンすらもフリーズしてしまって。
「客観視する魔法、悪くないな。いつもの俺を冷静に見て、もっと甘やかして優しくドロドロにしてやりたいと思ったからこそこんな性格で具現化したんだろうが⋯」
ふむ、と一瞬考え込む目の前の甘いキャロンは、やはりどこからどう見てもいつも通りのキャロンにしか見えなくて。
“いや、本人なんだから当たり前なんだけどー⋯”
「それでも、いつもの不器用な俺をちゃんと見て慕ってくれていると思うと嬉しいよ」
「えっと⋯、よ、喜んで貰えたなら俺も嬉しい⋯かな?」
「けど、心残りだってあるんだ」
ふっとキャロンの表情が翳る。
「心残り⋯?」
思わず聞き返すと、ゆっくり頷いたキャロンが再び口を開いて。
「せっかくエイベルと体を重ねるというのに、呪いだとかスライムだとか⋯そうじゃなくて、俺は俺の意思でエイベルを大事に抱きたいんだ」
「抱き、たい⋯?」
真っ直ぐ射貫くように好きな人に言われた俺の心は、その言葉だけで一気に熱くなり震えてしまう。
いや、今の状態もある意味『状態異常』ですけども⋯というツッコミは、もちろん口に出すどころか頭に過りもしなくて――
「で、でもキャロ⋯、ッ!」
トキメキを隠しつつ、それでも何か言わなくてはと思った俺を今度は渋いキャロンが後ろからそっと抱き締めた。
「⋯それは俺も同感だ。時間をかけて慣らしてやりたかったのに」
「呪いにスライムで増幅された強化魔法だろ、あれは仕方なかった」
「あぁ、出来なかった分は今から取り戻せばいいんだもんな」
「そうだな、今からリベンジすればいい」
さっきまで言い合いをしていたはずの二人のキャロンは、やはり二人とも本物のキャロンだったらしく意見がピッタリ一致して。
「「エイベル、やり直してもいいか?」」
なんて、劣情を孕んだ濃紺の瞳を同時に俺へ向けるのだった。
応援ありがとうございます!
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