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番外編:結局勝ち負けなんて意味はない・後編

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そんなやり取りをする私達に集まってきた男性の数は更に増えて、「彼女に理不尽な事を言うな!」だとか「貴女の言う事が全て正しいのです、例え世界が批判しても僕がいます」とか、味方についてくれるのは有り難いけど怖すぎるわ!!!

まだ増えそうな雰囲気に戦々恐々とする。
そんな私に気付いたのか、サッと手を引いてエドが走り出した。

「とにかく逃げますよ!!」

走りながら何かを呟いたエドは、そのまま王都の裏路地の先にある湖まで転移する。
走りながらで転移出来るとか···いや、もう今さらこの弟子の魔法力には何も言うまい。


転移したことにより少し冷静になったルールは改めてエドを問い詰めた。

「で?これはどういうことかしら···!?」
「俺もまさかこんなことになるなんて思わなかったって言いますか···!」

こんなにしどろもどろなエドはもしかしてはじめてなのでは?と思いつつ流せるような訳もなく。笑顔に殺意を込めて微笑む。

「えーっと、その、さっきの魔法薬は魅力の魔法薬でして」
「魅力の?魅力の魔法薬って、本来は飲んだ後に見た人間がいつもより何倍も魅力的に見える錯覚を起こす魔法薬よね?」
「そうですね、だからルールに飲んでもらって、その後俺を見てくれたらその、もっとルールにドキドキして貰えるかななんて思ったんですけど···」

もっとドキドキして欲しいって、こっちは昨日から意識しちゃってるしドキドキさせられてるのに何なのもう可愛いんだけどウチの弟子が最強すぎるーーー!
少ししょんぼりして話すエドにちょっとどころではないほど心臓を鷲掴みされたが今はそれどころではもちろんなく。

「·······んんっ、えっと、本来では飲んだ人が錯覚を起こすはずが、何故かわからないけど反対の作用で魔法薬のかかった私に誤作動起こしてるのね?」
「推測ですがルールにかかったことによりルールの匂いと混じって気化した魔法薬が散布され不特定多数の異性に取り込まれたのかと」
「········なるほど」

気化したせいで、か。
まるでウイルスのように空気に混じって周りの人に取り込まれたなら、摂取した人が沢山現れてもおかしくない。
原因も理由も即座に推測出来るこの弟子がおかしいだけで気付かなかった私はきっと普通なはずだと心の中で自分をフォローする。

それに魔法薬を摂取したというなら、せいぜい効果は長くても5時間。摂取量を考えると1時間から2時間ほどだろう。

だからと言って街に戻る事も出来ないしもう帰ったほうがいいかな、と思いエドの方を見たのだが。

「ちょっ、凹みすぎじゃない!?」
ものすごく項垂れているエドがそこにいた。

「せっかくの初デートが···」

いつも憎たらしいほどに自信満々なエドのこんな姿があまりにも珍しくて思わず頭を撫でてしまう。

「····何するんですか」
「可愛いなぁと思って」
「そうですか、すみませんね、格好よくなくて」
「いじけてるの?」
「いじけてません」
「本当に?」
「本当です」

ふぅん、としばらく顔を覗き込んでいたルールはおもむろにエドの腕を取って湖の近くに腰を下ろした。

「る、ルール?」

そしてそのままぴったりとエドに寄りかかるように引っ付き、エドの腕に頭を乗せる。

「いつも格好いいんだから、たまに可愛いなんて本当に私の恋人は最強ね?」

ふふ、と笑いながらそう言うと、一瞬でエドが真っ赤になる。
あぁ、本当に好かれてるんだな、と思ったし、本当に好きだなぁとも思った。
いつの間にこんなにこの気持ちが育ったのだろう。

「どこかに行くことだけがデートじゃないでしょ。誰と何をするかってことが重要なんじゃない?」

そう言ってチラッとエドを見上げると、赤い顔をしたまま小さくエドが頷いてくれる。
別にどこかに行かなくたってこんなに幸せな気持ちになれるのは相手がエドだから。

この甘い雰囲気に委ねエドとしばらく見つめあっていると、少しずつエドが顔を近付けてくることに気付いた。

「?」

なんだろう、とぼんやり眺めたのはどれくらいの時間だったのか。
そして気付く。

こ、これはキッ、キスをしようとしてる···!?


こういうときどうすればいいの!?経験なんてないんだけど!
そ、そうだ、目っ!目を閉じなくちゃ!?

慌てて目を閉じるが、目を閉じると他の部分に意識が持っていかれる。
こちらに顔を寄せようとエドが重心を少しルール側にずらした為に衣擦れる音が何故か耳にうるさいくらい聞こえ、その音以上に土を踏みしめる足音が耳の奥に響いた。

「······え。」
土を踏みしめる、足音···?

慌てて目を開けると、恐らくその音に気付いたエドもこちらを見ていて。
そして二人して慌てて音の方に振り返ると。

「ご無事ですか私の魔女···いいえ女神さまっ」
「助けに参りました!」
「貴女は僕が拐います···!」

お、追ってきてるーーー!?
転移してここに来たのにどうやって場所がバレたの!?

オロオロする私を慌てて立たせて背中に庇ったエドは、空中に指で魔法陣を描いて発動した。

「認識阻害の魔法を発動させます、これで俺達の姿は見えないはずですが···」
「えっ!そんな魔法まで使えるの!?」

驚いたのは一瞬で。
追いかけてきた男性達は真っ直ぐ二人へ走ってくる。

「失敗···?」
「くそ、やっぱりか!魔法はちゃんと発動してますが、魔法薬の匂いを辿って来てますね、見えてなくても関係ない···っ」

えぇーーーっ!
匂いで辿って来てるとか、あ、だから転移先の湖まで追ってこれたってこと?というか、エドの魔法薬効果凄すぎじゃない?
これエドが一人前になった後はエドの魔法薬の価格倍とかで売れるよう新しいレート作らなきゃじゃない!?
ウチの弟子こわっ!

そして匂いで来れるってことは家まで転移してももしかしたら追ってくるかもしれないという可能性もあると気付き青ざめる。
ここはまだ王都だからいいが、私達の家へ向かってる時に魔法薬の効果が切れた場合、正気に戻った彼らが知らない場所にいる可能性があるという事だ。

魔法薬の効果で連れてこられ、見知らぬ森で気付き帰れなかったら。
運が悪ければ猪や熊に襲われる事もあるし延々とさ迷ってそのままポックリ···なんてこともあり得る···

「諦めて捕まったらどうなるかしら!?」
「恐らく死にます」
「嘘よねッ!?なんで魅力の魔法薬で死者が出るの!?私殺されるってこと!?」
「ルールじゃありません、俺がアイツらを殺します、ルールに少しでも触れたら絶対殺すっていうか今すぐ殺してやりたい」
「そっちね!おっけ!逃げましょう彼らを守るために」
「殺す理由が増えました」
「やめて!!!!」

逃げ切るしかエドから彼らを守る方法がないことに気付き絶望する。
私は可愛い弟子を育てたのであってヤンデレを育てたつもりはなかったのに···!

「このまま走り続けるのはルールの体力的に厳しいでしょう、もうやってしまいましょう!」
「やるって何を!?殺ろうってことじゃないわよね?ていうかあとどれくらいで魔法薬の効果なくなるのよ~っ!?」

そろそろ効果がなくなってもいいんじゃないの!?と叫ぶが。

「ルールの服に付いた魔法薬がある限りその香りに引かれて永遠と追ってくる可能性がありますね、最初に吸い込んだ魔法薬の効果は切れてそうですがその匂いで上書きされてるかもしれません!」

つまりこの服を洗うまで効果が切れないってこと?
嘘よね!?
とは思ったが、匂いを辿ってここまで来るくらいなのだ、あり得る、エド特製の魔法薬ならあり得る···!

「···ってことは、つまりこの匂いが消えれば正気に戻るってこと?」
「推測ですがおそらくはっ!」

だったら!

ルールは自分の手を引いて走っているエドの手を振り払う。

「ルール!?」

そしてそのまま湖に飛び込んだ。

「な、何してるんですかっ!?」
「洗えばいいんでしょ?これで匂いなくなったんじゃない!?」

ザパッと頭まで湖に潜り、気持ち多めに魔法薬のかかった部分を擦る。
そしてゆっくり湖から出てくると。

「····うわっ!お化け!?」
「呪われるぞっ!」
「逃げろ!祟られる!」

「エド、殺しましょう」
「ルール、落ち着いてください不可抗力です」

確かに!
確かに髪が濡れて顔に貼り付いてるしローブも暗めの色で、そんな女がいきなり湖から現れたらホラーかもしれないけども!!!
私がエドから助けてあげたのよーーーっ!?

彼らが被害者であることはわかっているが、腹が立つのは仕方ないと思う!

ぷんすかしてるルールに炎と風の魔法で服と体をすかさず乾かしたエドは。

「······っ、く、ふはっ!」
「······ご満足いただけましたか。」
「す、すみまっ、ぶはっ、すみ、くくっ」

物凄く大爆笑するエドをしばらく眺めていたが、段々釣られてルールもつい笑いだしてしまった。
そのまましばらく笑いあった後。

「ルール、乾きはしましたが変なシワがついてますし、お詫びも兼ねて服をプレゼントさせてくれませんか?着替えてデートの続きをしましょう」

そう言ってエドがルールの手を取り、ルールもエドの手を握り返す。

「お化けに見えない可愛いのを選んでね」
「うはっ、くく、もち、もちろんですっ」
「·········」

可愛く言ったつもりだったのにエドのツボにはまったみたいでまた小刻みに震えながら笑いだすエドを、思わず冷めた目で見つめたのは仕方ないと思う。


つい、仕返しって訳ではないが嫌味のように
「エド特製の魅力の魔法薬、やっぱり魔法使いであるエドには効果がなかったようで残念ね、そろそろ諦めたらいいんじゃないかしら?」
と言ってやったのだが。

少し海色の瞳を見開いたエドが、すぐにその瞳を細めて笑う。

「そんなことないですよ?だって俺にはルールがいつも誰よりも魅力的に見えてますから」
「ーーーーッッ!!」


私が師匠のはずなのに!
相変わらずこの優秀すぎる弟子には魔法も、そして口でも勝てないことが悔しいルールは、ただ力いっぱいエドの手を握った。

それは、少しは痛い思いすればいいのに、という思いからの行動で。

「絶対いつか負けたって言わせてやるんだから!」
「それ弟子側が言うやつじゃないですか?おかしいな、ルールが師匠だと思ってたんですが」

なんていつもの二人らしく話しているが、ルールに見られないようにとそっと顔を反らしたエドの頬は赤く染まっていた。



ーー結局恋なんて、先に惚れた方が負けなのだ。
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