ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける

春瀬湖子

文字の大きさ
6 / 33
本編

5.お出かけだったら一緒に行こう

しおりを挟む
 突然現れた王太子に小さく悲鳴をあげるメイドさん。
 そんな彼女に嫌悪感を出すこともなく、惨事となっている廊下をぐるりと見渡して。


「君には世話をかけたようで……」
「ひえぇっ!?」
「ちょっ! 王太子が軽々しく頭とか絶対下げちゃダメでしょ!」

 サッと私の代わりに頭を下げた。
 その様子に私も、そしてメイドさんも一瞬で青ざめる。

“私の魔法がまた失敗したせいで……!”

 一度は成功したはずなのだ。
 
 そうでなければこんな失敗をするようなポンコツ魔女の為に尊い方であるメルヴィが頭を下げるはずはないのだから。

“それなのになんで失敗してしまったんだろ”

 成功した時と失敗した今の違いがわからず思わず唸った私は、すぐに唸っている場合ではないと気が付いて。


「っと、ごめんなさい! 片付け手伝います」

 慌ててそう口にすると、メイドさんがにこりと微笑んだ。


「構いませんよ、お掃除は私の仕事です」
「で、でも私のせいで手間が増えて……」
「誤差の範囲です」

“絶対違いますけど!?”

 私が内心で惨事、と表現するほど酷い有り様なのだ。
 これが誤差だというならば、とんでもなく幅広い統計を取ったことになるだろう。

 それでも誤差だと言い切った彼女の優しさに申し訳なさと、そして感謝が私の中を占めて。


「……うん。君、名前は?」

 そんな彼女を私と一緒にじっと見つめていたメルヴィがそう聞いた。

 
「え、エッダと申します」

 おずおずとそう答えるメイドさんに大きく頷いたメルヴィは、すぐにくるりと私の方へ向き直る。

「リリに専属侍女をつけようと思っていたんだが、彼女はどうだろう?」
「私に専属侍女、ですか?」
「あぁ。ずっと俺がリリの側にいて何でもしてあげたいんだけど、それは流石に叶わないからね」

“当たり前すぎる……!”

 王太子という立場は、当然遊んでいて成立するほど甘くない。
 あまり世間には詳しくない私ですらそんなことはわかっていて。

「君もどうかな? 彼女のサポートを頼みたいんだが」
「あ、わ、私でよろしければ……」

 メルヴィからそう提案を受けたメイドさんことエッダも、少し戸惑いつつ頷いた。
 まぁ、王太子から直々に言われて断れるメイドなどいないとは思うのだが……

“でも”

 じわりと頬を赤くした彼女がチラチラと私を見る。

“あれは喜んでる……わよ、ね?”

 何故私を見ながら嬉しそうな顔をするのかはわからない。
 けれど、嬉しそうな彼女を見ると私もなんだか嬉しく感じた。

“好意的な方が当然いいし、それに一人は確かにすぐに飽きそうだから”


 ぴょこ、とエッダの前に飛び出した私はぎゅっと彼女の手を両手で握る。

「よろしくお願いね、エッダ」
「はいっ、もちろんでございます」

 それが、私に専属侍女が出来た瞬間だった。


 
 仕事で通った時に見えただけなんだ、と少し寂しそうな顔をしたメルヴィを再び仕事へ送り出した私たち。

 せめて惨事にしてしまった廊下の掃除を手伝いたい、と言ったものの頑なに断られてしまい結局彼女一人で片付けた。


「私が魔法を失敗しなかったら……」
「ふふ、お可愛らしいと思いましたよ」

 メルヴィが話を通しておいてくれたのか、掃除が終わったタイミングでメイド長に声をかけられたエッダは、そのまま私の侍女として付いてくれることになったらしい。

“折角だから、友達みたいになりたいわ”


 貴族でもないただの魔女に侍女なんて分不相応かもしれないけれど。

 
“それに気になる、何で迷惑をかけた私にこんなに親切なのか……!”

 そんな考えが頭を過り、ごくりと唾を呑む。

 気になる。
 エッダはどうしてそんなことを言ってくれるの?
 それは本心?
 それとも何か打算がある?

“打算があるならそれは何かしら”

 純血の人間は魔法が使えない。
 それでも魔法なんていう不可思議なものに叶えて欲しいほどの願いがあるの?

 気になって気になって仕方ない……!!!


「ねぇっ、エッダはどうしてそんなに優しいの!?」
「優しい、ですか?」

 好きに使っていいと言われていた私室に二人で戻った私たち。
 部屋の中の物の少なさにギョッとしたエッダは、それでも『少ないので逆に掃除がしやすいですよ』とサクッと終わらせ紅茶を淹れてくれて。

 
“少し渋りながらも、一緒に飲みたいって言ったらなんだかんだで対面に座って紅茶タイムもしてくれるし”


 私の質問に答えようとしてくれているのか、ゆっくりと動く彼女の口に高揚感を覚える。

 気になって仕方ない、その答えは――……!


「幼い弟と妹がいるんです」
「弟と妹?」
「仕送り出来るだけのお給料をいただけ、とても感謝しているのですがやっぱり少し寂しく感じる時もあって」

“王城メイドは住み込みが基本だものね……”

 中心部にあるとはいえ、当然ながら警備も厳しく広大な土地。
 毎日朝早くから仕事のある彼女たちに通いは現実的ではないのだろう。
 

「ですので、リリアナ様のお世話が出来ると思ったら嬉しくて」
「……ん?」
「あの子たちも悪戯盛りの可愛い時期だろうな、と思ったらつい重ねてしまうのです」
「…………んん?」

“悪戯盛りの可愛い時期……?”

「あ、あのエッダ? 弟妹っていくつなのかしら」
「五歳です」
「五歳!」

 ――改めて言おう。
 私は二十歳である。

“ついでに悪戯じゃなくて魔法が失敗しただけなんですけどぉ!”

 知りたかった真実を得たものの、受けたダメージの方が多かった私は思わずがくりと項垂れた。


「五歳児と……一緒……」

 そりゃテオ師匠も留守番と宿題を言い付けるかもしれない。


“それが答えね”

 けれど項垂れつつも気になっていた答えを得られた私は、これも魔女の性なのだろう、好奇心が満たされたのを感じた。


「ねっ、折角だから街に遊びに行きたいわ!」
「街に、ですか?」
「私もっとエッダと仲良くなりたいもの」

 ちらっと『外に勝手に出ないように』というメルヴィの言い付けを思い出す。
 が。

“勝手に、じゃなければいいんでしょ?”

「私、メルヴィに報告してくるわ!」
「ちょ、リリアナ様!?」

 焦るエッダを無視し教えて貰っていた執務室へ向かった。


 仕事に戻ると言っていた通り、執務室で机に向かっていたメルヴィ。
 一応ノックはしたものの、返事も待たずに部屋へ入った私を彼の側近らしき人がギョッとして見てきたが、何も言われなかったことを良いことに無視をして。


「街に行ってきていいかしら!」
「ダメだよ」
「……へ?」

 当然すぐに頷いてくれると思っていただけにポカンとしてしまう。


「一人じゃないわよ? エッダと行くの」
「どうして?」
「どうしてって……」

 そんなことを聞かれても困ってしまう。
 
 ここに来るまでに来た石鹸のお店も気になるし、他にも見かけたお店だって気になっていた。
 折角私付きになってくれたのだから、もっと仲良くなりたいのも本心で。

“それに買い食いだってしてみたいけど”

 露店に並んでいた美味しそうな品々。
 誰かと買って食べたらとても美味しいだろうとそう思うものの、それらはメルヴィにはフランクすぎる。

“そりゃメルヴィと行けたら楽しいかもしれないけれど――”

 そう思ったからこそ、エッダを誘ったつもりだったのだが。

 
「初めて行くならば、その初めての相手は俺がいいんだが」
「え」
「だからどうしても行きたいと言うのなら」
「メルヴィが一緒に行ってくれるの!?」
「ッ」

“外出自体に難色を示していた訳じゃなかったのね!”

 メルヴィが一緒なら絶対楽しい。
 根拠のない自信が私の中にあり、思わずうきうきと喜んでしまった。


「あ、でもエッダ……」
「それは次回にして」
「!」

 しかも、どうやら次回の外出許可もくれたようで。

“つまりメルヴィも一緒に出掛けたかったってことなのね”

 そんな彼の、まるで幼い少年のような嫉妬に私は笑ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。 「お前との婚約は破棄だ」  ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!? ※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日20時に一話投稿となります。 ※他の投稿サイトにも掲載しています。 ※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...