-私のせいでヒーローが闇落ち!?-悪役令息を救え!

春瀬湖子

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レオンルート

4.お許しとお仕置きはイコールではない

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「で、どちらでしょうか?どちらでも許しませんけれど」
「⋯えっ」

警鐘のようにバクバクと心臓が鳴る。
“間違えた”とは理解したが“どう間違えた”かはわからないので上手くフォローが出来ずオロオロとするしか出来ない私に、レオン様はジリジリと距離を詰めてきて。

「お仕置きのレベルが変わりますのでお教え願えますか」
「お⋯っ、お仕置きですかっ!?」

“予言書、予言書にお仕置きなんて書いてあったかしら!?”

必死に記憶を辿るが何も思い出せない、というか私がヒロインを苛める、とかレオン様が私からヒロインを守る、といった部分ばかりで『私とレオン様』の予言なんてなかったはずで⋯


何を言えばいいかわからず、無意識に俯いてしまった私にそっとレオン様が手を伸ばしてきた。


「レ⋯オン、様⋯?」
「ーー⋯忘れないで下さい、僕は貴女を想っているのです」


くい、と軽く顎の下に添わせた指を持ち上げ俯いてしまった私の顔を持ち上げて。


「そして、貴女も僕を選んだんですから僕を誰よりも愛しているんです」

しれっと続けられた言葉に思わずぽかんとし、えっ?という疑問が口から溢れようと思わず半開きになったのだが⋯

「ーーんっ」

その少し開いた隙間から熱くざらりとした舌がすかさず入れられ、私の疑問は言葉にならずに口の中へ消えていった。

“ー⋯え、な、何⋯!?”

一拍遅れて彼の胸をドンと叩くが、騎士として日々鍛えているレオン様はびくともしない。
それどころか私の抵抗すらも包むかのようにピッタリと体をくっつけてくる。
彼の胸板で私の胸が潰れるのを感じるものの、そちらに気をやれば口内に入れられた舌が意識を呼ぶように蹂躙し、そちらに意識を戻せば更にぎゅうぎゅうと体を抱き締められた。

角度を変え貪るように口付けを交わし、足りなくなる酸素のせいなのか頭の奥がじわりと痺れる。

「んっ、は⋯っ」

キスの合間合間に必死に空気を吸うが、それすらも許さないと言わんばかりに何度も深く口付けられ⋯

「ーーー、ッ!?あ⋯っ!」

スルリと太股に這わされた手に驚き、反射的に仰け反り腕を突っ張った。
隙間なくピッタリと引っ付いていた私達の胸が離れると、太股を撫でている手とは反対の手が吸い付くように私の胸を持ち上げる。
そしてそのままもにもにと胸を握るように揉まれて。


「このまま子供を作るのもいいですね」
「こ⋯ども?」
「貴女のナカに全てぶつけたら、もう余所見なんてしませんよね?子供が出来れば世間体から貴女は絶対に逃げれませんし一石二鳥です」

ふふ、と耳元で掠れた笑い声が聞こえゾクリとする。

「いつか沢山産んで欲しいです⋯が、でも貴女と二人だけの時間も欲しいから困ったなぁ」

“何を⋯、何を言ってるの⋯?”

すりすりと太股は撫でられ、胸は彼の手のひらの中で何度も形を変えた。
そのどちらもを止める事は出来ず、まるで夢物語を語るように愉しそうに呟く彼の言葉を呆然と聞く。


“ていうか、そもそも余所見って⋯レオン様『が』余所見をして私を追い詰めるくせに⋯!!”

予言書に書かれた未来と違う現状は、彼がまだ『ヒロイン』と出会ってないせいだとすれば私にはあまりにも残酷だ。

だって“今”彼が向けている全てはヒロインと出会うまでの仮初めで、すぐに私を邪魔者だと⋯排除にかかると予言されているからー⋯


そう思ったら、何故か無性に苦しくて。


「すぐに私を捨てるって知ってるんだから⋯ッ」


気付けば私は彼にそう怒鳴り付けていた。



「ーーは?」

私の体をまさぐっていた手を止め、ぽかんとレオン様の濃い灰色の瞳が見開かれる。

「ヒロインと出会ったら、私が自死するよう追い詰めるくせに!」
「セシリス様、落ちつ⋯」
「それとも今この状態から全て計算ですか!?」
「な⋯なにを、セシリ⋯」
「私を求めるフリして最後に突き放すんでしょ!絶対騙されたりなんか⋯っ」
「セシリス!!」

怒鳴るような大声で名前を呼ばれビクリと肩が跳ねる。
少し怖々としながら彼の表情を確認すると、怒鳴ったはずの彼の方が懇願するような、それでいて誰よりも傷ついたかのような顔をしていて思わず息を呑んだ。


「レオン様⋯?」
「どうして、なんで僕が貴女を追い詰めるなんて思ったのですか?それに先程の言い方だとまるで僕が貴女の死を望んでいるかのような⋯」

困惑と悲壮が彼の表情から伝わり胸が締め付けられた。

「それは⋯」

“予言書に書かれていたから”

だけど。

“その予言は、未来の彼の事で今現在の彼とは違うのね⋯”

予言にあった未来を変えようとしている私自身が、誰よりも予言に縛られていたのだと気付く。
そしてその“未来”を彼に押し付けていたのだと知った。


“私は変わるわ、予言書の通りにならないために。そしてそれは、彼も同じなのかも知れないわね⋯”

現在を変えれば未来が変わるように。
私が変われば彼も変わる。

そんな『当たり前』に気付かず自分の発言はとても不誠実だったと今更ながらに後悔した私は⋯


「⋯ごめん、なさい⋯レオン様」

そう本心から彼に謝罪した。
そんな私に返ってきた返答は。


「はい、許しません」
「許してはくださらないっ!?」

にこりと微笑み許さないと断言され反射的に返事をする。

“失礼だったとは思うけど、そんなにいい笑顔で拒否されるのは予想外だわ⋯!?”

しかし動揺する私に続けられたのは⋯

「レオ、とお呼びください」
「レ⋯オ?」
「僕の愛称です。貴女がそう呼んでくれるならそれで許しますよ」

熱っぽい視線が甘く絡み、じわりと胸が熱くなる。

「レオ⋯」
「はい」
「レオ」
「なんでしょうか」
「⋯私の事も、セリ、と⋯」

呟くようにそう告げると、一瞬きょとんとした彼はすぐに破顔して。

「嬉しいです、セリ」
「んっ」

そっと啄むようなキスが1つ降ってきた。
そして再び彼の手のひらが私の胸に這わされる。

「ーーッ、待⋯っ、んんっ」

制止しようと口を開くとすかさず舌が入れられ、そのまま勢いを増す彼の手は私の胸の先端を狙って執拗に刺激を与えてきて⋯

「こ、ここは⋯っ、外⋯っ!」

キスの合間になんとか告げる。
ーー⋯が。

「はい、知っていますよ」
「え⋯!?」

ならなんで!と驚愕する私とは対照にクスクスとそれはもう楽しそうに、そしてあざとく小首を傾げた。

「お仕置きです」
「そっちは続行なんですかっ!?」

“許してくれたはずなのに、お仕置きは別だったの⋯!?”

驚く私を楽しむように裾をたくしあげ脚を撫でられ、胸を繰り返し強く刺激される。
その全ての動きが私を熱くして⋯

「服は脱がしていないのでお仕置きレベルは初級ですよ」
「ひぃぃっ」

笑っていない濃い灰色の瞳の闇に背筋が凍る。


“これが初級で、最終的には自死を選ぶよう追い詰められる⋯?”

ふとそう頭を過り、本当に今与えられている“初級のお仕置き”の“先”が自死なのか少し疑問を持つもののぶっちゃけ私はそれどころではなくて。


「も、ゆ、許してぇ~~~っ!!」
「えぇ、もちろんもう許してますよ、お仕置きしているだけなので」
「ひゃぁぁあっ!」


平然とする彼の腕の中で、とんでもないものに捕まったのではと少し震える。
そんな現状に私はただいっぱいいっぱいだった。






「ーーーセリ、君の憂いは僕が全部潰してあげますね⋯」

だからこそ、今思えばこの時に予言書の『配役』が変わったのだと、その時はまだ気付けなかったのだ。
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