婚約破棄の前に、ぶっ飛ばしてもいいですか?

亜綺羅もも

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「お、お久しぶりです、リカルド様」
「ああ……」

 ジロリと私を睨むリカルド様。
 良い人なはずなのだけれど……やはり相変わらず怖い。
 私は緊張感を高めながら話を続ける。

「実はミゲイル様のことでお話が……」
「ミゲイルのことか……まぁ君が私に話があるというのは、あいつ以外のことはなさそうだから想像はできていたが……どういった件だ?」

 リカルド様は近くにあった椅子を指差し、私に座るよう促す。
 私は椅子に座り、小さく手を震わせる。
 ダメだ。まだ緊張しっぱなしだ。
 この方は見た目が怖いだけなのよ。
 悪い人じゃないの。
 だからそんなに怖がる必要ないのよ、私。

「……水を飲め」
「あ、ありがとうございます」

 私は汗もかいていたらしく、リカルド様は水を差しだしてくれた。
 相変わらず私を睨んでいるが、優しさを感じる。
 その行為に私は若干リラックスしていた。

「ミゲイル様なのですが……」
「ああ」
「実はどうやら、浮気をしているようなのです」
「何?」

 また一段と鋭い視線を渡しに向けるリカルド様。
 私はビクッと身体を震わせガタガタ震え出す。

「……その話は本当なのか?」
「十中八九……残材証拠を集めているところでございます」
「そうか……しかしルーティ。何故そんなに君は緊張しているのだ?」
「えっと……その」
「ハッキリ言ってみろ」

 私はゴクリと喉を鳴らし、恐る恐る話す。

「あの……リカルド様に睨まれているのが、その……怖くて」
「……睨む? 私は睨んでなどいないぞ」
「睨んでいますけど? 睨まれ過ぎて怖いですけど」
「…………」

 リカルド様は私から視線を逸らし、大きくため息をつく。

「……睨んでいるつもりなどないのだがな……だが、君を怖がらせているのは事実のようだな。すまなかった」
「い、いえ……別に構いません」

 リカルド様は難しそうな顔をしながらこちらを見る。
 引きつった口元に目元もピクピクしており、別の意味で怖い表情を浮かべていた。

「こ、これならどうだ?」
「いや、それもそれで怖いです」
「…………」

 リカルド様は少し頬を染め、私からまた目を逸らす。
 ああ、怖いと言ったことに気を使ってくれているんだ。
 そんな彼の気持ちとその態度に、なんだか笑いが込み上げてきて、私は口元に手を当てる。

「……笑っているだろ、ルーティ」
「いえ。笑っていませんよ」

 バツが悪そうな顔をするリカルド様。
 何度か会ったことがあるがいつもミゲイル様がいたからしっかりと話をすることは無かったが……
 リカルド様の意外な優しい雰囲気に、私はいつの間にか胸をほっこりとさせていた。
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