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「ヒメラルダ。君を選んで良かった。シルビアと結ばれるより、僕は幸せだ」

 シェイクはヒメラルダの眩しい笑みに釘付けとなっている。
 シルビアがソルディッチから離れ、一ヶ月が経過しようとしていた。
 彼女がいなくなった屋敷にヒメラルダを住ませ、シェイクは甲斐甲斐しく毎日そこに足を運んでいるのだ。
 あまりにも美しいヒメラルダ。

 彼女さえいれば他には何もいらない。
 シルビアとの婚約は間違いだった。彼女を選択した僕の考えは正しかった。
 それにやはり、聖女の言い伝えも嘘だったじゃないか。
 何が聖女だ。
 彼女がいなくなっても何も変化が起きていないではないか。
 先祖たちも騙され続けていたのだ。
 母上も悪い人ではなかったが、結果として父上を騙していたんだな。

 シェイクは歴代の聖女のことを呪うかのように、天井を睨み付けていた。
 だがハッとし、ヒメラルダの方に視線を戻す。

「すまない。少し考え事をしていたんだ。怖い顔をして怖がらせてしまったかな?」

 何も喋らず、ヒメラルダは笑顔を返すだけ。
 シェイクはそんな彼女の笑みに心を奪われていた。

 屋敷を出て、町の中を歩くシェイク。
 町の住人たちは彼の顔を見るり頭を下げ、次期王である彼を敬っている様子。
 そして町の住人の誰もが考えていた。
 聖女の話は嘘だったんだ。
 自分たちはこうして幸せに生活できている。
 聖女などいなくても、自分たちに問題などないのだと。
 
 聖女の伝承を半信半疑だった人たちも、ついにはそれが偽りであったと思い始めていた。

 事実として、何もないのだから。
 皆無事平穏に生活しているのだから。
 聖女がいなくなってもなんら変化がないのだから。

 だけどもしかしたら……そう考えていた連中も、いつしか結局嘘だったのかと安堵していく。
 町の全ての住人が聖女の伝承を嘘だったと断定するのに、そう時間はかからなかった。
 シルビアがいなくなって一ヶ月。
 その頃には全員が全員、聖女の話を信じてなくなっていた。

 やはり僕も父上も正しかったのだ。
 それみたことか。

 シェイクはシルビアの住んでいた家屋――今は廃墟となった建物へと足を運び、ふんと鼻を鳴らしていた。
 淀んだ空気の建物の中を一通り見渡し、彼は踵を返す。

「この建物もさっさと壊してくれ。忌々しい」
「はっ」

 シェイクに仕えていた者が、直ちに建物の解体にかかった。
 そんな彼らの様子を横目に、シェイクは城へと戻っていく。
 
 揚々とした気分で帰路を行くシェイク。
 自国の終わりがすぐそこまで近づいているとは露知らず……
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