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12監禁?
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休日を彩人と一緒に過ごした。
取り留めのないお喋りをしたり、波奈が料理するのを彩人が眺めていたり……と、特に何をするわけでもなく、時間が過ぎていった。
六年間のブランクはあるものの、それ以前は、幼い頃から、多くの時間をともにしてきた。
一緒にいるうちに、あの頃、流れていた二人の空気感を波奈は思い出していった。
明日の仕事の準備をしていた時だった。
彩人に、仕事に行かなくてもよい、と言われる。
「……どういうこと?」
「しばらく休みって連絡した」
「……なんでそんな勝手なことするの」
波奈は時間給で働いている。
仕事に行かなければ、そのぶん給料が減るのだ。
「僕はハナをここに監禁してるんだから。どこにも行かせたりしないよ」
犯罪じみたことを言っているのに、彩人の口調は明るい。
「……監禁って……馬鹿なこと言わないで。仕事終わったら、帰ってくるから……他に行く場所もないし」
「だめ」
「アヤ……私にも生活があるの。アヤのような御曹司様には理解できないかもしれないけれど、働かなきゃ食べていけない。何日も休んだら、クビになっちゃう」
「大丈夫。ハナの仕事先、うちの系列の工場だから」
何でもないことのように、さらりと言われ、波奈は固まる。
偶然とは思えなかった。
波奈に仕事先を紹介してくれたのは、このアパートの大家だ。
アパートを紹介してくれたのは、以前住んでいたマンションのオーナーで。
波奈にマンションを紹介したのは、彩人の母だった。
彩人の母は、波奈のことを見張っていたのだろうか。
それともたんに波奈のことが心配で、仕事を融通してくれたのか。
「ねえ、ハナ。言うことをきいて。無理矢理、辞めさせることだってできるんだよ」
考えを巡らせていると、彩人が再び物騒なことを口にする。
「アヤはいったい、何がしたいの?」
「一緒にいたいだけだよ、ハナ」
彩人の休暇はひと月だと言っていた。
さすがに仕事を休んでまで、こんな馬鹿げたことを続けたりはしないだろう。
波奈は彩人の母に、僅かずつだが、六年前渡されたお金を返却していた。
おそらく手切れ金のつもりだったのだろうが、返さなければ落ち着かなかった。
そんな波奈の気持ちを察してか、彩人の母も振込先を教えてくれていた。
来月、返すつもりで、貯めていたお金がある。
ひと月ならば、それを使い回せばなんとかなりそうだ。
――節約生活になりそうだけれど……。
おおごとにして、彩人を犯罪者にしたくない以上、波奈が折れるしかなかった。
***
まだ幸せだった頃――。
これからも何不自由ない日常が続いていくのだと、信じて疑わなかった頃。
彩人と結婚したら、どんな生活を送ることになるのだろうと想像していた。
彩人が波奈の部屋に住み着くようになって、一週間が経過していた。
一日中、部屋にこもりっきりだ。
暇を持て余すと思ったけれど、時間はあっという間に過ぎていった。
波奈の家にある唯一の娯楽はテレビくらいなのだが、普段、彼はテレビを見ることがないのだろう。
興味深げに見ては、「今のはどういう意味なの」「この人、有名なの? コメディアン?」などと、訊ねてきた。
波奈はそのたびに、丁寧に答えた。
もちろん波奈もそうテレビばかり観ていないので、知らない芸能人もたくさんいたけれど。
洗濯をしたり掃除をしたり、料理をしたり。
風呂掃除や洗い物は、彩人がすすんでやってくれた。
そして、夜はひとつの布団で、眠った。
1Kの狭い部屋。
布団は一人用だし、ふかふかでもない。
浴室も狭いし、食事も質素だ。
彩人はこんな暮らしに不満はないのだろうか、と思うけれど、始終機嫌良いように見えた。
慣れない生活を楽しんでいるふしすらあった。
――この生活を嫌になって、飽きてくれればいいのに……
そうしたらこの部屋から、出て行くに違いない。
あれから、何度も納得させようと、話をするものの、ずっと平行線だった。
六年前、黙って消えたせいか、彩人も意地になっている気がした。
取り留めのないお喋りをしたり、波奈が料理するのを彩人が眺めていたり……と、特に何をするわけでもなく、時間が過ぎていった。
六年間のブランクはあるものの、それ以前は、幼い頃から、多くの時間をともにしてきた。
一緒にいるうちに、あの頃、流れていた二人の空気感を波奈は思い出していった。
明日の仕事の準備をしていた時だった。
彩人に、仕事に行かなくてもよい、と言われる。
「……どういうこと?」
「しばらく休みって連絡した」
「……なんでそんな勝手なことするの」
波奈は時間給で働いている。
仕事に行かなければ、そのぶん給料が減るのだ。
「僕はハナをここに監禁してるんだから。どこにも行かせたりしないよ」
犯罪じみたことを言っているのに、彩人の口調は明るい。
「……監禁って……馬鹿なこと言わないで。仕事終わったら、帰ってくるから……他に行く場所もないし」
「だめ」
「アヤ……私にも生活があるの。アヤのような御曹司様には理解できないかもしれないけれど、働かなきゃ食べていけない。何日も休んだら、クビになっちゃう」
「大丈夫。ハナの仕事先、うちの系列の工場だから」
何でもないことのように、さらりと言われ、波奈は固まる。
偶然とは思えなかった。
波奈に仕事先を紹介してくれたのは、このアパートの大家だ。
アパートを紹介してくれたのは、以前住んでいたマンションのオーナーで。
波奈にマンションを紹介したのは、彩人の母だった。
彩人の母は、波奈のことを見張っていたのだろうか。
それともたんに波奈のことが心配で、仕事を融通してくれたのか。
「ねえ、ハナ。言うことをきいて。無理矢理、辞めさせることだってできるんだよ」
考えを巡らせていると、彩人が再び物騒なことを口にする。
「アヤはいったい、何がしたいの?」
「一緒にいたいだけだよ、ハナ」
彩人の休暇はひと月だと言っていた。
さすがに仕事を休んでまで、こんな馬鹿げたことを続けたりはしないだろう。
波奈は彩人の母に、僅かずつだが、六年前渡されたお金を返却していた。
おそらく手切れ金のつもりだったのだろうが、返さなければ落ち着かなかった。
そんな波奈の気持ちを察してか、彩人の母も振込先を教えてくれていた。
来月、返すつもりで、貯めていたお金がある。
ひと月ならば、それを使い回せばなんとかなりそうだ。
――節約生活になりそうだけれど……。
おおごとにして、彩人を犯罪者にしたくない以上、波奈が折れるしかなかった。
***
まだ幸せだった頃――。
これからも何不自由ない日常が続いていくのだと、信じて疑わなかった頃。
彩人と結婚したら、どんな生活を送ることになるのだろうと想像していた。
彩人が波奈の部屋に住み着くようになって、一週間が経過していた。
一日中、部屋にこもりっきりだ。
暇を持て余すと思ったけれど、時間はあっという間に過ぎていった。
波奈の家にある唯一の娯楽はテレビくらいなのだが、普段、彼はテレビを見ることがないのだろう。
興味深げに見ては、「今のはどういう意味なの」「この人、有名なの? コメディアン?」などと、訊ねてきた。
波奈はそのたびに、丁寧に答えた。
もちろん波奈もそうテレビばかり観ていないので、知らない芸能人もたくさんいたけれど。
洗濯をしたり掃除をしたり、料理をしたり。
風呂掃除や洗い物は、彩人がすすんでやってくれた。
そして、夜はひとつの布団で、眠った。
1Kの狭い部屋。
布団は一人用だし、ふかふかでもない。
浴室も狭いし、食事も質素だ。
彩人はこんな暮らしに不満はないのだろうか、と思うけれど、始終機嫌良いように見えた。
慣れない生活を楽しんでいるふしすらあった。
――この生活を嫌になって、飽きてくれればいいのに……
そうしたらこの部屋から、出て行くに違いない。
あれから、何度も納得させようと、話をするものの、ずっと平行線だった。
六年前、黙って消えたせいか、彩人も意地になっている気がした。
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