【R18】優しい嘘と甘い枷~もう一度あなたと~

イチニ

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12監禁?

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 休日を彩人と一緒に過ごした。
 取り留めのないお喋りをしたり、波奈が料理するのを彩人が眺めていたり……と、特に何をするわけでもなく、時間が過ぎていった。

 六年間のブランクはあるものの、それ以前は、幼い頃から、多くの時間をともにしてきた。
 一緒にいるうちに、あの頃、流れていた二人の空気感を波奈は思い出していった。


 明日の仕事の準備をしていた時だった。
 彩人に、仕事に行かなくてもよい、と言われる。

「……どういうこと?」
「しばらく休みって連絡した」
「……なんでそんな勝手なことするの」

 波奈は時間給で働いている。
 仕事に行かなければ、そのぶん給料が減るのだ。
 
「僕はハナをここに監禁してるんだから。どこにも行かせたりしないよ」

 犯罪じみたことを言っているのに、彩人の口調は明るい。

「……監禁って……馬鹿なこと言わないで。仕事終わったら、帰ってくるから……他に行く場所もないし」
「だめ」
「アヤ……私にも生活があるの。アヤのような御曹司様には理解できないかもしれないけれど、働かなきゃ食べていけない。何日も休んだら、クビになっちゃう」
「大丈夫。ハナの仕事先、うちの系列の工場だから」

 何でもないことのように、さらりと言われ、波奈は固まる。
 偶然とは思えなかった。

 波奈に仕事先を紹介してくれたのは、このアパートの大家だ。
 アパートを紹介してくれたのは、以前住んでいたマンションのオーナーで。
 波奈にマンションを紹介したのは、彩人の母だった。

 彩人の母は、波奈のことを見張っていたのだろうか。
 それともたんに波奈のことが心配で、仕事を融通してくれたのか。

「ねえ、ハナ。言うことをきいて。無理矢理、辞めさせることだってできるんだよ」

 考えを巡らせていると、彩人が再び物騒なことを口にする。

「アヤはいったい、何がしたいの?」
「一緒にいたいだけだよ、ハナ」

 彩人の休暇はひと月だと言っていた。
 さすがに仕事を休んでまで、こんな馬鹿げたことを続けたりはしないだろう。

 波奈は彩人の母に、僅かずつだが、六年前渡されたお金を返却していた。
 おそらく手切れ金のつもりだったのだろうが、返さなければ落ち着かなかった。
 そんな波奈の気持ちを察してか、彩人の母も振込先を教えてくれていた。
 来月、返すつもりで、貯めていたお金がある。
 ひと月ならば、それを使い回せばなんとかなりそうだ。

 ――節約生活になりそうだけれど……。

 おおごとにして、彩人を犯罪者にしたくない以上、波奈が折れるしかなかった。


   ***

 まだ幸せだった頃――。
 これからも何不自由ない日常が続いていくのだと、信じて疑わなかった頃。

 彩人と結婚したら、どんな生活を送ることになるのだろうと想像していた。


 彩人が波奈の部屋に住み着くようになって、一週間が経過していた。
 一日中、部屋にこもりっきりだ。
 暇を持て余すと思ったけれど、時間はあっという間に過ぎていった。

 波奈の家にある唯一の娯楽はテレビくらいなのだが、普段、彼はテレビを見ることがないのだろう。
 興味深げに見ては、「今のはどういう意味なの」「この人、有名なの? コメディアン?」などと、訊ねてきた。
 波奈はそのたびに、丁寧に答えた。
 もちろん波奈もそうテレビばかり観ていないので、知らない芸能人もたくさんいたけれど。

 洗濯をしたり掃除をしたり、料理をしたり。
 風呂掃除や洗い物は、彩人がすすんでやってくれた。
 そして、夜はひとつの布団で、眠った。

 1Kの狭い部屋。
 布団は一人用だし、ふかふかでもない。
 浴室も狭いし、食事も質素だ。

 彩人はこんな暮らしに不満はないのだろうか、と思うけれど、始終機嫌良いように見えた。
 慣れない生活を楽しんでいるふしすらあった。

 ――この生活を嫌になって、飽きてくれればいいのに……

 そうしたらこの部屋から、出て行くに違いない。

 あれから、何度も納得させようと、話をするものの、ずっと平行線だった。
 六年前、黙って消えたせいか、彩人も意地になっている気がした。
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