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第1章 婚約破棄の慰謝料が石ころだった件。
【7.犯罪者たち 後編】
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「ここの執事が犯罪組織と繋がっていると調べがついていますよ」
とワートン公爵夫人が低い声でゆっくりと言った。
「な……! 母上……!」
「ちょうど土地売買の件を調べてもらっていたところで、リリエッタ嬢の慰謝料のゴタゴタを聞いたものだから、これはよっぽどまずいことになっていると確信してすぐに来たのです。婚約破棄ですら領地で聞いて何をやっているのと情けなく思っていたのに、慰謝料も犯罪組織にだまし取られ……。もう悲しいですよ、わたくしは」
「母上……」
アーゼルは母に叱られ肩身狭そうに小さくなった。
ワートン公爵夫人の方は申し訳なさそうにリリエッタの方を向いた。
「リリエッタ嬢、本当に申し訳ないわ。慰謝料はわたくしが立て替えてもよろしい?」
リリエッタは恐縮して答えた。
「ワートン公爵夫人、私はそんな慰謝料には固執していたわけではないのです。ただ石ころで済ませばいいと慰謝料をまともに払う気がない姿勢の方が嫌だっただけで……。まあでも、アーゼル様は払えと命じたと言っていたので、払う気があったのはよかったです。逆に、払う気があって払われていないのは、アーゼルの邸でよくないことが起こっているのではないかと思いましたが……」
「ええ。慰謝料のこと、わたくしに知らせてくれてありがとう。おかげですぐに動けたわ」
「あ、それはヘルベルトのおかげなのですが……」
すると、リリエッタの従者と一緒にしばらく席を外していたヘルベルトが、数人の男を引き連れて戻って来た。
「ワートン公爵夫人。一先ず執事と出納係を捕まえてきました。逃げようとしていましたよ、まったく」
それから、ヘルベルトはリリエッタの家で捕まえた使者ジャン・ワートンをずいっと押し出した。
ワートン公爵夫人は、身内のくせに家を裏切ったジャン・ワートンをじっと見つめた。
慰謝料が消えた件について、どのときの状況がどのようなものだったのか、ジャン・ワートンからしっかり話を聞こうと思っていた。
しかし、その前にリリエッタが申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません、ジャン・ワートンさんを拘束していることなんですけど。以前慰謝料がアーゼル様から送られてきたとき、こちらのジャン・ワートンさんも使者として木箱を開けるのに同席していたんですね。それで私と一緒に木箱には石ころしか入ってなかったのを見ているんですけど……。でも、ジャン・ワートンさんは、アーゼル様には木箱にはお金がちゃんと入っていたと嘘をついたので、どういうことかと思って捕まえたんです。そうしたら、脅されていると白状しましたので、こうして拘束を……」
それを聞くとワートン公爵夫人は眉を顰めた。
「まあ。脅すことまでやるの、こいつらは……」
「ジャン・ワートンさん。あなたを脅したのはこちらの執事さんですか?」
リリエッタは聞いた。
「あ……」
気弱なジャン・ワートンはかなり怯えた様子でちらりと執事を見た。
犯人が誰か言ってはいけないとジャン・ワートンは強く思っていたが、目は口ほどにものを言う。ジャン・ワートンの怯えた目は執事が犯人だと語っているようなものだった。
その視線の意味に気づいたリリエッタは、
「ああ、この執事なのね。分かりました。では、あとはこの出納係たちが仲間かどうかですね。それは一人一人取り調べさせていただきましょう。そうしたら執事の手口や犯罪の証拠も出てくるかもしれませんね」
と言った。
執事は逃げ遅れたことを悔やみ、悔しそうに唇を噛んでいた。
ヘルベルトはうまいこと隠れながら捜査していたのだろう、アーゼルの執事には気付かれていなかったとみえる。
執事は、まさか捕まるようなへまを犯すなんてと心の中で嘆いていた。
ワートン公爵夫人は領地から連れてきた従者たちに大きく頷いて見せた。
執事や出納係の身柄を拘束し、取り調べが全て終わるまで厳重に管理せよとの意味だった。
ワートン公爵夫人の信頼の厚い従者たちは、その指示をよく理解し、執事や出納係たちを連れて部屋から出て行った。
アーゼルは真っ青な顔をしていた。自分の至らなさがよくよく分かったようだ。
横では、エミリーが存在感を極力消そうと努めている。
ワートン公爵夫人は息子の情けなさにため息をつきながら、
「アーゼル。あなたは怠慢だったわね。あなたには家は任せられない。分かったわね」
と言った。
「はい……」
「それからエミリー嬢。こんな体たらくの息子にしっかりしていない嫁はいりません。結婚は認めませんから。お家へお帰りなさい」
ワートン公爵夫人の言葉に、エミリーはぱあっと顔を明るくした。
「あ、ああ、そうですよね!」
アーゼルが家を継げないと分かり、エミリーは手のひらを返したようにアーゼルを斬り捨てることにしたらしい。
そんな浅ましい様子のエミリーを見て、ワートン公爵夫人はうんざりした顔になった。
「ですけどね、エミリー嬢。リリエッタとの婚約中にあなたがアーゼルと付き合っていたという噂もわたくしのところまで届いていますよ。ですから、リリエッタ嬢はあなたからも慰謝料を取れると思うわ。しっかり払っていただくようにお願いしますね」
「えええ~!? なんで私が慰謝料なんて払うんですか? 屈辱です! 私、女なんですけど!」
あまり事の重大さが分かっていないエミリーが唇を尖らせた。
地味女からイケメン公爵令息を奪ってやったとほくそ笑んでいたというのに、なんで逆に私が地味女にお金を払うことになるわけ? 悔しい!
せっかく捕まえたと思ったイケメン公爵令息も家を継げないというんじゃお役御免よ、婚活やり直しだし、ホント最悪!
ワートン公爵夫人はもうまともにエミリーと話す気は失せていた。眉を顰め顔を背けると、
「浮気が原因の婚約破棄は女性側も慰謝料を払って当然です。払わないというのであれば、わたくしからも然るべきところに訴えます」
と冷たく言い放った。
それから不快な者と距離を置きたいというように、しっしっとエミリーを部屋から追い出したのだった。
とワートン公爵夫人が低い声でゆっくりと言った。
「な……! 母上……!」
「ちょうど土地売買の件を調べてもらっていたところで、リリエッタ嬢の慰謝料のゴタゴタを聞いたものだから、これはよっぽどまずいことになっていると確信してすぐに来たのです。婚約破棄ですら領地で聞いて何をやっているのと情けなく思っていたのに、慰謝料も犯罪組織にだまし取られ……。もう悲しいですよ、わたくしは」
「母上……」
アーゼルは母に叱られ肩身狭そうに小さくなった。
ワートン公爵夫人の方は申し訳なさそうにリリエッタの方を向いた。
「リリエッタ嬢、本当に申し訳ないわ。慰謝料はわたくしが立て替えてもよろしい?」
リリエッタは恐縮して答えた。
「ワートン公爵夫人、私はそんな慰謝料には固執していたわけではないのです。ただ石ころで済ませばいいと慰謝料をまともに払う気がない姿勢の方が嫌だっただけで……。まあでも、アーゼル様は払えと命じたと言っていたので、払う気があったのはよかったです。逆に、払う気があって払われていないのは、アーゼルの邸でよくないことが起こっているのではないかと思いましたが……」
「ええ。慰謝料のこと、わたくしに知らせてくれてありがとう。おかげですぐに動けたわ」
「あ、それはヘルベルトのおかげなのですが……」
すると、リリエッタの従者と一緒にしばらく席を外していたヘルベルトが、数人の男を引き連れて戻って来た。
「ワートン公爵夫人。一先ず執事と出納係を捕まえてきました。逃げようとしていましたよ、まったく」
それから、ヘルベルトはリリエッタの家で捕まえた使者ジャン・ワートンをずいっと押し出した。
ワートン公爵夫人は、身内のくせに家を裏切ったジャン・ワートンをじっと見つめた。
慰謝料が消えた件について、どのときの状況がどのようなものだったのか、ジャン・ワートンからしっかり話を聞こうと思っていた。
しかし、その前にリリエッタが申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません、ジャン・ワートンさんを拘束していることなんですけど。以前慰謝料がアーゼル様から送られてきたとき、こちらのジャン・ワートンさんも使者として木箱を開けるのに同席していたんですね。それで私と一緒に木箱には石ころしか入ってなかったのを見ているんですけど……。でも、ジャン・ワートンさんは、アーゼル様には木箱にはお金がちゃんと入っていたと嘘をついたので、どういうことかと思って捕まえたんです。そうしたら、脅されていると白状しましたので、こうして拘束を……」
それを聞くとワートン公爵夫人は眉を顰めた。
「まあ。脅すことまでやるの、こいつらは……」
「ジャン・ワートンさん。あなたを脅したのはこちらの執事さんですか?」
リリエッタは聞いた。
「あ……」
気弱なジャン・ワートンはかなり怯えた様子でちらりと執事を見た。
犯人が誰か言ってはいけないとジャン・ワートンは強く思っていたが、目は口ほどにものを言う。ジャン・ワートンの怯えた目は執事が犯人だと語っているようなものだった。
その視線の意味に気づいたリリエッタは、
「ああ、この執事なのね。分かりました。では、あとはこの出納係たちが仲間かどうかですね。それは一人一人取り調べさせていただきましょう。そうしたら執事の手口や犯罪の証拠も出てくるかもしれませんね」
と言った。
執事は逃げ遅れたことを悔やみ、悔しそうに唇を噛んでいた。
ヘルベルトはうまいこと隠れながら捜査していたのだろう、アーゼルの執事には気付かれていなかったとみえる。
執事は、まさか捕まるようなへまを犯すなんてと心の中で嘆いていた。
ワートン公爵夫人は領地から連れてきた従者たちに大きく頷いて見せた。
執事や出納係の身柄を拘束し、取り調べが全て終わるまで厳重に管理せよとの意味だった。
ワートン公爵夫人の信頼の厚い従者たちは、その指示をよく理解し、執事や出納係たちを連れて部屋から出て行った。
アーゼルは真っ青な顔をしていた。自分の至らなさがよくよく分かったようだ。
横では、エミリーが存在感を極力消そうと努めている。
ワートン公爵夫人は息子の情けなさにため息をつきながら、
「アーゼル。あなたは怠慢だったわね。あなたには家は任せられない。分かったわね」
と言った。
「はい……」
「それからエミリー嬢。こんな体たらくの息子にしっかりしていない嫁はいりません。結婚は認めませんから。お家へお帰りなさい」
ワートン公爵夫人の言葉に、エミリーはぱあっと顔を明るくした。
「あ、ああ、そうですよね!」
アーゼルが家を継げないと分かり、エミリーは手のひらを返したようにアーゼルを斬り捨てることにしたらしい。
そんな浅ましい様子のエミリーを見て、ワートン公爵夫人はうんざりした顔になった。
「ですけどね、エミリー嬢。リリエッタとの婚約中にあなたがアーゼルと付き合っていたという噂もわたくしのところまで届いていますよ。ですから、リリエッタ嬢はあなたからも慰謝料を取れると思うわ。しっかり払っていただくようにお願いしますね」
「えええ~!? なんで私が慰謝料なんて払うんですか? 屈辱です! 私、女なんですけど!」
あまり事の重大さが分かっていないエミリーが唇を尖らせた。
地味女からイケメン公爵令息を奪ってやったとほくそ笑んでいたというのに、なんで逆に私が地味女にお金を払うことになるわけ? 悔しい!
せっかく捕まえたと思ったイケメン公爵令息も家を継げないというんじゃお役御免よ、婚活やり直しだし、ホント最悪!
ワートン公爵夫人はもうまともにエミリーと話す気は失せていた。眉を顰め顔を背けると、
「浮気が原因の婚約破棄は女性側も慰謝料を払って当然です。払わないというのであれば、わたくしからも然るべきところに訴えます」
と冷たく言い放った。
それから不快な者と距離を置きたいというように、しっしっとエミリーを部屋から追い出したのだった。
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